#12 終幕

「悪かったな」

 紅ヤマトをザ・ロワイヤルに引き渡し、俺とウルフレディはアジトまで戻っていた。

「何がだ」

「今回の依頼だ」

 結果を見れば、俺の任務は失敗だ。

 テキーラ・ウルフを殺した下手人を殺すことはできず、ヴィランからの依頼をあろうことかヒーローに引き渡す始末。

 我ながら、蝙蝠野郎と蔑まれても仕方がない。

「だから今回は手付金も、用意ができたら返金……」

「お前の口座に、既に成功報酬二億振り込んでおいた」

「……は?」

「お前も言っていただろう。紅ヤマトは既に、ヒーローとして死んだようなものだと」

「ありゃ言葉の綾ってやつでな?」

「成功報酬は一億だったが、色がついているのは、また次の依頼に対しての手付金も込みだ」

「まだなんかやらせる気かよ」

「マナヒコ」

 ウルフレディは俺の目をじっと見つめた。

「……何だよ」

「ウルフが死に、紅ヤマトもあのザマだ。ザ・ロワイヤルはどうも隠蔽の方向性で動きたいようだが、お前がジェイク・フィールドまで呼んだせいでそれもままならなさそうだ。成り行きを目撃した中堅や若手のヒーローが何人もついてきていた」

「だから?」

「ウルフの死だけでも厄介なのに、ヒーローの柱すらもなくなれば、更にこの国は荒れるだろう。だがマナヒコ、そういう時だからこそお前のような人材は必要だ」

 ウルフレディはにやりと笑った。

「お前はその立ち位置から、私のみならず、ヒーローも、クソ傭兵どもプロヒーローすらも結果的に巻き込んだ。ヒーローでもヴィランでもないと自虐するお前だが、お前だからこそ治めらる事態も、ある。ふん、ジェイクやクソ傭兵どもに依頼を取られる前に唾をつけておこう、というわけだ」

「そりゃ……ありがたい」


 ウルフレディの言う通り。テキーラ・ウルフは死んだ。紅ヤマトも、また死んだ。

 時代は否応なく流転するだろう。

 その時代に俺が何をできるともわからないが、ここに必要とするものが確かにいると言うのなら、応えられる。

 そう。俺は綾蔵真名彦。金を詰めば、誰でも見つけ出して始末をする殺し屋。


「追って次のターゲットは伝えよう。ふん、もうはするなよ」


 ウルフレディはそれだけ言って、アジトから出て行く。相変わらずけたたましい音をたてる扉を開いて。


 俺は自分の携帯端末を開いた。ヒーローコミュニティには既に例の噂が広まっている。

 俺はコミュニティへの連絡手段を消そうとして……やめた。

 必要と言うのならば、俺は俺の立場で自分を貫こうではないか。

 テキーラ・ウルフや紅ヤマトのように、死ぬことなく。



『テキーラ・ウルフが死んだ』THE END.

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