異世界より
紫陽_凛
前提
「四人に一人はご老人」って言いはじめて何年経ったかわからないけどあたしのホームタウンは二人に一人ご老人って感じで、今もほら、銀行のATMの前に三人おばあさんが並んでる。前の人もその前の人もさらに前の人も、どう見たってご高齢だ。彼女たちはこの街に満足してるのだろうか。きっと満足してるんだろう。知らないけど。
他人の暮らしのことなんか知ったことか。
とにかく娯楽に飢えた街だ。吉幾三が歌ったほど寂れてはいないけれど、映画館もなければ商業施設もない。空は広くて山は広大で熊がよく出る。サイゼリヤもマックも隣町にしかなくて片道三十分かかる。働いて働いても金を使うのは通販くらい。端的に馬鹿みたいな暮らし。
文明からかけ離れすぎたこの街に飽きて、私は常にSNSに入り浸り、そこから文明だけを摂取する。東京のどこそこのかき氷が美味しいとか、スフレが名物のお店とか、どう考えても食べられないものの情報ばかり浴びては、味を想像する間もなく次の情報へ喰らいついてく。あたしは知ってるのだ、どうやったってかき氷もスフレも食べられないし、東京を妬んでもこの街を疎んでも仕方がないことなのだって。
ATMが空いた。私は小さなボックス状の機械の前に立ち、手早く引き落としを済ませる。今月の生活費、お小遣い。ついでに記帳もしちゃおう。出てきた通帳を見てため息をつく。最低賃金暮らしは楽じゃない。
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