第9話 食材を探して 合いびき肉=???

 食材探しの道中で、ホダカはティナにロロンの町を案内されていた。


 ロロンは風光明媚な城下町であるとのことだった。頑丈な石の城塞に囲まれ、町を貫く大通りは一直線に王宮へと繋がっていた。大通りの両脇には、ずらりと商店が並んでいた。土産物屋、武器屋、薬屋、総菜屋、八百屋と、多種多様なジャンルでひしめきあい、活気に溢れていた。

 石畳で舗装された道路の上では、荷馬車が右往左往と行き交っており、どこか忙しなかった。ロロンはそのような賑やかな町であった。普通の若人わこうどであれば、誰しもが、感嘆の声を上げるような美しい町であった。ホダカもその喧騒に感動を覚えた。

 少し前のホダカであったならば、この町にも感動をしなかったであろう。前のホダカには、ブラック飲食で、世の中のことに多感であるということは、業務を遂行する上では、であると、、その身に刻まれていた。現在、”コロッケに最適な食材を探して、コロッケ屋をやる”という夢とも業務とも、判断できないような事柄に取り組んいるホダカは、後者の業務として捉えるということをやったであろう。ただ、今のホダカからは、それが微塵も感じられなかった。

 ティナがホダカの心をほぐしてから、ホダカは変わったのだ。ティナの一つ一つひとつひとつの仕草や言動がホダカを癒した。ホダカはティナが指差す物や、手に取る物、それらについて、懸命に説明しようとする姿に心を奪われていた。

 「ねえ、次は合いびき肉を探そうよ」

 ホダカの先を歩くティナが振り向いて言った。ホダカはそれに頷いて短く返した。

 「あれ、ホダカ。あまり楽しそうじゃない? 」

 ホダカの反応にティナは不安を覚えた。ティナ自身には、そっけない反応に感じたからだが、ホダカの内心はその真逆だった。ティナの揺れる髪に見惚れてしまい、ホダカは言葉を失っていた。

 「そんなことないよ。ただ、いや、いいんだ。次の食材があるお店に早くいこう」

 不安そうに見つめてくるティナの顔でさえも愛おしかったが、恥ずかしさを隠すためにホダカは話題を切り替えた。

 「ふーん。なんか変なの」

 ティナは、ホダカの挙動の意味が分かったような、分かっていないような、絶妙な声のトーンで、そのを言った。

 ホダカの前を歩くティナは少しずつ、歩くスピードを遅くして、ホダカに近づき、いつの間にかホダカと並んで歩いていた。ホダカは、耐え切れず、ティナの手をそっと握った。それを軽く握り返し、ティナはホダカの気持ちに応じた。

 二人は、手を繋ぎながら十分くらい歩いたところで、肉屋に辿りついた。

 「此処はモンスターを捌いて調理しやすい形にして売っているお肉屋さんよ。

家畜化されたモンスターの解体がメインだけど、時には、森で仕留められたモンスターも解体しているの」

 「これは良い食材が期待できそうだな」

 とホダカは思った。


 「へい、お二人さん。アツアツだね。ここに何の用だい? 新居でも買いに来たのかい? 」

 肉屋の店主がホダカ達の繋いだ手を見て、茶化してきた。

 「ちー、ちがうよ。もう。お肉だよ。

 ティナの頬がぷくっと膨れた。


 ホダカは、内心、この店主にムッとしながらも、ティナの膨れた頬を摘まんで潰したい気持ちになっていた。

 「今は、抑えよう」

ホダカはなんとかその気持ちに打ち勝った。

 「あの、合いびき肉はありますか? 」

 ホダカは平常心を取り戻し、店主に問いかけた。

 「ねぇよ。そんなものは。」

 と店主はそっけない返事をした。

 「あのね、合いびき肉は、豚って生き物と牛って生き物の肉を潰して、みぃさ~ミンサーって機械でそれぞれ糸状にするの。それを半分ずつくらいで混ぜ合わせたものなのよ。」

 ティナが隣で補足してくれた。

 「二種類の肉を混ぜ合わせるったぁ、贅沢なもんだな。そんなもんは

ここにはねぇよ。第一、その豚ってのと牛ってのが良く分かんないしな」

 しっしっという素ぶりをしながら店主が言った。

 店主の態度は横柄であったが、ホダカやティナにとっては、まだ我慢出来る程度であった。

 「じゃあね、マスター。モールとの肉の塊はある? 潰して、混ぜ合わせるのは、こちらでするわ」

とティナは店主に尋ねた。

 「それなら、あるにはあるがよ。まあ、仕方がねぇな。いいぜ」

 と店主は言って、ダルそうに店の奥に行き、せっせと作業を始めた。

 手のサイズの大きさの塊が、モールとオークでそれぞれ二つずつの四ブロックで六十チルという安いのか高いのか分からない金額のやり取りを眺めながら、ホダカは、二人のやり取りを思い返していた。

 「うん? って、あの物語でたまに聞く、

人型の豚みたいなやつだよな? あれって食えるのか? 」

 ホダカの頭を一瞬、その考えがよぎったが、ホダカはそれを考えないようにした。

 店を出て二人で並んで歩き帰る頃、気づけば、夕暮れ時になっていた。

二人は今回の買い出しの戦利品を片手ずつに抱えて、もう片方の手はひしと繋いでいた。


 こうやって、二つ目の食材が見つかったのだった。

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