第8話 食材を探して 玉ねぎ=ライチオン

 ティナとホダカは、身支度をして、町に買い出しに出掛けることになった。

 出掛ける前にコロッケの材料の買い物リストを二人で用意した。まず、ホダカが元の世界での材料の特徴をひとつずつティナに伝えた。ホダカが説明を始めようとすると、すぐさまティナはそれを両手で中断し、二階の自分の部屋へと駆けこんでいった。

 その後、一階に下りてきたティナの手には紙とペンと何故かメガネが握られていた。ホダカがメガネの理由を問うと、

 「これがあった方が、イメージ力が上がるの」

という返事がティナから返ってきた。

メガネをかけたティナは、どこか気だるそうな雰囲気になり、

ホダカにとっては魅力的だった。

ティナはホダカの説明を熱心に記録して、メモにまとめていた。

 「魔導士という職業は、イメージする力を鍛えることが大事なの」

とどこかでティナが言っていたことを、ホダカは思い出した。恐らく、ロロンへの道中か、ティナの家で過ごしたここ数日の間であろう。

 ホダカが、ティナのメモを遠目から見ると、ぎっしりと説明が添えられていた。紙の端の方にはなにかの絵も見えた。

「火炎魔導士でもあるティナは、きっと想像力が凄いのだろう」

 ホダカは心の中で思った。


 コロッケの材料の買い物リストを書き終えると、二人は身支度をした。

ティナは、お出掛け用の濃い青のワンピースに身を包み、大人っぽい雰囲気を纏っていた。タイトな作りのワンピースで、膝下あたりでスリットが切られていた。


 「えーと、まずはー、玉ねぎなる物を探しましょーか、ホダカ」

ティナはそう言いながら、メモを片手に、すたすたと歩き、一軒目のお店に向かおうとしていた。


 ティナの早足を追うように、二歩後ろを、ホダカは歩いた。

 「玉ねぎはー、まぁーるくて、透明なドレスを、何枚も着ているみたいな野菜でしょ。炒めると金色になって、甘くなるって、ホダカは言ってたわね」

ティナがメモを見ながら言ったことに対して、ああそうだと、ホダカは返した。

 「私ね、ホダカの世界の玉ねぎって食べ物と似てる物、見当がついてるんだー」

 「そうなのか? 」

 「へへん、それはね。ライチオンよ」

 ティナは腰に手を当てて言った。

 「ほほう、フルーツみたいな名前だな」

 ホダカは思った。

 「ほら、そこにライチオンが売ってるわ」

 ティナが指差す方向を見やると、赤くて楕円形の野菜が店先にロープで括られ、

束にされて、ぶら下がっていた。

 「ライチオンは、薬膳料理で使われることが多くて、体調が悪い時にスープにして

飲む事が多いの」

 ティナはスープを飲む仕草をしながら、ホダカに説明した。

 「皮を剥くときは目が痛くて、涙が出ちゃうんだけど、スープにすると、ほんのり甘くって、とっても元気が出るんだから」

 「ああ、あの説明できちんと伝わっていた」

 ホダカは、そう確信した。

 「すいませーん。このライチオン、1束いくら? 」

 ティナが大きな声で元気よく店主に尋ねた。

 「ひとつ十チルだよ」

 店主は、営業スマイルでにっこり返した。

 「いいね。買うわ。八つ頂戴」

 ティナは購入を即決して、銅貨一枚を店主に渡した。毎度ありといった店主はそれを店の奥の深めの皿に入れた。そこには銅貨や銀貨が沢山入っていた。

銅貨は十チルで、銀貨は百チル、金貨は五百チルだとホダカはティナに教えてもらっていた。ちなみに一チルは王家の印がついているだけの貝殻であった。

皿の中を見て、

 「野菜などの食材系は銅貨や銀貨で買い物することが多いのだろう」

 とホダカは察した。

 店主がライチオンを袋に詰める間、ティナと店主は、少し世間話をしていた。

 そして、あいよっと店主は詰め終わったライチオンの袋をティナに渡した。

 「ちょっと齧ってみる? 」

 ティナが、抱えたライチオンの袋から、ひとつ取り出して、ホダカにすっと差し出した。それは細い葉がまだついており、新鮮さを感じた。

 ライチオンの一番外の茶色くて固い皮を1枚むきとり、ホダカは噛みついた。パリッと爽快な音がした。

 「うん、と同じ味だ」

 ホダカは、ライチオン=玉ねぎであることを確信した。

 こうして、ホダカ達は、コロッケの材料の一つ目を見つけることが出来たのだった。

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