ウサギトカゲ

宇宙(非公式)

学校の話

A−1

 あかさはなたまやら。これは己を表せるが、同時に二を表せるだろう。つまり、己が二個、解釈を違えれば己が二通り存在する。いわゆる、並行した自分。並行世界だ。

 なんて、隣の席の真流丸しんりゅうまるまどかの読書を盗み見たものの、何を言っているのかやっぱりさっぱり分からなかった。私は、今流行りのタイムマシンはおろか、このような並行世界、パラレルワールドとも言うのだろうが、とにかく空想ものには疎い。空想、と言葉を聞き、風船と呼ばれるものを思い浮べる。頭の中で、左右に翼のついた海賊船を想像した。これが、現実世界に存在するらしい。なんとも不思議だ、と星都せいとに話したら、鼻で笑われた。

 時計に目をやる。もうすぐ昼休みの終わりが来ることを指している。マイバイブルである『星の王子さま』を閉じた。彼女に声を掛けて、教室に戻ろう。

 

「私の許可なしに本を開くな!」

 王はそう言った。いや、叫んだ、と言った方が正しいかもしれない。

「はいはい」

「理解を示すのに二度もいらない!」

「分かったよ、分かったよ」

「いらないと言っただろう!」

 今度は腕時計に目をやる。そろそろだろうか。王がうとうとと船を漕ぎ始める。そして、完全に眠った。

「王ちゃん、寝た?」

 返事はない。代わりに、

「えまちゃん、いつもありがとう」

 と小さく音が王の口から溢れた。えまは、私の名前だ。

 王は、なぜか数時間に一度眠ってしまう体質らしい。と、いうか。数年前から、珍しい病気が日本各所で発見され始めた。彼女もその一人、というわけだ。私も友達として、唐突に眠る彼女を助けている、つもりだ。

「星都くん、大好きだよ」

 彼女は寝言で、本音を言う。いつもあんな言い草で、不貞腐れた顔をしているが、心の奥底では、私を大事に思っている。そして、最近分かったのだが、彼女は星都に恋している。これは寝言で知ったわけじゃない。初めて王に星都を紹介した時の事を思い出す。

 

「君が王星雲か」

「あ、うん」

「数少ない絵馬の友達をやってくれている、と聞いたんだが」

「あ、いや、やってあげているというか、やってもらっている感じで」

「感謝する」

「え、あ、こ、こちらこそ」

 

 てっきり王は寝ているのかとも思った。文字通り、寝言を言ってるのかと。『星の王子さま』で王さまは勝手に欠伸をすることを禁じていたのにもかかわらず、だ。そもそも、あんな格好付け野郎のどこがいいのか。私は面白いからいいのだけれど。

 保健室に着く。先生はいなかったので、勝手にベットを借りた。廊下から声が聞こえてくる。

「あの絵馬とかって奴、大丈夫だろうか」

「大丈夫と言えば大丈夫という言葉も使えるが、なにしろMrs.エマは大きくも丈夫でも男性ですらないからね。おっと、今のご時世そんな断定はベアトリーチェが牛に言ってしまうほど許されないことだね。反省するよ。女性を辞任して男性を自認しているかもしれない。もちろん女性が仕事である、とか言いたいわけじゃないよ。そんなことを言う気も勇気もない。勇気を出すとしても、提出期限はとっくに過ぎているからね。過ぎ過ぎだね」

「大丈夫なんじゃないかな?いざとなったら僕たちがいるし。鏃不依にじりよらず公園、だっけ?」

「ああ、そうだな」

 この声は、万部の三人の声だ。喋った順で、大塚うさぎ、真流丸円、のぼり兎影とかげと言う名前だったはずだ。万屋気取りなのか、『何でもやり〼』と部室前の扉に掲げている。

 それにしても、彼らの会話の内容が気になった。一体、私がその公園で何をされると言うのだ。

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