守ろう! もふもふの森

 FFOのワールドデザイナーさんって、綺麗な人なんだね。

 大先生の回診(通称大名行列)中のメッセージ着信でびっくりしたけど、更新されたインスタの写真を見て、ちょっと感動。

 私、この綺麗なお姉さんに褒めてもらったんだ……。


 病院食にも、当たり外れはあるもので……ちょっとがっかりな今日のお昼。

 なんとか完食して、ゲームで憂さ晴らしだ。

 ワールド入りする前に、リコちゃんに夏姫ちゃんのインスタに、ワールドデザイナーさんとのツーショットがあるのを教えてあげる。

 そして、ワールドに入ってからが本番だ。

 今日は正真正銘の内部リークを、それと悟られぬように伝える使命を帯びてる私。


 森に戻ると、やっぱりお二人さんは蕩けていた。

 ルフィーアさんは九尾の方のもふもふ尻尾を丁寧にブラッシングしていて、コーデリアさんは小動物まみれになりながら、片っ端からこちらもブラッシング。

 綿状の抜け毛の量が、凄いことになってます。


「いくら山地とはいえ、今は夏なのに……こんなに抜け替わりしてたら、この子達が大変だよ」


 憤慨しながらブラッシング。

 そうなのよ、今は夏なのよ。雪まみれで錯覚しちゃうけど。

 そのコーデリアさんにスリスリしてる白い子がいるけど、ワンちゃん?


「子狼だよ。なんだか懐かれちゃって……くそぉ、テイムしちゃいたいぞ」


 ひょっとして、運営さんからのプレゼント?

 そう思うと、ついニマニマしてしまいます。


「あ、そうだ。ひょっとしたら次のアプデで、テイマーが来る可能性が……」

「「マジ?」」


 二人同時に詰め寄らないで……人前苦手な妖精さんですから。


「夏姫ちゃんのインスタが更新されてて、今朝から牧場でCM撮影やってるって。FFOのワールドデザイナーさんとのツーショットも有るから、そうかなあ? と」

「「ちょっと待て」」


 あ。ネットウィンドウ開いてる。検索してる。……あ、見つけた。バンザイしてる。


「本当だ! ちょっと顔がむくんでるけど、泉原さんだよね? これはマジで、テイマー来るかも!」

「今撮影しているんじゃ、ひと月以上先。それでも、これは確率高い!」


 え? 顔むくんでるの? 私には単に綺麗なお姉さんにしか見えないのに、鋭い。

 こんな話、本人に聞かれてたら、凹むだろうな。

 ……まさか聞かれてるなんて事は、ないだろうけどね。


 コーデリアさんはワンピのポッケから、ガーゼのハンカチを出して広げて、三角折りにして……子狼くんの首に結んであげる。


「テイマーになれたら、すぐここに戻ってくるからね。私が最初にテイムするのは、君に決めたから……そうしたら、一緒に頑張ろうね」

「さて、蕩けきってたのにも気合が入ったみたいだから、一気に中ボスを撃破しようぜ」


 ロックさんが立ち上がる。

 もとより、誰もがそのつもりだ。

 コーデリアさんが、抱いてた子狼と引き換えに『深緑の守り』を受け取り、私たちも九尾さんを呼ぶ笛を渡される。


「ここを突破したら、『天空の峰』を目指すが良い。鳥たちも力を取り戻せば、魔の影響は弱くなる」

「こちらは大丈夫ですか?」

「水の穢れが弱まった今、陽射しが戻れば森の木々が力を取り戻す。森が健やかになれば、そこに暮らすものの営みは、穏やかなものに戻るさ」


 力強い笑顔に押されて、森の外縁部に抜ける。

 戦場は、攻略組が承知しているはずです。

 待ち受ける敵は、泉の時と同じ編成だ。私も矢を炎ダメージから、雷ダメージにセットし直す。森の中は炎厳禁です。

 羽根に当たったらめっけ物、くらいの気持ちでコウモリを狙う。

 おや? 意外に雷ダメージが入るよ。どこかに当たると、面白いように麻痺スタンしてくれるので、墜落率が高い。墜落すれば、誰かがとどめを刺してくれるからね。

 いつもよりは、役に立ってるような気がする。

 第二エリアに入っても、矢が無くなるまで打ちまくったよ。

 もうやり遂げた感があるので、中ボスは皆様でお願いします。


 さあ、お馴染みの中ボスムービーだ。

 暗い森の中を疾走する影。四つ足の……三つ首? えっ、ケルベロス? 火を吐いてるけど、氷系じゃないの?

 お供はヘルハウンド。これも炎のワンコ。森を焼きに来たらしい。ムービーでやってる。

 コーデリアさん担当の『深緑の守り』を掲げると、樹々が仰け反るように避けて、戦場を陽光が照らす。自動回復は切れたと。


「もふもふの森を焼くなんて、絶対に許せない!」

「許せないなら、何か戦闘スキルを取れ」


 ムービーが終わるなり、コーデリアさんの怒りが爆発する。

 それを軽くルフィーアさんがいなす。

 いきなり仲間割れは、やめましょう……。


「エクレールさん、アイスケルベロスじゃなかったの?」

「ここだけ、正規ルートは相手が違うようです」

「そんなぁ! 炎の『黒鳥』じゃメリット半減か……」

「追加ダメージが入らないだけだろ? 俺たちと同条件だ。気にすることはない」

「そんなに筋力はないの、私のキャラは! ……そうだ! シトリン、水の矢を一本頂戴」


 ポイッと渡してシフォンが持つと、爪楊枝サイズが普通の矢の大きさになる。ゲームのとても不思議な所。

 あ……この娘は矢をスピア代わりにする気だな?

 少しリーチは短くなるけど、そこは高い敏捷でカバーするみたい。


 攻略班が前回戦った時は、獣人撃破モードで、今回は森を焼き払うモードなのかな?

 そう考えれば筋が通る。

 もっとも、今は戦闘中。筋道を通すより、ダメージを通さなきゃ。

 雷の矢は打ち尽くしたけど、水の矢はまだ、たんまりとあるのだし。

 ……でも、当たらないとダメージ以前の話だけどね。

 意外に速いよ、ヘルハウンド。

 もう! ……こうなったら、嫌がらせしてやる。

 矢を炎に替えて、雪に覆われた戦場の地面にどんどん打ち込む。むふっ。やっぱり水は嫌いだよね?


「おもしろそう。私も手伝うよ」


 コーデリアさんがヒートプレートを戦場に投げる。こっちの方が早いか。

 どんどん水たまりになっていくから、私の手持ちも渡す。

 水たまりに塞がれて、行き場に迷ったヘルハウンドを、こちらもなかなか当たらなかったロックさんのハンマーが粉砕する。

 気がついたらしいロックさんは、無骨なワークブーツでヒートプレートを蹴って滑らせ、もう一頭のヘルハウンドを追い詰める。

 シフォンの絶妙な牽制もあって、追い詰められたヘルハウンドは、またハンマーの露となった。

 親玉、ケルベロスくんには、エクレールさんがザビエルさんの回復をあてにして、タイマンで挑んでました。こちらは完全に、エクレールさんの貫禄勝ちですね。

 剣のスタン効果が……なんて、謙遜してましたが普通に圧勝してたよ。

 ところで……。


「『天空の峰』ってどうやって行くんだろうね?」


 そう、攻略隊もここまでしか辿っていなくて、大ボスどころか最後の中ボスも見つけてません。

 九尾の方も特に教えてくれなかったし……。

 途方に暮れていると、上の方から、ギャーギャーと喧しい鳴き声が。

 何、カラス? と空を見ると、紫がかった青色と赤茶色に色分けされたキレイな鳥が……。

 君の声かい! キレイな色の割に凄い鳴き声だね。


「あら? ルリカケスね。珍しい」


 博識なペンネさんの声に気を良くしたのか、ゆっくりと降りてくる。

 そして、突然私の腕を咥えて舞い上がった。


「あ~~~~~~~~れ~~~~~~~~~~~~~~っ!」


 その目指す先に、険しい頂があった。

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