もふもふ天国への道
森に着いた私たちを迎えてくれたのは、もふもふはもふもふでも、雪オオカミの群れでした。
冷たいもふもふは認めないらしく、「殺っておしまい」とコーデリアさんの命令に応えて、ルフイーアさんが一瞬で屠りましたとさ。
「今度は雪ゴブかよ……。泉の時のように『戦うな』と言われるよりはやりやすいが……」
「前回はどうだったのかしら?」
「前は到着時点で、雪ゴブたちと、獣人が戦ってた」
「まさか、雪ゴブに味方してねえだろうな?」
「当たり前でしょ! でも、到着した時には決着が着いちゃった……」
「獣人の負けに出くわしたのかよ」
「ウンディーネさんたちも全滅した後でしょ? 水も飲めないんじゃ、戦えないわよ」
「今考えると、本当にその通りです。申し訳なかったとしか……」
そんな話をしながら、さっくりと雪ゴブたちを屠った。
みんなどんどん強くなるね。
しばらく歩いていると、木に結ばれた赤いレースのリボンを見つける。
言うまでもなく、目印にシフォンが結んだものです。
雪の白さにリボンの赤が、目立つ目立つ。
「また同じ所に戻ってきてるわ……。定番といえば定番だけど」
「迷いの森ですね……。森の木々も、獣人たちの味方なのは当然ですが」
「コーデリア、もふもふレーダーに反応はない?」
ルフィーアさんに言われたコーデリアさんは、地面に這って匂いを嗅ぐ。
更に鼻をひくつかせた上で、立ち上がってルフィーアさんをどついた。
「そんな能力、あるわけがないでしょ!」
わあ、そこまでノリツッコミするから、本当にできると期待しちゃったよ。
それは私だけじゃないようで、みんな微妙な表情で対応に困ってる。
エレガントな女性だと思っていたのに、意外なノリ過ぎるでしょ。
「匂いという手もあるわね。……ダメ元で一つ、試していいかしら?」
ペンネさんが、ポンと手を打つ。
ヒートプレート使用のコンロで、小鍋に水を入れて、バターとお砂糖、塩。それにぶつ切りニンジンを入れて温める。
沸騰したら蓋をして、弱火で10分。ニンジンが柔らかくなったら蓋を取って、中火で煮詰める。
「わぁ……にんじんのグラッセだぁ」
「ニンジンは苦手だけど、これは甘い匂いでいけちゃうのよ」
蕩けそうになってるのは、女性陣ばかりではない。
森に広がる甘い匂いに惹かれてきた雪ゴブリンや、雪オオカミはサーベルの餌食に。
もちろん匂いに惹かれてるのは、それだけじゃない。
あそこの草陰から、白いお鼻が見えてるよ? ウサギさんだね。
あはは。茶色いのや、黒いのも。だんだん増えてるよ。
押し合いへし合いして……。あらら、一匹飛び出しちゃった。
「コーデリアさん、何か果物を持ってないかしら。おびき寄せるには良いんだけど、ウサギさんに砂糖や蜂蜜は駄目よね?」
「じゃあ、秘蔵のバナナっぽいのを。……ウサギさん、好きなんだよ。こういうの」
剥いたバナナを幾つかに切って、コロコロと鼻先の方へ。
奪い合い、開始だ。
すると、どこからともなく声が……。
「あなた方は悪い相手ではなさそうだが、頼みますからこの子達を誘惑しないで頂きたい。魔物に出くわしたら、命に関わります」
「申し訳ありません。九尾の方ですね? 迷いの森を抜ける手立てがなかったもので、ついこんな手を……」
木陰から現れたのは、銀髪の狐耳の男性。
切れ長の目といい、どことなく和風? もふもふの尻尾に約二名、釘付けだ。
「あなた方か……ウンディーネたちを助けてくれたのは」
「ご存知だったのですか?」
「急に水の浄化が進んだ。ウンディーネたちが窮地を脱したと考えるべきだろう」
「そして、ウンディーネさんたちに、九尾の方の力になってくれるよう頼まれました」
「力を借りるようなことは特に無い」
即答されちゃたよ?
でも、ペンネさんはまったく動じる風ではない。
ただただ、ニコニコしながら見つめ返してる。
「森の動物達を守っているのですか?」
「それが、九尾の者の役目だ」
「森の奥深くに、バラバラに?」
「なぜ、そう思う?」
「一箇所に全部まとめたら、捕食が起きるでしょう? 狐やイタチなどは、小動物を捕食するのが自然ですもの。バラバラに匿うのも、また不自然です」
「……だが、仕方がない」
「飢えもまた、魔物以上の脅威でしょうに。森の植物が水の穢れの影響を受けているから、この子達も簡単に誘う出されちゃう。……お腹が空いてるのは、辛いわよね?」
そう語りかけて、収納から出した野菜類を子兎たちに与える。
お鍋のグラッセは、食べたがってる小娘たちに。
代わりに手持ちの食材提供するくらい、もふもふ好きの二人には、何でも無いことだ。
「私たちの持ってる食材は、町で買った物や旅の途中で狩ったもの。穢れの影響は、ほぼありません。……中に入れて下さい。私たちがこのエリアを開放するまでの間、飢えを凌ぐくらいの量は持ってますから」
「それをもって、恩を売るというのか?」
「違いますよ、自己満足です。……そのお礼でしたら、後ろの二人のお嬢さんたちに、小動物を愛でさせていただければ充分です」
「わからん連中だな……」
「私は、自分が空腹が嫌いだから……飢えてる子を見るのが辛いだけです」
「来い……こっちだ。うさぎたちは……そのままでいい」
案内しかけた九尾は、既に両手いっぱいにウサギを抱えた女子二名に、ため息を吐いた。
まあ、呆れられるよね。ご飯をもらった恩もあるから、無下にもできないし。
コーデリアさん、顔をうさぎに擦り付けて満足そうだ。
「やった~。やったよ、ルフィーア。念願のウサギ吸い」
「はいはい、良かったね。あんた動物アレルギーの癖に、もふもふマニアだし」
「嬉しいよ~。ゲームの中なら、くしゃみも鼻水も出ないし、顔も真っ赤になって腫れたりしないよぉ~」
何か、壮絶な話をしてる。
そういえば、私ももう十年以上動物なんて触ってないよ?
私も混ぜてもらって、ウサギさんの中にダイブしたら、思い切りコーデリアさんに羨ましがられた。
「あらら……こんなに睨み合っちゃって。弱いものを食べる寸前だったわね?」
肉食の大型の集落に、野牛を4頭デリバリー。
小型の所には二頭で、菜食集落には野菜やナッツをどっさりと。
ペンネさんは調理できないのが残念そうだったけど、相手が動物ではしょうがない。
最後にペンネさんは九尾さんの肩を叩いた。
「あなたも……いざという時に、守り手が戦えないのでは困りますよ」
九尾さんが初めて、申し訳無さそうに微笑んだ。
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