パーティは旅に出る

 オレ達はヴィニャンからアルザ地方に向かっていた。 

 アルザ地方はヴィクト地方の上にあって、北フランク帝国と国境を接している地域らしい。 

 帝国は人間絶対主義でエルフや亜人を追い出しているんだって。

 荷馬車を操る男がそう説明してくれた。


 シャルは連日の野宿にくたびれ、疲れ果てている。

「街まで遠いね」

「昨日は寒くて寝れなかったな」

「荷馬車を乗り継いで来たけど。盗賊はいなかったね」


 男が「君たちつきましたよ」と言う。

 オレは質素な荷馬車から荷物を降ろした。

 シャルの手を取って、荷馬車から降りてもらう。

「お腹すいたよ。リュカ」

「待合室で軽食でも食べよう」


 小さな平屋の待合室に入ると、男が出迎えてくれた。

 人間の男の料理人だ。ごま頭で中年ぐらいの男が白くて清潔そうな服を着ている。

「手早くできるものを」

「ライ麦パンとゆで卵をご用意します」


 荷馬車のイスは硬かったから腰はカチコチだ。

 うんと体を伸ばしてやらないと。

 背もたれのないイスに座って料理を待とう。

 

 待たずに料理が来たのは嬉しい。

 ライ麦パンは固くてパサパサ。チーズも固い。

 でも、皿に載ったゆで卵はうまかった。半熟だったし。


 男に聞くと、食事代は小銀貨三枚で済むらしい。

 さすが国営クオリティーの駅馬車だ。

 早くて安くてまずいものを出す。

「早く自由都市に行こう。野宿は疲れたわ」

「コルマールに入ろう。宿を探さないと」




 コルマールは魔法で築かれたバリアに囲まれている。

 盗賊も魔族も入ってこれないから安心だ。

 自由都市コルマールは国王が支配する直轄地らしい。

 領主がおらず、会議で何でも決めるんだと。


 石造りで作られた正門前に着いた。

 メイルを着た義勇兵に声をかけられる。

 オレは冒険者手帳を出して、中に入りたいと言った。

「貴様らは青銅級冒険者か?」

「しばらく滞在します。目的は迷宮です」

「中に入ってもいいぞ」  


 コルマールの中に入ると、美しい街並みが広がっていた。  

 街にはハーフティンバー造りの建物が立ち並ぶ。

 上部が出っ張った木組みの家だ。

 それに街の中心部には小さな運河が流れていた。



 街を歩くドワーフが多い気がする。

 ドワーフの群衆は人間をけてゆく。

「ドワーフが多いね」

「帝国から逃げてきたドワーフが多いからね。北部には炭鉱があるから」


 オレはエルフに会いたいと独り言をこぼした。

「アンプールブランに行けばエルフに会えるよ」

「アンプールブラン? それどこにあるの?」

「ここから1日ぐらいは歩くかな。山の方で温泉が有名なの」


 大通りの奥に細長い三階建ての建物がある。

 白壁に赤い屋根が特徴のよく目立つ家だ。

 木組みの立派な建物だ。きっと暖かな暖炉もあるだろう。

「アルプ亭に入って休もう」 

「ここに泊まるの?」


 ここを選んだ理由はエルフが呼び込みをしていたからだ。

 長い金髪で青い目、まるでドイツ人みたいな見た目だ。

 エルフが人間と違うとはとがった耳だけか。

「どうかうちの宿へ。温かなサービスを約束します」


 金髪のエルフの案内で宿に入る。

 宿代は一人一部屋で一泊銀貨四枚。

 室内はちょっとしたホテル並に豪華だ。

「いらっしゃい。先に食事にします?」

「先に食事をお願いします。部屋は別々で」

「空いたお席にどうぞ」


 誰も座ってない席に着くとパンが運ばれてきた。

 薄くスライスされた小麦パン

 白パンの上にのったバター。

「さぁ、昼飯を食べるぞ」

「いただきます」


 まぁ、悪くない食事だ。

 この黒パンは小麦が入っているから、質がいい。

 先ほどの固くてパサパサしたパンとは大違いだ。


 目の前には色とりどりのソーセージが三本ある。

 ソーセージとレバーを詰めたソーセージ。

 皮付きのソーセージをかじるとパリッと音を立てた。

「ソーセージがうまい」

「ほんとに? ホントだ」


 食事を食べ終えて、宿のカウンターに行く。

 ここの宿では金髪のエルフが受付嬢らしい。

 エルフは人間の言葉を悠長に話した。

「オレ達の部屋はどこにあるの?」

「二階の突き当りよ。剣士さんは19、魔法使いさんが20」

「ここは家族経営かな?」

「そう。四人でやってるわ」


 階段を上がる途中で後ろを振り返る

 シャルはキョトンとしていた。

「明日は迷宮に行こう」

「朝に宿の食堂で待ち合わせするの?」

「そう」


 扉を閉める前にシャルに言っておく。

「決して部屋をのぞかないでください」

「なんで?」

「部屋を開ける時は扉を叩いて」


 部屋に入って見渡すと、オレは驚いた。

 整えられたベットには清潔な白いシーツ。

 どうやら、この宿は温かなサービスとやらに期待できそうだ。


 靴を抜いで、ベットの上に寝転がる。

 眠気に襲われて意識が飛んだ。シャルが扉を叩く音で目が覚める。

 少しうたた寝をしていたようだ。


 オレは入口で「ごめん寝てた」と釈明した。

 シャルは少し怒りながらも「もういい」と返してきた。

「今何時?」

「何寝ぼけたこと言ってるの? 今から夕食だよ」

「もうそんな時間」

 

 食堂に行くと一組の冒険者が食事をしていた。


 空いていた適当な席にシャルと座る。

「宿泊客が少ないね」

「女主人も元はブルクンド公国出身だろうね」

「なんで分かるの?」

「独特のなまりだよ」


 女主人が薄焼きの四角いピザを持ってくる。

「アルザ名物のピザです。チーズの上にタマネギとベーコンがのせてありますから」


 薄焼きのピザはうまかった。

 独特のチーズのニオイが気になるけど。

 前菜だけでお腹いっぱいになりそうだよ。








 ※アンプールブランはカイザーブルクがモデル

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