武器と杖と食事と

 風が冷たくなり、秋が終わりそうな気配がする。

 オレはシャルを連れて、久しぶりに武器屋に向かった。

 重たい扉を開け、石畳の床に足を踏み入れる。


 ドワーフの店主は顔を上げて、カウンターから出てきた。

 以前来た時よりも少しやせた気がする。

 自分の気のせいならいいのだろうか。

「今日は武器を売りに来たんだ」

「また来てくれたな。ボウズ」

「この前安くしてくれたから。そのお礼に」


 店主はオレが持ち込んだ剣の多さに目を丸くした。

「宝箱から手に入れた奴じゃねぇな。ボウズは盗賊とやり合ったのか?」

「まぁ、そんなところです」

「で、敵はどんなやつだ? お前より強いのか?」

「北星流を使う強いやつでした」


 オレの懐は温かい。武装集団から奪ったデニエ銀貨が二十枚。

 それに四個の片手剣まである。

「どれも樽に入った安物だろう。高くは買い取れん」

「売れればいいです」

「銀貨2枚で買い取ろう」


 オレは「今日も誰もいないねぇ」とつぶやいた。

 店主は理由を聞いてもないのに口を開く。

「魔族の再侵攻が始まりつつある。冒険者の酒場も人が減っただろう」

「はい。シルフ亭も閑古鳥かんこどりが鳴いてて」

「そうだろ。うちもめっきり客が減ってしまってな。お得意さんも魔族と戦って帰ってこねぇ」


 オレは店内を見回って、ナイフを見つけた。

 持ち手が木で作られ、刃が小さいものだ。

「店主さん 質の良いナイフはないの?」

「ナイフは鉄製が良いぞ」

「見せてください」

 

 店主は持ち手が鹿の角で作られたナイフを出してきた。

 片刃は生々しい輝きを発している。

 日用品として使うには最高だろう。

「銀貨3枚で買う」


 ドワーフの店主が渋い声で尋ねてきた。

「それよりもギャンベゾンの着心地はどうだ?」

「それはもう… 最高です。暖かくて」

「そちらにいるお嬢さんは。仲間かい?」

「はい。コンビを組んだ仲間です」

「俺も昔は冒険者だったから分かるよ。仲間は大切にしろよ」


 突然、店主が説教じみた事を言いだしたので驚いた。

 オレは話を変えようと、本題を切り出す。

「店主さん、今日は小手と鎧を買いに来たんだ」

「鎧を買う予算はあんのか?」

「銀貨15枚ほどで」


 少し間があった。

 店主は難しい表情をして返事をする。

「硬革鎧の訳あり品なら安く渡せる」

「安い訳を聞きましょう」


 硬革鎧はとあるパーティの剣士が頼んだものらしい。

 それも任務を受ける前に注文したんだけど。

 その剣士は二度と店に姿を表すことはなかった。

 そんな訳あり品を店頭には出せず、死蔵品になったと言う。


 店主に言われるがままに硬革鎧を着てみる。

 オレは頭からすっぽりと鎧を被った。

「とにかくサイズは合わせるから」

「胴体だけ。他の部分は?」


 茶色の硬革鎧は胴体だけしかなく、中途半端なもの。

 膝当ても肩当てもない。

「今は胴体だけだが。金さえ出してくれれば作ってやる」

「これください。肩と肘当ても作ってほしい」

「サイズは測ったから作ってやるよ」


 オレは店主に値段を聞いて、デニエ銀貨十四枚を渡した。

「良いものを買えました」

「また来いよ」

「しばらく旅に出ますから」

「帰ったときにはできてるからな」


   ☆


 オレ達は武器屋を後にして、食事に向かうことにした。

 シャルが行きたいと行っていた店だ。

「甘いものがいっぱいだよ。さぁ、入って」

「楽しみだな」

「パンペルデュを頼もう」 


 三階建ての一階を間借りしたような店だ。

 建物の端には馬小屋があって、庭には井戸がある。

「夜は宿屋もやってるよ」

「シャルはここに泊まってるの?」

「そうだよ」


 昼は甘いものを提供するスイーツ店。

 夜は『犬も歩けば棒に当たる亭』に早変わり。

「屋台の職人さんが集まって店を出すんだよ」

「へぇー。そうなんだ」


 シャルと話していると、最初の料理が来た。

 食卓に置かれた料理に見覚えがある。

 見た目はフレンチトーストに近いかな。

「これは良さげ。うまそうだ」


 一口かじると甘い味が口に広がった。

 ふつうにうまいじゃないか。

 異世界で甘味が食べれるなんて。正直感動するよ。

「良かった。おいししそうに食べてて」


 アツアツのパンを手でつかみながら、かじる。

 やけどなんか気にしない。

 うまいものを食べれば満足だ。


 昼ご飯を食べ終えたので店を出る。

 お腹も満たされたし、満足だ。

「次はどこに行くの?」

「杖を見に行きたいな」

「よし。行こう」  


  ☆


 シャルの案内で三階建ての建物に着いた。

 一階に『オリバーの杖』があるらしい。

 両開きのトビラを開けると、白髪頭がいた。

「いらっしゃい。男は見ない顔だねぇ」

「オリバーさん、となりはボクの冒険者仲間です」

「今日も杖を見に来たのかい? ゆっくりしておいで」


 シャルが手に取ったのは青い魔石が着いた杖だった。

「杖はトゥレント製で、魔石は海の魔物のものだ」「いいな。これほしい」

「シャルさんは常連だから半分は後払いでいいよ」


 シャルが値段を聞くと銀貨50枚だと言う。

 自分には適正価格はわからないが。

 仲間のために一肌脱ぎたい。服は脱がないけどな。

「銀貨10枚しかないよ」

「オレが15枚出すよ。それで半分になるから」


 オレは銀貨15枚を出した。  

 仲間のためなら火の中、水の中。

 これぐらい安いものよ。


 シャルはさっそく杖を構えてポーズを決めた。

 杖を振って、使い心地を確認している。

「杖を買えて良かったね」

「すごく良いよ。大事にするから」


 店を出たシャルは嬉しそうな顔をしていた。

 仲間が楽しそうな表情を見せるのは幸せだ。




 








 

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