ゴブリン退治をしよう

 

 オレは小さな開拓村にやってきた。

 目的は二つある。一つはゴブリン退治をして、冒険者として実力をつけるため。

 もう一つは今日の宿代と食事代を稼ぐためだ。


 ベルン村は道路に沿って家が立ち並んでいる。

 第一印象はありきたりな農村だ。

 規模は小さいが、若い人が多く活気にあふれている。

「そこの人、旅の人かな?」

「オレは駆け出しの冒険者だ」

「村にやってきた理由は?」

「ゴブリン退治ですよ」



 昔、アルスから聞いた話を思い出した。

 村名は村人が熊を倒したことに由来するらしい。

 めっちゃ強いじゃないか。その村人。

 今もその村人の子孫が村長を務めているらしい。

 


 ベルン村はシュタルクから歩いて二時間もかかった。

 ゴブリン退治に行くだけでクタクタだよ。

 道中、盗賊とうぞくや魔物にも会うことはなかったし。

 今日はたまたま運が良かったと思う。


 今日は心強い味方のアルトゥスさんがいる。

 移動中に聞いた話では、アルトゥスさんは北星流の剣聖らしい。

 つまり上から二番目の地位だ。

「剣を習いたいと考えていまして。アルトゥスさんの弟子にしてください」

「剣を習いたいなら今度道場にいらっしゃい」


 剣を習いたいですと言うと、あっさりと弟子入りを認めてくれた。

 これで北星流の技を教えていただける。

 父から教えてもらえなかったカウンター技を習える日が。



 ゴブリンの情報を集めるには人に聞くといい。

 彼にそう言われ、オレは村人に聞き取り調査をした。

「すみません。村に出たゴブリンを知りませんか。オレは冒険者で」

「3匹出たよ。とっとと退治してくれい」


 隣りにいる村人にも聞いてみる。

 杖をついた中年のおっさんだ。

「オレんちの家畜がさらわれたんだ。何とかしてくれぃ」

「大丈夫。オレが退治します」

 

 村人から聞き出した情報をまとめてみる。

 ゴブリンは三匹いたが、種類はわからない。

 数軒の家が家畜をさらわれる被害にあった。


 街で防具も回復薬を買えなかった。

 今、手元にあるのは腰の片手剣だけ。

 父の形見のロングソードは預けてきた。

「アルトゥスさん、ゴブリンがいませんね」

「そのうち来るだろうよ。リュカ君」


 アルトゥスさんは少し気だるげに言った。

 エルフの彼は、ボクよりかなり年上だろう。

 実際の年齢は知らない。



 人間の気配を感じ取ったのか。

 殺意マシマシのゴブリンが二体現れた。

 ゴブリンは人間の子どもほどの背丈せたけしかない。

 村人から奪ったのだろうか、さびた短剣を構えている。


 緑色の怪物はオレに構わずに突進してきた。

 焦らずに、腰の片手剣を抜いて斬りつける。

 切り口は浅く、致命傷にはほど遠い。


 ゴブリンと戦うのは生まれて初めてだ。

 奴らはこんなにもすばしっこい生き物だったとは。

 一体目に振り下ろした剣は宙を切る。

 

 ゴブリンは短剣を構えたまま、懐に飛び込んできた。

 オレは一体目の頭部に剣を振り下ろす。

 トドメを刺そうと思った瞬間、二体目が突進してきた。

 オレは二体目の腹部に蹴りを叩き込む。


 距離をめて、剣を横薙ぎに振り払う。

 剣はゴブリンの腹を大きく切りさいた。

「何とか倒せました」

「君の今の実力を見せてもらったよ」



 アルトゥスさんの指示通り、ゴブリンの右耳を切り取った。

 これは依頼達成の証拠品として出す。

 ゴブリンが使っていた短剣は回収して、後で売り払う予定だ。

「リュカ君、帰るぞ」

「わかりました。帰ります」




 オレは三時間かけて来た道を戻った。

 港湾都市に帰ってきた頃には、すっかり夜になっていた。

 シュタルクの門番と立ち話をし、中に入る。

「君は魔族と戦ってきたのかい? ご苦労さん」

「違うんだ。ゴブリン退治に行って」

「そうかい。新人さんかな」



『美しきシルフ亭』では読み書き講座が行われていた。

 この世界は日本のように識字率が高くないらしい。

 よくあるファンタジー物のように依頼が壁に張り出していることはない。

 冒険者が文字を読めるとは限らないから。

 酒場の人が口頭で依頼内容を説明する仕組みらしい。


 酒場にある長いカウンターにまっすぐ向かった。

 今日も赤毛の受付嬢が座っている。

 オレは無造作にゴブリンの片耳を置いた。

「リュカです。依頼のゴブリン倒しました。イェイ」

「あっ、はい」


 赤毛の受付嬢は見事な塩対応をしてくれた。

 正直、ドン引きされただろうね。

 受付嬢は黙ってカウンターに革袋を置いた。

 中には銀貨がたっぷり入っているはず。

「お疲れ様でした。報酬を渡しますね」


 ゴブリン退治の報酬は小銀貨二十枚。

 革袋に入った残金を数えてみると、銀貨が二枚、小銀貨が三十枚ある。

 一泊小銀貨三枚で、三食で小銀貨九枚を消費するから毎日九枚も減ってゆく。


 正直、カツカツの状況だ。

 頭の中で単純に計算しよう。

 手持ちのデニエ銀貨をリュート小銀貨に換算すると合計で五十枚。

 五日しか持たないだろうね。


 そんなことを考えていると、アルトゥスさんが肩をたたいてきた。

「今日からリュカ君は銅級冒険者だ。おめでとう」

「あ… ありがとうございます」


 

 今日からオレは銅級冒険者だ。

 最下級の青銅級冒険者から一段上がったんだ。

 護衛任務も解禁されたし、コボルトとも戦える。 



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