新人冒険者になりました

 やっぱり、修行でしょ

 オレはたった一人で魔族に襲われた村から逃げた。

 両親を見捨てた卑怯者ひきょうものだとののしられるかもしれない。

 でも、騎士はオレに"生きろ"と言った。


 シュタルクに向かう途中で騎士と会った。

 騎士はオレをなぐさめ、はげました。

「オレはたった一人生き残ったんです。家族はもう…… 」

「生きろ青年! 命が燃え尽きるまで」



 港湾都市シュタルクは厳戒態勢だった。

 正門の入口を騎士が固め、騎兵が見回りをしている。

 門番には厳重な持ち物検査をされた。

 革袋の中身や剣の鞘まで見られたんだぜ。


 メイルを着た騎士に厳しく問いただされた。

「貴様はノワール村の住民か?」

「はい。両親とはぐれましてシュタルクに逃げてきました」

「シュタルクに入る許可をやろう」


 シュタルクに入る許可は何とかもらえた。

 正直、一人で生活するお金がなくて困ってる。

 手持ちはデニエ銀貨四枚だけ。

 今日からどうやって生活するんだ。


 

 両替屋のおっちゃんは子どもが来たことに驚き、理由を聞いてきた。

「一人で来たのか? 親はどうした?」

「両親はいません。理由は聞かないで」

「わかった。何も聞かねぇよ」

「リュート小銀貨に両替してほしい。それだけなんだ」


 両替屋で今日の交換レートを教えてもらった。

 デニエ銀貨一枚はリュート小銀貨十枚の価値。

 デニエ銀貨を二枚渡して両替してもらう。

 革袋が小さい銀貨でいっぱいだ。


 これで当面のパン代と宿代には困らないぞ。

 ライ麦パン一個がリュート小銀貨二枚で買える。

 宿代の相場はわからない。泊まったことがないから。



 今日から何をしようか。

 街で魔法と剣術を合わせた炎神流を習いたい。

 炎神流の道場を探すと、大通りの裏に一軒あった。  

「大きい道場だな」


 さっそく、中の様子をのぞいてみる。

 広い室内では一対一の打ち合い稽古をやっている。

 激しい打ち合いに目を輝かせていると、金髪の若者に声をかけられた。


 ボクは「道場に入りたい」と答えた。

 金髪の若者はため息をついてあきれた顔をした。

 オレを田舎者だとバカにしてんのか。

「うちは紹介がないと入れないよ。それに入門には銀貨30枚がいるんだよ」

「デニエ銀貨30枚!」


 デニエ銀貨三十枚は高すぎる。

 七枚の銀貨があれば、一ヶ月は生活できるというのに。

「紹介してくれる人はいるのかい?」

「いません」

「じゃ、無理だね。他をあたりな」


 道場に入る夢はあっけなく撃沈げきちんした。

 正直、ショックを受けている。

 炎神流があそこまで閉鎖的な流派だと知らなかった。

 

    ☆



 今日は道場探しをあきらめて、飯屋を探す。

 オレはいま最高に腹が減っている。

 大通りを歩いていると三階建ての宿屋が目についた。 

 宿屋の名前は『美しきシルフ亭』。

 白塗りの壁が目立つイギリス風ハーフティンバーの建物だ。


 出迎えてくれたのは赤毛の受付嬢だった。

 さっそく、料金表に目が行く。

 大部屋の宿代がリュート銀貨三枚。

 都会の物価がわからないが安いのだろうか。

「今日、宿に泊まれる?」

「はい。二階まで案内します」

「ありがとう。先に食事を頼みたいんだけど」


 若い女の子は席に座るようにすすめ、奥に入った。

 一階にはテーブル席が並べられているが、二人だけしかいない。

 すでに室内は煙とエールの匂いが充満していた。



 今日は冒険者が出払っているのだろうか。

 オレは疑問に思ったことはすぐにたずねたくなる性分だ。

 さっそく、銀髪のおじいさんに聞いてみた。

「今日は冒険者がいませんね?」

「街中の冒険者が魔族退治に行っているからね」


 銀髪のおじいさんが親切に教えてくれた。

 前世風に言うと銀髪のイケてる人だ。

「兄ちゃんは冒険者かい? 背中に剣を背負っているから」

「はい。仕事を探しにきました」

「失礼だけどね、兄ちゃんの名前は?」


 オレは屈することなく、はっきりとした声で答えた。

「リュカです。リュカ・フィリップ」

「私の名はアルトゥス。ここは私が作った冒険者の酒場だ。相談に乗ってあげよう」


 彼から聞いた話によると、冒険者にはランクがあるらしい。

 銅級、青銅級、鉄級、銀級、金級、ミスル銀級と六段階に分けられている。


 ここはアルトゥスさんが経営する酒場だ。

 冒険者に仕事を斡旋あっせんしてくれるらしい。

 でも、紹介料で報酬ほうしゅうの一割を取られるようで。

 背に腹はかえられないか。



 俺はアルトゥスさんと手を結ぶことにした。

 誠実そうな人だし、信頼できそうだ。

「昨日、依頼があった話しなんだがね。近くのベルン村でゴブリンが出た。君に任せたい」

「ぼくにできることなら何でもやります」

「リュカ君一人では心配だ。わしもついて行こう」

 


 赤毛の女の子が料理をテーブル席に持ってきた。

 茶色いライ麦パンと暖かいスープに目を張る。

 スープは野菜が乱雑に入ったごった煮だ。

「今日は私がおごろう。遠慮えんりょはいらないよ。冷めないうちに」

「あっ、助かります」


 夕飯を食べ終えた俺は大部屋に向かった。

 大部屋にあるベットで休むためだ。

 そして部屋の片隅には壺がある。

 同室の冒険者のいびきに悩まされながらも一晩を過ごした。

 寝つけねぇよ。


 オレが冒険者になりたい理由はいろいろある。

 冒険者になって未知の発見をしてみたい。

 誰も見つけていない遺跡や迷宮を発見したい。

 異世界で名を挙げられたら最高だ。


 それに、冒険者は人頭税や地代を取られない。

 税金を取られないのは冒険者になる大きなメリットだと思う。




 ※日本円換算

 リュート小銀貨→200円

 デニエ銀貨→2000円  

 グロス大銀貨→30000円

 シャルル大金貨→36万円








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