顔も名前も知らない無数のイイネが、大好きな彼女を変えてしまった話

坂本 ラッコ

1話(全1話)

 彼女は唐突に話し始めた。  


「最近ね、マッチングアプリを始めてさ。今毎日楽しくって。今週も3人と会うんだ。なんかいっぱいイイネがついて、あ、私って身の置き場を変えればちゃんとモテるんだなって思ったし、今まで容姿で悩んでたの、一体なんだったんだろうって思ったよ」彼女は笑顔で言った。


 彼女は笑っていたが、その笑顔はどことなく陰りを帯びていて、歪んでいるように感じた。


 その彼女は、私の親友だった。だった、と過去形で言うのは、私がもはや彼女が元気でいるかさえも知らないからである。


 社会人1年目、いわゆるJTCに入った私は都内のある支店に配属された。ミスが許されない厳格な社風だったから、支店には常に一定の緊張感が走っていた。そして男社会だった。総合職の女性は私だけ、あとの女性は皆アシスタントだった。


 彼女は、アシスタントの中でも最若手の、私の2つ上の先輩だった。


 支店では、総合職かアシスタントかに限らず、若い女性はほぼ雑用を命じられた。ただし女性の扱いは、総合職かアシスタントかで全く違っていた。


 総合職である私は名字で呼び捨て。失敗しようものなら大声でドヤされ、椅子を蹴られた。アシスタントは「さん」付けで呼ばれ、何か失敗をした時には、ペアを組んでいる総合職の監督不行き届きとして、総合職がドヤされるといった具合だ。


 私と彼女は同じチームで、彼女は私の斜め前に向き合うような形で座っていたので、仕事中にはいつも彼女の表情が見て取れた。普段は一切のミスをしないように、注意深く、険しい表情。だけど総合職から呼ばれ、何か仕事を言いつけられる時には決まって、満面の笑顔で対応をする。


 彼女は決して美人とは言えない。むしろ少し、個性的な顔立ちかも知れない。でも彼女のクルクル変わる表情から何故か私は目が離せず、パソコンに目を向けるふりをしながら、時々彼女を観察していた。


 彼女について気付いたことがある。総合職の男性と非常に良好な関係を築いていた。 彼らは一日の大半を営業に出ており、雪の降る日も、うだるような暑さの日も変わらず外出をしていた。


 その間にも、彼らの顧客からひっきりなしに電話が来るので、彼らが17時過ぎに支店に帰る頃には、アシスタントの取った電話メモで机が埋め尽くされていた。


 彼女は総合職の机のメモがある程度いっぱいになると自主的に彼らに電話をかけ、手伝えることがないか、確認をするような人だった。そして彼らが外出をする時には、支店中に響くような可愛らしい声で「いってらっしゃーい」、彼らが帰って席に着くや「暑かったですね、お疲れさまです」と声をかけるのだった。

  

 これでモテないはずがないと思った。しかし、彼女は一切、男性にモテなかった。 

 これが私にとってもう1つの彼女に関する気付きだった。


 仕事終わりのある日、総合職全員で居酒屋に行った。週2〜3回程利用していたため、他の会社の人が遠慮したのか、はたまた疎んじたのか、いつも私たちだけの貸し切り状態だった。


 20〜30歳の若い男性が10名と、そこに加えて女性が私1人。そんな感じで集まると、最初は仕事の話をするのだが、最後は必ず恋の話に行き着く。そこでは、お決まりの話題が1つあった。それはアシスタントの中で誰が一番可愛いか、という話だった。


 そのアシスタント・ランキングで、彼女はいつも圏外だった。おろか、このように評されていた。「彼女は本当にいい子。嫁さんに欲しい。だけどさすがに、あの顔じゃ抱けない。」と。


 こんな風に言った後、決まって男性全員でゲラゲラと下品に笑うのだが、私は一緒に笑わないよう、だけど極力その場で波風を立てないよう、息を殺していた。


 彼女は良い先輩、いや、良い子だった。後輩である私にも優しくしてくれるというよりも、懐いてくれた。


 雑談をすると「そんなことも知ってるんだ、すごいすごい!」とはしゃいで、クルクルとした表情を向けてくれた。


 男性から見るのと、女性である私から見るのとでは、きっと彼女に対する感想が異なるのはわかる。だけど、他の男性が「あの顔じゃ抱けない」と言うほどだろうか、と私は常々疑問に感じていた。それに、たとえどんな容姿でも、あんなに可愛らしい女性は他にいない。私は心からそう感じていた。


 彼女とはすぐに仕事を超えて仲良くなった。仕事が終われば電話をして他愛のない話をしたし、ごくたまに恋の話をして盛り上がった。私は厳格な校風の女子校育ちで、どんなに仲の良い先輩にも敬語を貫くタイプだったが、彼女に頼まれ敬語を外して話すようになった。こんなことは初めてだった。きっと彼女の人懐っこさゆえだろう。


 ある時、彼女が仕事で少しだけ目立つミスをして、本当に珍しく上司に叱られていた。泣きそうになるのを必死にこらえて、足早に廊下に去っていく彼女を見て、なぜか私は居ても経ってもいられない気持ちになった。そして反射的に、財布とボールペンと付箋紙を持って彼女を追いかけた。


 彼女は資料室の隅の方にちょこんと座っていた。私は、ボールペンで付箋にちょこちょこっとメモ書きをし、自販機で買った甘めのミルクコーヒー缶にそれを張りつけて、彼女の表情をなるべく見ないようにしながら隣に座り、足もとにそっと缶を置いた。


 彼女は少し驚いた様子だったが、すぐさま、ふにゃあっと笑ったような気配が横目で見てとれた。そして「わー、コーヒーだ!いつもブラックしか飲まないでしょ?わざわざありがとうね」と言った。そして貼ってある付箋に気づくや、大粒の涙を流してワーっと泣いた。なんてことはない。付箋には「一緒にがんばろうね」と書いただけだった。


 私にとってはあんまり深く考えずにした行為だった。にも関わらず、彼女は缶を握りしめて泣いた。「ありがとう、ありがとう」と何度も言いながら。


 これを期に、彼女と私の距離は一気に近づいた。休日には一緒に遊ぶようになった。そして彼女の学生時代の話を色々と聞いた。


 本当は総合職で就職活動をしていたけど、アシスタント職以外にどこも受からなかったこと、絵が好きで生まれ変わったらデザイナーになりたいこと、アシスタントで人生を終えるつもりはないが、何をしたら良いかわからないこと、学生時代の留学で伸び伸び過ごした経験が忘れられず、いつかは海外で暮らしたいこと。それから、実は醜形恐怖症を患っていて自分の容姿に一切の自信が持てないこと、後輩の私が支店である男性に好かれていることを知って少し嫉妬したこと。そんな話を包み隠さずにしてくれたのだった。


 だから私も本音を話した。

 確かに総合職で大企業に入ったけど、今の仕事はまったく自分のやりたいものではないこと、本当は歌が好きで、音楽関係の仕事をしたいこと、海外が長かったので日本での暮らしが窮屈であること、彼氏がいるがすれ違ってばかりいること、長年一重がコンプレックスで、実は大学に入る前に海外で二重整形をしていること。


 彼女は「こんな話、誰にもしたことないよ。2人だけの秘密だよ」と言った。私の話は、他の親しい友人にも話したことがあるものばかりだったが、彼女と秘密を共有する関係も悪くないと思った。だから「私もだよ。内緒ね」と言った。


 それから1年程が経ち、私は都内の別の支店に異動した。彼女はとても寂しそうだったが笑顔で送り出してくれた。それからも彼女との関係は続いた。週末には一緒に表参道に繰り出すようになった。彼女の好きなアート展を見にいった。その後私は結婚したが、旦那とも仲良くしてくれたし、我が家でのんびりと、一緒に週末を過ごすことも増えた。聞き上手な彼女と居るのはとても心地よかった。


 彼女は常に恋愛について悩みを抱えていた。


 学生時代に2年付き合った年上の恋人と別れて以来彼氏ができないこと。もちろん好きな人は出来るのだが、まったく相手にされないこと。知らない外国の人に駅でナンパされ、人恋しさからなんとなくついて行ってしまったが暴力を振るわれそうになって逃げたこと。

 そんな話をしてくれた。


 私は、彼女の容姿というよりも、容姿に対するコンプレックスや自己肯定感の低さが、恋愛がうまくいかない原因だと考えたし、それをありのまま彼女に伝えた。


 貴方は可愛い。そして貴方ほど心の美しい人を他に知らない。私が結婚をしていなくて、男性だったら生涯の伴侶にはきっと貴方を選ぶ。そんなことを伝え続けた。私の持ちうる全ての美しい言葉を掻き集めて、彼女の良い所を列挙して、毎回毎回、その時々で違う彼女の良さを、彼女に伝え続けた。


 いつも泣きそうな顔で恋愛の悩みを話し始める彼女が、決まって最後には泣き笑いをしながら「ちょっと、愛が重すぎるんですけど」と照れ隠しで言ったから、きっと私の想いは彼女に伝わっていたと思う。


 彼女に異変が起きたのは、数年後に私が転職し、その転職先で多忙を極め、時折体調を崩していた頃だった。この頃は彼女と滅多に連絡を取ることはなくなっていた。


 嵐のような日々が落ち着いた有る日。彼女と久しぶりに六本木のカフェに入った時のことだった。


 その日は久しぶりに会えて私は嬉しかったのだが、彼女は何だかうわの空で、スマホを常にいじって、何かを確認していた。出会ってから6年以上経っていたが、彼女がこのように振る舞うのは初めてだったから、すこし心配になりながらも、彼女の方から何かを話してくれるのを待った。


 彼女は唐突に話し始めた。「最近ね、マッチングアプリを始めてさ。今毎日楽しくって。今週も3人と会うんだ」と。そして、「なんかいっぱいイイネがついて、あ、私って身の置き場を変えればちゃんとモテるんだなって思ったし、今まで容姿で悩んでたの、一体なんだったんだろうって思ったよ」と笑顔で言った。


 私はマッチングアプリをやったことはない。ただ、若い女性が登録すると、それだけで多くの男性から連絡が来るという話も聞いたことがあったから、だとしたら、イイネにどういう意味があるのかな、と疑問に思いながら話を聞いた。


「あとね、すごく好みの女性のブログを見つけてさ。で、その人のセミナーがあるから申し込んで、この間、参加してきたんだよね」と彼女は続けた。


 彼女はあまり行動的ではなかったから、意外に思いながらどんなテーマのセミナーか聞くと、「彼氏から愛される私になる、みたいな感じかな」と、彼女は答えた。


 一度話し始めると彼女は止まらなくなったのだろう。こんな事を言った。「あのね。このセミナー、半年間で12回通うんだ。で、120万。両親に話したら詐欺だって言われたんだけど、私はそう思わなくて。初回2時間参加しただけで、もうすっごいエネルギーもらってさ。次も楽しみだよ」


 120万という金額を聞いて、私は仰け反った。


 たとえば、何かの国家資格ですら、30万程度出せばオンライン授業とそれに沿ったオリジナルテキストが手に入るような時代である。その中で、彼氏に愛される、などといった私からするとよくわからないテーマで、それもたった1回2時間、半年計24時間のセミナーで120万。まったく意味がわからなかった。


 しかし彼女が本当に恋愛で悩んでいたことも知っていたし、時折将来の不安から、安定剤を飲まないと眠りにつけない日もあると聞いていたから、頭ごなしの反対は避けた。


 それにどうしたって、全額支払い済みなのだから、まずは参加してみて、効果の有無は半年後に確認すれば良いのではないか、と思ったから、何か得られるものがあるといいね、と言うに留めた。


 だが私の見込みは甘かった。


 それから一ヶ月後、彼女と再び西麻布で会った。彼女はえらく痩せていて、というか頬が痩けるような不健康な痩せ方をしていて、それから、目のやり場に困るような露出度の高い服を着ていた。


 可愛らしく肉付きのよいスタイルに、コンサバティブな服を着るのが彼女らしさだった。しかし、胸元がざっくりと空いたイチゴ柄のワンピースは、すこしでも屈むと、彼女の谷間はおろか、その先の先まで見えてしまうような、チープなものだった。それから、ガタガタの眉とアイラインが目についた。


 聞くと、ダイエットを始めたらしい。それも2日に一回サラダを食べるだけの、ほぼ絶食であった。露出度の高い服は、彼氏から愛されるためには必須だと教わったらしい。違和感感じてそのセミナー講師のブログを見せてもらった。たしかに露出度は低くはないが、ヘルシーなメイクにふわふわのオフショルダーニットを着るような、普通に綺麗で可愛い着こなしだったから、彼女の解釈が少しずれていたように思う。


 それから、彼女の会話の中で、特定の女友達がよく出てくることが気になった。


 その友達とは、例のセミナーで知り合ったらしい。コーチングを生業としているという彼女の旦那とタワーマンションで暮らしていて、センスがよくてとてもお洒落なのだと彼女は嬉しそうに話した。


 週末にはシャンパンを持って、その友達の家で開かれるオーガニック野菜パーティーに参加しているらしい。写真を見せてもらうと、参加している女性たちは皆、一様に美しかった。ただメインディッシュはスチーム野菜を大きな楕円形のプレートに乗せ、上から色とりどりのソースをかけただけの、メインというには簡素なものだった。


 写真に写るスタイルの良いきらびやかな女性達と、彼女。なにかうまく言語化できないような大きな違いがあった。私は、居心地は悪くないのかな、と思った。


 女同士の関係は複雑であることを、女子校出身の私はよくわかっているつもりだ。


 見た目の雰囲気や家柄、生活水準などがある程度近くなければ、真に友人になることは難しいと思う。仮に一時的に共に過ごすようなことがあろうとも、大抵は長く続かない。それに、いざライフステージが変わってしまえば、どんなに仲の良い間柄でも、距離が出来てしまう。逆に言うならば、ライフステージがまた再び重なれば、一度出来た距離がまた埋まるのも女同士の良さだとも言えるのだが。


 彼女は、きらびやかな友人達から明らかに浮いていた。だけどそれは決して彼女がださいとか、悪いとかではなく、単にきらびやかな友人達の間に身を置いてしまっているからなのだ、と私は思うようにした。


 彼女は続けた。「その友達もね、この間お仕事を辞めて、旦那さんのコーチングの会社で働き始めたんだって。でね、最初のお客さんは絶対に私が良いって言ってくれたから、最近彼女にコーチングしてもらってるんだ」と。


 なんとなく嫌な予感がして私は彼女に、お金の支払いは発生してるのか、や、少なくとも友人価格なのかを訪ねると、「ううん、もちろん正規価格だよ。あと私もコーチにならないかって誘われたから、友達のコーチングとは別で、友達の旦那さん主催のコーチになるセミナーも受けてるんだ」


 これ以上聞くのは恐かったが、彼女は私にとって大事な友人の1人であったから、仕方なしに受講料はいくらなのかと聞いた。


 トータルで200万だった。私はなんと彼女に応えたのかは覚えていない。ただ、今回もまた同様に、すでに支払いは発生しているので、極力彼女を否定しないことだけを心がけたように思う。
 
 それから二ヶ月程経った頃だろうか、彼女から相談がある、とラインで連絡が来た。


 呼び出されたのは日曜の午後。場所は、都内一等地にある小洒落た会員制シェアオフィスだった。例のセミナーに行くようになってから、彼女は華やかな場所を好むようになっていたし、別に不思議な気持ちはなかった。


 ただこんなことを言いたくはないが、当時外資系企業で早朝深夜問わず働いていた私の収入と、JTCでアシスタント職を務める彼女のそれにはおそらく乖離があったと思っていた。だから、彼女の華やかな生活を支える財源がどこから来ているのか、と違和感だけは感じていた。


 彼女は席に着くや、場所に似つかわしくない、大きめのファイルを取り出した。そこには数百枚の紙が挟まっていた。そして私ににっこりとこう告げた。「あのね、私コーチングの資格とれたの。応援してくれて嬉しかった。だからね、絶対私の最初のお客さんになって欲しいと思って声をかけたんだ」と。


 どこかで聞いた台詞だな、と思った。そして同時に、彼女はもう私の知っていた頃の彼女ではないことにも気がついた。


 私はコーチングをよく知らなかったから、まず体験をさせてもらいたい。そして、もし自分に合うようならば、継続して受けるよ、と伝えた。彼女はすこし緊張した面持ちでそれを受け入れ、その場で体験コーチングを開始した。


 たどたどしい40分程の体験を終えた後、次に20分のワークがあると聞いた私は「ごめんね。今の私には必要なさそうだったから、正式な申し込みは控えさせてもらうね」とまろやかに伝え、体験を中断した。そしてすこしだけ取り留めのない話をして、その場を後にした。


 それからまた数ヶ月が経ち、彼女から電話が来た。


「コーチングはやっぱりなんか違うなと思って辞めたの。やっぱり営業するの、あんまり向いてないみたい。でね、今インスタグラマーをしてるんだ!なんか、日本全国のお洒落なカフェを巡ってる、インスタグラマーがいてさ。その人の投稿を見ていたら、私にも絶対出来るような気がして、セミナーに通ったのね。そうしたらまずは有名なインスタグラマーの写真の構図を徹底的に真似しよう、って言われたから、彼女の写真を真似して写真を上げ続けてたら、フォロワー数が2000人になって。企業案件が来る日も近いと思うから、もう会社を辞めようと思うんだ」彼女は早口でまくしたてた。


 私はインスタグラムはしていない。ただそれでも、人のアイデアから影響を受けるどころか徹底的に真似しただけの、フォロワー数2000人のアカウント運用を専業にして生きていける程甘いもんか、と思った。


 電話中に教えてもらった彼女のインスタグラムを見ると、一部、彼女とわからない程度に顔出しした物もあった。

 
 彼女は深刻な容姿コンプレックスを抱えていたはずだったから、他人の真似をしたとは言え、顔出し投稿はどんなに勇気がいっただろう。


 もしそれが、コンプレックスを克服できた、ということなら、全てが悪いわけでもないと思う。だけどそれと引き換えに、彼女がこれまで築き上げてきたすべてが、そして、私の大好きな彼女が、もうそこには居なかった。

  

 さらに数ヶ月後、彼女について風の噂で聞いたのはこんな話だった。


 彼女は有言実行、会社に辞表を提出した。ただその話には裏があって、彼女は会社でアシスタントとして働くために必要な資格取得をしていなかったらしい。そして資格取得期限が近づき、会社に居づらくなったとのことだった。


 ただ、実家暮らしの彼女は退職することを両親に話しておらず、事後報告をしたところ、猛反対にあった。


 にっちもさっちも行かなくなった彼女は辞表提出の翌日、診断書を持って上司に相談し、辞表を撤回したらしい。そして仕事のストレスによる鬱状態であったため正常な判断が出来ていなかったと説明し、そのまま休職に入り、今は誰とも連絡がつかなくなってしまったらしい。
 
 今でも私は彼女の友人の一人として、一体どうしたら良かったのだろうかと思う。


 繰り返しになるが、後にも先にも、彼女ほど心の美しい女性を私は知らない。きっとあまりに心が美しすぎて、物を疑うことを知らなかったのだろう。
 
 もう彼女とは随分連絡をとっていない。

 きっと彼女から私に連絡をしてくることもないだろう。 


 顔も名前も知らない、無数の誰かの無責任なイイネは、彼女を変えてしまった。


 私の大好きな彼女は、もういない。


 完

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