第14話懐妊2

 翌年、秋には待望の第一王子が誕生する事となりました。

 そして現在妊娠9ヶ月ですが順調に経過しており、もうすぐ臨月となります。予定日まであと1週間ほどです。今回は初産の時とは違い出産の兆候が現れても動揺することなく落ち着いております。まあ2度目ということで多少余裕が出来ているからかもしれませんが……。前回の経験から事前に準備していたものが功を奏しているようですね。前回も思ったけどやっぱり産婆さんの存在は大事ですよねぇ……などとしみじみ思いましたわ。


 そうそう、第一王子が誕生した事で私は王妃に昇格いたしました。

 周囲は「もう少し慎重になった方がよいのでは?」と思ったらしいのですけれど、王族の血を絶やさぬ為と陛下が押し通されたそうです。口さがない者達の間では「懐妊が早すぎる。本当に陛下の子か?」などと陰口を叩かれていましたが、誕生した王子が陛下そっくりだった事で噂話はピタリと止みました。赤ん坊であれだけ似ている父子は珍しいでしょう。母親の私の遺伝子はどこへ?といった具合ですもの。一部の者達からは「陛下の分身が産まれた」と囁かれています。


 気持ちは分かりますが、分身などではありません。


 初めての子供、最初の王子。


 生後一ヶ月で私の息子は王太子になりました。


 私は名実ともに国母になる事が約束された訳です。

 人生何が起こるか分からないとはこの事でしょう。


 幸いと言うべきでしょうか、私には心強い味方がおります。


 侯爵である祖父が――


 お陰で反対派の殆どが瓦解しました。

 やはり、専門家が行動すると早いですね。頭の良い方々は表面を取り繕って水面下で画策しているでしょうけれど。それはそれとしても、です。



 おじい様は言いました。



 暫くは大人しくしているだろう――――と。


 何時まで持つかは知りませんけどね。








 そういえば、私の元婚約者。

 彼とその新妻は社交界から追放されましたわ。

 表向きは「次期伯爵夫妻は領地で勉学に励む」と言う事になっていますが、それを信じる者はいないようです。





「自業自得だ」


「おじい様?」


「そうだろう? 婚約者がいると知って近づき寝取った女と婚約者を裏切り不貞をした男。貴族社会で信頼できないと思われても無理はない」


「貴族には仮面夫婦が多いですわ。それに愛人を持つ者も……」


「それでもだ。婚姻前のやらかしを許すほど貴族社会は甘くない。自由恋愛は結婚後という暗黙の了解を無視しているしな」


 確かに貴族の結婚は政略的な面が大きいとはいえ……いえ、だからなのかしら? ともかく今回の一件で元婚約者夫婦とその一族は「信用のならない貴族」という認識をされてしまいました。元々周囲からの信頼度は高くなかった元婚約者は一気に転落したわけです。当然といえば当然の結果といえるでしょう。


「見せしめの意味もあるのだ」


「愚かな行いをした者達に対してですか?」


「それもあるが、裏切った相手は今や王妃殿下だ。社交界を追い出されただけマシだろう」


「領地での軟禁は、ある意味で恩情でしたのね」


「そういうことだ。本人達は不満だろうが。いや、何故自分達が追放された意味すら理解していないのかもしれん」


「アホですね」


「だがそういう者は何処にでも居るものだ。特に今の若い連中はその傾向が強い」


「あぁ……真実の愛に目覚めたと宣う者が増えてますのね?」


「若いというのは怖いな」


「怖いと言うよりも、下位貴族に対する認識が甘いのではありませんか?それか……モラルが無いのかも知れませんが」


「上位貴族にもマナーの悪いのが増えたそうだぞ?嘆かわしいことに。血筋ではなく教育の問題ではないかと思うのだが」


「私達の世代はまだ良かったですわ。下位貴族の子弟であってもきちんと立場を理解していましたもの」


 貴族社会の常識。

 階級社会においての身分の重要性と役割。

 そして高位貴族と下位貴族の境界線について、です。

 私達の頃はまだマシだったと思います。

 少なくとも婚約者が居ながら他の男性と関係を結ぶのは不道徳とされてましたもの。

 野心家の下位貴族は多いものの、彼ら彼女達はそれなりにわきまえていたはずなのですけれど……。今は違いますものねぇ……。困ったものです。


 王妃である私に元婚約者夫婦が何を言ったとしても無駄ですが、それを利用する者は必ず出てきます。貴族社会とはそういったもの。私利私欲の為なら何でもする輩がゴロゴロしている訳です。それを未然に防ぐためにも元婚約者夫婦が社交界に戻る日は二度と来ないでしょう。


 二人は何時気付くのか……それとも一生気付かないままなのか。


 夜会で二人の両親。つまり伯爵夫妻と子爵夫妻を見掛けますが、周囲の貴族から遠巻きに見られていますわ。損得勘定を抜きにしても両家と付き合う事はリスキーと判断された結果でしょう。


 私と陛下が夜会に登場すると両家とその所縁の者は目を反らし、そそくさと立ち去る始末です。


 そして彼ら両家は程なくして社交界から永遠に姿を消しました。



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