第7話十二年前2


 私は伯爵に向かって微笑みを浮かべながらゆっくりと話し始めました。

 

「コーネル伯爵。私の将来の夢は祖父のような立派な官僚になることですわ。今はまだ三ヶ国語しか話せませんし、政務に関しても勉強不足ですが将来はもっと努力をして、いずれは祖父に追いつき追い越せる存在になりたいと思っております」


 私が笑顔のまま話し出すとコーネル伯爵だけではなく、何故かテオドールまで呆気に取られた顔をしています。一体どうしたというのでしょうか? ともかく、今は続ける事に致しましょう。

 

「そのために日々努力をしております。幸いな事に我が国には優秀な教師が多く在籍しており、勉学に励む環境はとても恵まれていると感謝しております。私はいつか必ず祖父を超える逸材になるのだと心に誓ってきました。当然、夫となる方にもそれ相応の能力を求めますわ」


 私の話を聞いていたコーネル伯爵は冷や汗を流しています。御子息の方は顔が徐々に引きつっていくのが見えました。少し言い過ぎましたかね?でも事実ですし……。まぁいいでしょう。


「そ、それは素晴らしいことだ。ルーナ嬢の優秀さは社交界でも有名だ。きっと夢は叶うだろう。そ、そうだ、テオドール!ちょっとこっちへ来い」


 突然呼ばれ戸惑っている御子息にコーネル伯爵が耳打ちするとボソボソと何やら言っているみたいですが聞こえてきませんでしたが、御子息は苦虫を噛み潰したような表情になっております。こちらに向き直ったときには不機嫌さが露骨に出ていました。あらあら随分とお怒りのようですわ。何を言われたのか知りませんが自業自得でしょう。

 

「ほら、テオドール」


 伯爵に催促され渋々と言った感じで御子息は前に出てきて口を開きました。

 

「テオドール・コーネルだ、さ、さっきは、す……すまない。よろしく……」


 あら?

 先程と違って随分大人しくなってしまったわ。一体どんな魔法を使ったのかしら?

 まあ、仲良くする気はないと言わんばかりの表情で睨まれてしまいましたが、謝罪だけはきちんとしてくれたので及第点としておきましょうか。

 

「今後長い付き合いになります。どうぞお見知り置き下さいませ」


 無言で頷く御子息はまるで借りてきた猫のようです。

 御両親に叱責でもされたのでしょうか?

 それとも今だけ、と考えているのかもしれませんね。


 不安要素は尽きないものの、こうして私の婚約者は決まったのであります。

 


 

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