祖母の写真
白鷺雨月
祖母の写真
三年ほど前に母方の祖母がこの世を去った。
享年九十歳だった。
大往生ともいえるが、やはり身内がなくなるのは正直悲しかった。
葬儀は南海本線和泉大宮駅ちかくの葬儀会場で行われた。
その葬儀で僕は数年ぶりに
おばさんと呼んでいたが、正確には祖母の妹だ。ただ祖母とは年が二十ほどはなれていた。子供のときは哉子おばさんは母親の姉妹だと思っていた。
哉子おばさんはこのとき七十歳ぐらいだったと思うが、年齢を感じさせないぐらいの美人だった。目鼻立ちがはっきりしていて、背筋もぴんとのびていて、きびきびとよく動く人だった。それに話好きで、人を楽しませる華やかな人だった。
若いときはものすごくもてたという。武勇伝は数しれずと母親は言っていた。僕がおしゃべりな女性が好きなのもこの人の影響なのかもしれない。
葬式がおわり、皆で夕御飯を食べることになった。
会館の食堂にいくと葬式にはつきものの豪華な仕出し弁当が並んでいた。
「M君、ビールのまへんか?」
哉子おばさんは僕にきいた。
僕が酒がのめないとこたえると残念そうな顔をした。
「そう、M君とビールのめると思ったのにな」
そう言い、哉子おばさんは一人でビールを飲んだ。
「ほらこれ見てみ、お姉ちゃんの若いときの写真やねん」
そう言い、哉子おばさんは僕に一枚の写真を見せた。
その写真には三人の人物が写っている。
どこかの神社でとられたようだ。
哉子おばさんが言うには岸和田の天神さんでとったらしいということだ。
わかいときの祖母が赤ちゃんを抱いている。その赤ちゃんは哉子おばさんだということだ。隣に、はっと息をのむような美人が写っている。
その人物は誰かと哉子おばさんにきいたが、知らないということだった。
葬式を終えて、自宅に帰った僕は部屋着に着替えて、パソコンをたちあげた。スマホではなくパソコンの大きな画面で確かめたいことがあったからだ。
とある人物の名前を検索する。
その人物は宝塚歌劇出身の女優であった。戦後すぐに活躍した人物で、いくつかの映画にでていたけっこう有名な女優であった。
その女優の画像を見て、やはり似ていると思った。
哉子おばさんが持っていた写真の人物にだ。
そして哉子おばさんにも似ていた。
ここからは完全に僕の想像だ。
その女優さんは哉子おばさんの本当の母親なのではないか。なんらかの理由があってその女優は祖母に自分の子供を託したのだ。そして祖母の両親、すなわち僕の曾祖父母は養子にしたのではないか。いや、戦後の混乱期、うまく実の子としてごまかせたのかもしれない。
だから哉子おばさんはあんなに美人なのだ。
検索してみるとその宝塚出身の女優はすでに病気でこの世を去っていた。
真実を知る手段はないかもしれない。
僕はいつか祖母とその女優のことを小説に書きたい。
美しい哉子おばさんの顔を思いだし、僕はそう思った。
祖母の写真 白鷺雨月 @sirasagiugethu
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