番外編②
2人がどうやって結婚できたのか
▫︎◇▫︎
それは2人が駆け落ちしたあの春の日からちょうど4年が経ったある日の出来事であった。
「ゆな、………そろそろ籍を入れないか」
「———………、」
ここ2年で体調の落ち着いた陽翔は、穏やかな潮風に当たることのできる窓際のベッドの上に座り、ベッドでぐったりと転がっている結菜に声をかける。
結菜は何も聞こえなかったかのように陽翔に擦り寄りながら、黒曜石のような瞳をゆっくりと隠す。
(真意を悟られてはダメ。結婚したいだなんて思っちゃダメ。籍を入れたら、病院長に居場所が漏れてしまう。でも、この子のためには………、)
まだまだぺちゃんこなお腹をゆっくりと撫でた結菜は、ぐっとくちびるを噛み締める。
「———ゆな」
優しい陽翔の声に泣きそうになりながら、結菜は彼の腰のあたりにぐりぐりと額を擦り付け続ける。
「………愛しているの」
「あぁ」
「………………離れたくないの」
「あぁ」
結菜の左手の薬指に輝く婚約指輪を撫でる陽翔手に、ぽつりぽつりと雫が落ちる。
最近情緒が不安定な結菜は、ことあるごとに涙を流していた。
陽翔が結婚を申し込む理由も、感情も、結菜はちゃんと理解している。彼は自らの行動が結菜の心労に繋がると分かっていて、そしてその他の諸々を覚悟の上で結菜に結婚を申し込んでいることも重々承知している。
理性では分かっている。
けれど、結菜の感情は彼と晴れて婚姻を結ぶことよりも、彼と一緒にいる時間を確実に確保し続けることの方が重要であり、重大なことであった。
陽翔との生活を手放すことだけはなんとしても避けたかった。
だからこそ、結菜は首を横に振り続ける。
「………大好きだから、許して」
意識がふわりふわりと揺り籠の中にいるかのように微睡んでくるのを感じながら、結菜は彼の腰に両腕を回した。
「ゆるして、………きらいに、なら、ない、で………、」
くたりと腕が落ちるのを感じながら、結菜は妊娠初期症状である強い眠気に身を任せ、自らの意識を完璧に手放してしまうのだった。
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