第66話



 耳の痛みは引くことをそらないらしく、ジンジンとした痛みは全く治らない。そんな結菜を見た彼は食料品売り場というところで氷を買ってきてくれて、結菜の耳を冷やした。ひんやりとした心地のいい冷気に耳と身体を預けていると。彼はピアスの箱を取り出した。綺麗なファーの箱から見るに、あのピアスはやはりお店の中でも一等に高い品物の分類であるらしい。


「こういう時間って心地いいけど勿体無いし、開けちゃおう」


 ほんのちょっぴりだけ浮かれたような声を上げる陽翔に、結菜はくちびるを緩めた。


「そうですね」


 結菜は自分の買った分を開け、中のピアスを覗き込む。横では彼も彼が買った分のピアスの箱を開けて中身の美しさに吐息をこぼしていた。きらきらと存在感たっぷりに輝くピアスはとっても可愛いのにお上品で、結菜から見ても素敵な一品だった。


「じゃあ、つける?」

「はい」


 彼が耳に当てていた氷をとって悴んだ耳にピアスをはめる。耳に感覚がなくなっているためにどうなっているかよく分からないが、多分可愛くついているだろう。


「ん」


 結菜の耳から満足げに手をどかして結菜のことをまじまじと見つめた彼は、その後銀のイヤカーフピアスを退けて結菜に無防備に耳を差し出した。


(これはつけろという解釈であっているのでしょうか)


 恐々とピアスを持ち上げ、彼の耳に当ててぷすっと穴の中にピアスの針を埋める。留め具をはめるのに彼の5倍以上の時間をかけながら、結菜はようやくピアスをはめることができた。


「で、でき、ました」


 さわさわと自分の耳に確認するかのように触れた彼は、満足するかのように頷き、ふわっと微笑んだ。


「ん、上出来」


 わしゃわしゃと頭を撫でられると心がぽかぽかする。

 結菜は今この瞬間、とってもだらしない表情をしているだろう。


「じゃあ、そろそろ動くか。耳は平気か?」

「はい。大丈夫です」


 本当はほんの少し痛いけれど、わんわん喚かなければならないほど痛いわけではない。その痛みすらも愛おしいとなんだか重傷気味なことを思った結菜は苦笑しながら彼に引っ張られて立ち上がる。ピアスにさっとチェーンを付けて首にかける彼の姿を横目に見つめながら、結菜は何故かその姿に既視感を覚えていた。


「ーーな、ゆな。ほら、行くぞ」


 どうやらまた白昼夢の中に飛び立ちかけていたらしい。結菜は苦笑してから彼に連れられるままにベンチから立ち去った。

 初めて彼に付けてあげたピアスは、今も彼の耳で輝いている。

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