プロローグ

「先生、ちゃんと話を聞いてください!」

「今はちょっとなぁ……」

 吉田よしだ先生は慌てた様子で、私から逃げるように歩きだす。

「ちょ、ちょっと!」

 逃がすわけにはいかない。私は先生の進行方向に立ちふさがる。こっちは職員玄関。帰るつもりなのか。


「自分のクラスのこと、もっとちゃんと考えてください!」

 吉田先生は、先程までとは違い、私の目をしっかり見て、ゆっくりと確実に聞き取れるように言った。

「気持ちは分かるがな? 頼むから後日にしてくれ。それにちょっと、深刻しんこくに考え過ぎだぞ」

 少し気圧されてしまった。吉田先生は普段の適当な態度からは、想像しがたいシリアスな雰囲気を纏うことがたまにある。

 そんなことは関係ない。問題なのは、

「後回し、ですか……」

 先生のことは信頼できる先生だと思っていたが、勘違いだったようだ。苦しんでいるかもしれない自分のクラスの生徒を、見て見ぬふりするなんて。


「もういいです、私が一人でどうにかしますから」

 そう言い捨て、吉田先生に背を向けて、歩きだす。

 アピールでやってるわけではない。本当に失望したのだ。


 吉田先生が私の後ろ姿に向けて何かを言ったようだが、もう知らない。

 先生は知らないのだ。誰からも見ていてもらえないことの苦しみを。


 私が彼を救う。

 救うなんて大げさかもしれないけれど、手助けくらいなら私にだって出来るはずだ。

 その為なら多少の無茶だってしてみせる。

 覚悟は決まった。あとは行動だ。

 何をすればいいか、計画を考えながらその日は家に帰った。

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