孤独な青年が3人の美人姉妹にドロドロに愛される話

立花

第1話 孤独


孤独な人ほど愛情が苦手。

自分を守ろうとしないで、包み込むような愛情に身をまかせてみては。


- 美輪明宏 -



「お前……こんな事してただで済むと思うなよぉ」


 暗い路地裏で妙に響くその声は、1人の白髪の気怠そうな青年に向けられたものであった。


「ん?まだ意識あるの?君?」


 白髪の青年の周りには何人もの男達が倒れており、唯一意識があり、先程青年に言葉を投げ掛けた男も意識が朦朧としている中、最後の力を振り絞っていたので既に気絶しており、青年の問いに返事をする事は無かった。


「何やってんだろうな〜俺……帰ろ」


 青年の独り言とも取れるその言葉はひっそりと闇の中に吸い込まれる様に消えていくのだった。



月谷湊人つきやみなと……それが俺に付けられた名前だった。

 父は俺が産まれた時には既に膨れ上がった借金を残して首を吊って死んでいた。母親も俺を出産した後、父の後を追う様に病院の屋上から飛び降り死んだらしい。

 その後は、複雑な事情を抱えた俺なんかを引き取ろうとする人達が出てくる訳もなく、無事施設行きとなった。

 施設での暮らしは別に苦しいものではなかった、ただ明らかに俺は施設の子達から避けられ、避けられる理由も幼い俺は良く分からなかったが、ある日こっそり職員さん達の話を盗み聞きした所、この母親譲りの白髪が気味悪がられて避けられている様だ。

 別に俺は自分をとびきり不幸だとは思わないし、俺なんかよりも酷い人生を送る人達なんか沢山いると思うから、もし幸せになれる権利とかが目の前に落ちてきたりしたら、迷いなく別の人に譲ると思う。

 そんな感じで今現在俺は高校生であり、施設から俺が通う高校は意外と近かった為、問題なく施設からでもしっかり通えている。

 


「よって〜……って湊人ぉ〜!またお前は授業中に寝やがって」


 先生の指摘する声に俺は閉じていた目を開ける。周りからクスクスと笑い声が聞こえるが、そんなの無視して、とりあえず突っ伏していた頭を上げ先生の方へ視線を向ける。


「すいません」


 とりあえず謝っておく、だって変に反抗して面倒くさい事にしたくないしね。


《キンコーンカーンコーン》


「お、チャイムが鳴ったなぁ。今日はここまで」


 先生のその発言と共に、クラス中が一気に騒がしくなる。こんなんじゃ寝れたもんじゃないな…なんて思いながら視線を窓の外に向けて綺麗な快晴の空を眺める。


「なぁなぁ、やっぱ学園三大美女にして、姉妹のあの子達……まだ誰とも付き合ってないのか?」


「あぁ、昨日で3人ともこの学園に来てから男を振った回数が3桁に突入したらしいぜ」


 後ろからそんな話し声が聞こえてくる。別に聞き耳立ててる訳じゃないよ?……それにしても学園三大美女ねぇ。ていうか振った回数3桁って何だよ、しかも3人全員?インフレしすぎだろ、この世界はギャグ漫画の世界か何かなんですかね。


「おぉ!?噂をしたら、教室の前の廊下をあの3姉妹が通り過ぎていくぞ」


 そんな声に釣られる様に、俺は少しだけ視線を廊下の方へ向けると、噂通りの3姉妹が揃って歩いていた。

 長女の七瀬真奈ななせまな、綺麗な黒髪を腰辺りまで伸ばし、その気になる容姿と言えば完璧な程に整っており、勉強もスポーツも出来、挙げ句の果てにはこの学校の生徒会長を務める完璧超人。

 次女の七瀬未來ななせみら、銀の髪を肩ら辺で切り揃え、容姿は長女同様まるで2次元の世界から出てきたかの様に整っており、長女同様勉強もスポーツも万能の完璧超人、ただ基本無口であり、あまり人と会話をする事がないのだそう。

 三女の七瀬亜美ななせあみ、ピンク色の髪をツインテールにしており、右目には♡マークの付いた眼帯を付けている。側から見たら怪我をしたのかと心配する人もいるらしいが、あれは本人によると単なるお洒落なのだそうで、まぁ世間一般で言うところの所謂厨二病。

 髪には奇妙な形をしたアクセサリーが付いており(どこか見覚えがあるのは気のせいだろうか?)、耳にはしっかりピアスも開けている。それに関しては先生が何度も注意してるらしいが、本人が頑なに外さないと言う為、先生も半ば諦めてるのだそう。まぁ長女と次女同様勉強もスポーツも完璧なので、あまり強く言えないだろう。


 ん?何で俺がこんなに三姉妹の情報を知ってるかって?そりゃあ今後ろで三姉妹の事を語っていた人達の言葉をそのまま引用しているからだよ。

 まるで某少年漫画に良く出てくる様な相手の能力を事細かく解説してくれる有能モブみたいな人達だなぁ…なんて思いながら、俺は三姉妹から視線を逸らし窓の外へ再び視線を戻す。


「おい、お前」


 俺に話し掛けてくるなんて一体誰だろう?……俺は内心面倒臭いと思いながらも、仕方なく窓の外から視線を外し目の前の話し掛けてきた男に視線を向ける。


「何?」


「これ……職員室に運んどいて、どうせ暇だろ?」


 そう言って目の前の男は分厚い紙の束を俺の机にドサっと置いてくる。


「……分かった」


 とてつもなく面倒臭いが、変に拒否して目の前のこいつが機嫌を悪くしたら、さらに面倒臭い事態になるのが目に見えてる。


「そっ、ありがと」


 感謝の気持ちなど微塵も含んでない言葉を残しながら、フラフラと俺の前から立ち去っていた。


「はぁ」


 溜め息を吐きながら俺は絶妙に重い紙の束を持ち、立ち上がる。

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