忘却人の忘れ形見
佐藤寒暖差
この小説について
「最初に、小説『忘却人の忘れ形見』出版おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「という事で小説の出版記念ということでインタビューをさせて頂きます」
「よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。では、最初になぜこの小説を書こうと思ったきっかけを教えてください」
マズイ……インタビューの答えを考えてきてって言われたけど何も考えていなかった……どうしよう。
「……えっと、そうですね。なんとなく思いついてなんとなくで書きました」
「なんとなくですか?」
「はい、なんとなくです」
なんとなくって、何を言っているのよ私は……こういう機転って自分本当に利かないわね……
「……なるほど、ちなみになんですがこの小説は実話だという形で発表していますが、この小説はフィクションではないのですか?」
「フィクションではないですが――まあ、この話を実話だと信じる人はいないと思っています」
もう何というかここまで来たら心底どうでもいい。
「私は質問者としてこの小説を拝読しましたが……いえ、悪く言うつもりはないのですが本当に実話なのですか?」
「だから言っているじゃないですか別に信じなくていいと」
私だけが信じていればいいのだから。
「……そうですか、わかりました。では次の質問に移ってよろしいでしょうか?」
「そうしてくださると助かります」
まずい……記者の方の機嫌がとても悪くなってしまった。この先の質問がとてもやりずらい……というか私はなぜ、こんなインタビューに答えているのだろう。
プロデューサーにインタビューに答えた方が小説が売れると言われたけど……別に私はお金が欲しくてこの小説を出版したわけじゃないのに。
さっきの言った通り、この小説は私が本当に実際に体験した話を元にした話だ。
本当は小説にはしようとは思っていなかったけど――書かなければ、忘れてしまうかもしれない。そんな恐怖があった。
私は忘れる事に恐怖を覚えている。忘れる事に恐怖の感覚がある。
しかし、忘れる事に恐怖を覚えているというのは、忘れているのに覚えているという矛盾した感じで可笑しな話ではあるけれど……
とにかく、私は忘れないためにも文章にして書かなければならないと。
でも、それだけではない。
もしかしたら、何処かで生きているかもしれない。生きていたら、もしかしたら私に気付いてくれるかもしれない。
なぜ今まで忘れていたのだろうと思っている。
そんな淡い期待でこの小説を書いたけれど、多分もう彼はこの世にはいないだろう。
この話は、彼と私の話。
忘れられていた彼と今まで彼の事をずっと忘れていた私の物語。
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