朱の獣 〜トラウマを抱えた男装少女は至極平凡な学生生活を望みます〜
@MeiLing__
葉が紅に染まる
魔法のiランドで掲載している内容の続きです。
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雅side
「「雅先生、今日からよろしくお願いします!」」
目の前の席に座る二人はやる気だけは十分という様子で今のところ元気は有り余っているらしい。
「...うん。」
11月末から始まる期末テストに向けてこれから二週間、奏と優菜に勉強を教えることになったのだが、
始めてたったの30分...
「うぅ、辛い。」
「もう...、ダメ。」
さっきまでのやる気はどこへやら。
「奏は授業サボるのが悪い。」
「えっ、雅に言われたくないぞ!」
「は?」
「ひぃっ、ごめんなさい。
...でもー、だってー、雅がサボるから俺も一緒にサボりたくなっちゃうだろ?」
なにやら、訳の分からない言い訳をしている奏は勉強できないくせして、いつも俺がサボると一緒に授業をサボっている。
「これからは俺についてくるなよ。面倒見るこっちの身にもなってみろ。」
「うぅ。どうせ授業聞いてても分かんねぇーよー。」
言い訳をする奏は机に突っ伏して駄々をこねている。
「...真面目に受けたことあんの。」
俺はそんな奏に疑いしかない目を向ける。
「無いです。すみませんでした。」
そうして奏は即答すると、手を膝の上に置いて反省したふりをしている。
「優菜は...
授業出てるんだよな?ノートとか取ってる?」
そんな奏をは放っておいて続いて優菜に視線をずらす。
「...はい。真面目に受けてノートも取っております。」
奏に向けた俺の言葉が刺さったのか、優菜は俯いて不甲斐なさそうに返事をした。
「...そっか。
分かんないとこ一から教えるから言ってみ?」
俺は優菜の座っている席の前に椅子を持ってくると、改めて勉強を教える覚悟を決めた。
そうして、しばらく優菜のノートを眺めていると...
「雅くんっ...。」
「ん、何?」
優菜は俺の名前を呼んだと思ったら、顔を手で覆って何かをぶつぶつ言っている。
優菜side
こんな目の前の至近距離に雅くんがいる。
椅子の背もたれに右腕をかけて、左腕を私の座っている席の机の上に置いて、私のノートを見つめている。
ノートを見つめて伏し目がちになった雅くんの長い睫毛が瞬きするたびに揺れる。
その光景があまりにも綺麗でカッコよくて、顔が熱っていくのが分かった。
雅くんのことが恋愛対象として好きだから、こんな些細なことでもフィルターかかっちゃってるのかな!?
あぁっ、勉強に集中しなきゃいけないのに!
フィルターよ、消えて!!
「み、雅。それはヤベェって。」
フィルター、じゃなかった...。
「え、何。俺なんかした?」
無自覚プリンスは健在です。
「ごめんなさい!雅くんは何もしてないよ!」
そう言って私は両頬をパシンッと叩くと勉強と向き合うべくペンを取った。
「うん?
...分かんないとこすら分かんない段階ならここからやってくれる?」
雅くんは何を勘違いしたのか、私のことをものすごい馬鹿であると認定したようだ。
うん、間違ってはないよ?間違ってはないんだけど...。
「これはこうやるんだけど、何でか分かる?」
「え、えっとー...。」
はいそうです。馬鹿とは私のことです。
「これは〇〇だから......△△なんだよ。」
初歩も初歩の一問目からつまづく私に丁寧に教えてくれる雅くん。
...尊い。
「あーなるほど!」
「雅ー、優菜ばっか教えてないで俺のことも見てくれよ〜。」
「...。」
「雅くん、もう一回ここやってみるから奏くんの方行っていいよ!」
「優菜がそう言うなら。」
「雅、俺のこともちょっとは気にしてほしいな?」
「うるさい、どこまでやったの。」
「え、まだ何も。」
えー、それは雅くん怒っちゃうよ。
私でも呆れちゃうよ。
「は?」
「ひぃーっ!
み、雅ー、悪かったから殺気だけはしまってくれぇっ。」
奏くんってなんで学習しないんだろう。
そんな他人事な私は雅くんの、
期待はされていないだろうから期待に似た何かに応えるべくペンを動かした。
雅side
「家まで送る。」
「あ、ありがとう。」
日が沈み、教室の電気を点けてしばらく経つ。
優菜はあれから何とか集中力を保って分からない部分を一つ一つ潰していった。
"やべぇ、そろそろ見回り行く時間だ!雅、教えてくれてありがとな、先帰るわ!"
奏は見回り当番なので途中で帰ったが、正直この時期に奏に見回りさせるべきじゃないと思ってる。
あの調子じゃ次は赤点回避できるかわからないからな..。
「...雅くん?」
「ん、何?」
「ごめんね、勉強も教わってわざわざ家まで送ってもらっちゃって...。」
優菜は百嵐の姫だ。
いつ狙われるかわからないから、基本どんな時も百嵐の誰かと行動を共にしなければならない。
「気にしなくていい。」
元を辿れば優菜が姫という立場になったのは俺のせいだし、危険な目に遭わせたくないからな。
「うん...。ありがとう。」
優菜は俯きながら手をモジモジとさせている。さっきからこちらに視線を送っては俯くということを繰り返しているが、俺はあえて触れないで様子を窺っていた。
「じゃあ、すぐ家の中入りなよ。」
結局優菜は何も言わなかった。
優菜の住んでいるマンションの前まで送り届けると俺は踵を返す。
「み、雅くん!」
「ん?」
服を掴まれたのを感じると、その方向を振り返る。
「あのね、実は相談したいことがあって。」
「相談したいこと?」
「で、できれば女の子に相談したいんだけど...。私、友達いないからっ。」
勇気を出して俺を引き止めたことがその様子から窺えた。確かに優菜が百嵐の奴ら以外と絡んでいるところは未だに見たことがない。
つまり、優菜の言いたいことっていうのは...
「今週末うち来る?」
「えっ、どうして?」
「女子に相談したいんだろ?」
優菜が話の流れを理解できていない様子だったので俺がそう言うと、はっとした顔をして俺を見上げた。
「あっ、...ほんとにいいの?」
優菜は申し訳なさそうに俺を見つめる。
優菜は確か150cmくらい、対して俺はローファーの高さ分も合わせると今は170cm近くあるから自然と見上げる形になる。
"あのわざとらしい上目遣いが気に入らないのよ"と通りすがりの女子たちが言っていた気がするが、元々こういう仕草が原因で優菜は友達を作れないでいたんだっけ。
確かに優菜は頭をあまり動かさず目線だけをこちらに向ける癖があるように思う。
それは彼女の自信のなさから来ていると思っているが、優菜のことをよく知らない人からしたら意図的に上目遣いをしているという風に見えてしまうらしい。
...でもそう言われると俺も目線だけを動かす癖?はある気がする。
俺の場合は何事も必要最低限のことしかしないように、行動が定着してしまっただけだけど。
それ故に様々なことを面倒だからと回避しがちだ。
「別にいいよ。家の中だったら誰にも見られないし。」
一度出かけて以来優菜と女の姿で会うことは無くなっていた。
あの姿で外を出歩くとあの時みたいに面倒なことが起きる可能性が高いし。
優菜も気を遣ってかあの一回限りで、以降誘ってくるようなことは無かった。
優菜side
あれから数日後のこと、私はある部屋の前に立っていた。
ピンポーン
隣に立っている男性がインターフォンを押した。
ガチャリ
数秒後ドアが開く音がすると、緩く巻かれた栗色の長い髪の持つ女の子がこちらをのぞいている。
「お邪魔しまーす。」
まだ何も言っていないのに開きかけたドアを引っ張って彼は中に入っていく。
「なんでレオもいんの?」
「サプラーイズ!
帰りも姫ちゃん送らなきゃだしー、それないっそ女の子の雅と一緒にいなきゃ損だし?
ついでだよー。」
それ完全に私の方がついででになってません!?
相変わらず、積極的で羨ましいやらなんやら。複雑な心中をお察しください。
「帰りは私が送っても良かったんだけど。
...優菜もあがったら?」
「はっ。お、お邪魔します!!」
そう、今日は約束の日...なんだけど、
なぜレオさんがいるのかというと、いちいち送り迎えで男雅君に戻ってもらうのが申し訳なくて...私からレオさんに頼みました。
すると、当然のことながらレオさんも雅く...ちゃん家に行きたいと言うので今日は3人で勉強会?です!
「優菜、良かったの?レオがいても。」
「もちろん!私から頼んだんだしね!」
「そっか。」
玄関で突っ立っていた私を心配してか、雅ちゃんはそこでずっと待っていてくれたようで、
...なんて尊いのでしょうか。
「優菜?大丈夫?」
「はっ。ごめんなさい!今行くね!」
いつもの黒髪は当然似合ってるけど、明るい髪色も似合ってて、いつもとは別人なゆるふわ雅ちゃんに見惚れて動けなくなっていました。すみません。
「レオは勉強しないの?」
雅ちゃんが机に突っ伏してこちらを眺めているだけのレオさんに問いかける。
「授業聞いてれば勉強なんてしなくていいでしょ。」
「えっ、智尋先輩がレオさんは授業出てもいつも寝てるって言ってましたよ?」
「授業出てる時は寝ながらなんとなく聞いてる。」
「なっんと...。天才さんでしたか。」
「ぷっ、天才って。あははっ。それ言うなら雅でしょ。」
「...私は天才でもなんでも無い。」
突如、雅ちゃんから冷たい口調で一言。
いつもはそっけないようで、口調は優しかったんだなと実感する瞬間だった。
「あれ、地雷踏んだ、かな?」
レオさんは気まずそうに笑いながら、珍しく私に救いを求めてくる。
最近何となくぎこちない二人に元に戻ってもらいたいという裏ミッションがあったのに、何でこんな空気に?
「み、雅ちゃん!ここが分からないんだけど。」
なんとか勉強モードに戻ってしばらくすると、いつの間にかレオさんは眠りについていた。
ふぅ、なんとかさっきの殺伐とした雰囲気を脱せて良かった。とはいえ、根本的には何も改善してないんだけども。
「わぁ、やっとここまで来たよぉ。」
「...それで?」
肩肘をついてこちらを見つめる雅ちゃんは、今日の本題に移ろうとしているようだ。
レオさんも眠っているし、ちょうどいいかも。
「実は...」
雅side
今日の本題に入ろうと促すと、優菜は緊張しながら口を開いた。
「実は...
蒼大に告白されたの!」
「...。」
うーん、困ったな。
この手の話題には疎い方なんだけど。
話を聞いて欲しそうに見えたから声かけたのは良かったけど、家族の中が拗れてとかそういう系かと思ってた...。
「ってことは本格的に三角関係ってわけだ?」
「きゃー!レオさん起きたんですか!?」
「寝てるフリするなら最後までしときなよ。」
「えー!雅ちゃん気づいてたの。」
レオは本気で寝る様子も無かったから話を切り出したんだけど、なんで話に入ってくるかな。
「ていうか、蒼大永遠に告白しないのかと思ってた。姫ちゃんは相変わらず雅のこと好き好きオーラ前回だったのにね〜。」
「何言ってんの。
それで?私はどうすればいいの?」
「あ、えーっとぉ。もしかして私だけが知らなかったやつですか?」
「姫ちゃんだけ知らなかったやつだよ。」
「そう、なんですね。
蒼大には初めの頃からすごく良くしてもらってて、あぁ、この人は誰にでも親切にできてすごいなぁって思ってたんです。
でも、そうじゃないって直接蒼大から言われて...。」
「失望した?」
私が受けるべき相談を代わりにレオが受けているような...。
「そんなんじゃないです!むしろ自分がこれまで蒼大の優しさに甘えていたんじゃないかと思ったら申し訳なくて。」
「姫ちゃんは今も雅のことが好きなんだよね?」
本人の前でそんな話する?今私の存在は空気と化しているようだ。
「どうなんでしょう。最近は恋愛の好きから推しに対する好きに変わっているような気もします。」
「ふーん。1人ライバルが減るならいいけどね。」
「だからって抜け駆けは許しませんよ!」
「さっきと言ってること違うじゃん...。」
「私の目の前でよくそんな話できるね。私席外そうか。」
流石に気まずくなって居ても立ってもいられずそう言葉を発しながら、席を立とうとした。
「あわわ!ごめんー!ついレオさんの口車に乗せらちゃって!こんな話がしたかったんじゃなくて、ちゃんと雅ちゃんに相談したくて!」
レオside
「失礼だなー、姫ちゃんは。」
「それでね、私男雅くんを好きになれたんだから、ちゃんと他の男の人も好きになれるんじゃないかって、最近思いなおしてね。」
俺のことを無視しつつ、雅に向き合い直した姫ちゃん、もとい神田 優菜という人物は、不思議と雅の次にそばに近寄られても気分を害さない人物でもある。
ちゃんと距離感を保つし、決して俺には触れてこない。よくここまで気遣いができるなと感心するほどだ。
まぁ、俺が拒否反応示さなくなったのも雅が信用している人だからっていうのが一番大きいと思うけど。
「うん?」
雅は姫ちゃんが何を言いたいのか分かっていない様子。雅こういうことには疎そうだもんなー。口挟むなって無言の圧力感じだから何も言わないけど。
「えっと、だからね。好きでもない相手と付き合ってみるっていうのは雅ちゃん的にはどうかなって!
やっぱり軽蔑する?」
「あー、んーと。別にいいと思うけど?」
「ほんと!?」
なんか色々端折ってる気がするけど大丈夫?
「蒼大と付き合ってみるってこと?」
「...うん。まだ返事はしてないんだけど、好きじゃなくても試しに付き合ってくれないかって。
私も蒼大のことなら、もしかしたら好きになれるかもって思って。」
「世の中には女同士が好きって人いっぱいいると思うけど、それでもそっちの可能性を捨てたくないんだ?」
「そうかもしれないけど...。私にもいろいろあったんです。」
つい口を出たその言葉に対して弱々しく返事をする姫ちゃん。
「レオ。」
雅は俺を見て何やら事情をしているようなそぶりで首を横にふる。
俺は空気を読んで再び黙ることにした。
「私はいいと思う。ダメだったらその時考えればいいよ。
蒼大には悪いけど私は優菜の方が大切だから、ダメでも今回の件が優菜の第一歩になったら嬉しい。」
雅は席を立つと姫ちゃんの隣の席に座り、姫ちゃんの頭を撫でながら微笑む。
「雅ちゃん...。わーん、やっぱり大好きー!」
そう言った次の瞬間雅に抱きつい、て!?
「な、俺の目の前で何抱きついてんの?」
「女同士だから許されるんです!男雅くんには抱きついたりしませんから!」
「許されないけど?雅もなんとか言って?」
「私は別に良いけど。女同士だし?」
雅のそのなんでも受け入れるところ大好きだけど、他の人に向けられるとなんでこんな気持ちになるんだろう。
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