うすらひの記
うめ屋
一
醜い女であった。
枕元の乱れ箱にぐるりと巻かれて収まる黒髪こそ長くつややかで見事だったが、顔の大半は疱瘡を患ったあとの赤黒い
女は醜かったが、心根は呆れるほどに無垢であった。
容貌の醜さをどれほど家の者になじられようとも、蹴られようとも怒らなかった。果ては唾棄され、陰鬱とした湿った蔵に押し込められても、怨みごとひとつ言うでもなかった。くろぐろとした杏仁形の瞳の澄明さに、その心根の涼しさとかつての美貌の片鱗が覗いていた。
――若せんせい。
と女は雪ひらを呼んだ。春風のような軽やかさと、年少の者をくすぐるがごとき笑みでもって。
雪ひらはそう呼ばれるたびに顔をしかめたが、半分は年上の女に対する羞恥からであるとわかっていた。それほどに、雪ひらはまだ若かった。女という生きものの肌の匂いすら知らなかった。
女はくたびれた浴衣を着て、日がなほとんどを
女の躰が朽ちる前に、女の両親はその身を有益に使いたがった。嫁げもせず働けもせず、無駄な食扶持を養い続けるくらいならというわけである。だから雪ひらに依頼がきた。若き雪ひらは、すでにそうした闇の世界に半分足を突っ込む藪医者だった。
――若せんせい。いいのよ、わたし。わたしの躰が役に立つのなら、それでよいと思っているの。
女は細く澄んだ声でそう言い、口元にほのかな微笑を浮かべた。やはりその表情には一片の怨みもなく、女はふっと息をついて目をつぶった。生えそろった睫毛の曲線がうつくしい陰影を形づくった。
それが、女とのひと夏の記憶である。雪ひらのまなうらに、褪せども消えぬ爪痕を遺していった儚い女の面影である。
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