第13話:始まりの戦士

 五十嵐いがらしは手に持った剣、インジェクトソードの鍔にプラグインを挿し込む。


saviorセイヴァー


 救世主を意味するプラグインの名前を、ガイダンス音声が読み上げる。

 そして五十嵐はインジェクトソードの鍔を左腕に当てがう。


「インジェクト」


 そしてグリップのトリガーを引いた。

 プラグインに内包されていた超常エネルギーが、五十嵐の全身に注入される。

 凄まじい光と共に、五十嵐の身体が変化し始めた。

 純白のロングコートに、金の差し色。

 頭部は一本角が生えたフルフェイスメットに覆われる。

 そして背中からは輝くエネルギー体で構成された翼が出現していた。


uploadアップロード savior》


 光が収まり、変身を完了させた五十嵐が姿を見せる。

 香恋かれん健太けんたは唖然となっていた。

 五十嵐がインジェクトソードを使った事もだが、それ以上に彼が使用したプラグインに対してだ。

 セイヴァープラグイン、そんなプラグインは聞いたことが無かった。


「セイヴァー……救世主って意味だっけ」

「正解だ。故に俺は守護者……お前達が呼ぶところの、始まりの戦士だ」


 香恋の言葉に答える五十嵐。

 そして彼は自分こそが始まりの戦士であると名乗った。

 もはや香恋の理解追いついていない。

 それを気にせず、五十嵐は目の前で再生を始めているシンへと向く。


光里ひかり町の近くに大型級が出るのは珍しいな……消灯の日とはいえ、流石に面倒だ」


 五十嵐の目の前では、シンが再生を終えて咆哮を上げている。

 明らかな怒りの咆哮。この後の攻撃は激化すると容易に想像がつく。

 しかし五十嵐は動じない。静かにインジェクトソードを握りしめる。


「――――――――――――――!」


 再生を終えたシンは、勢いよく触手を叩きつけてくる。

 当たれば漁船など容易く粉砕されてしまうだろう。

 しかし……


「無駄だ」


 五十嵐はインジェクトソードを一振りする。

 すると光の刃がいくつも刀身から放たれ、シンの触手を全て斬り落としてしまった。

 痛みに悶える大型級のシン。


「うそ……一瞬で!?」


 香恋はただ驚く事しかできなかった。

 触手一本を対処するのも大変な大型級のシン。

 その触手をただ一人で、一瞬にして全て切断してしまったのだ。

 これ程の力を持つ者はバスターズでも聞いた事がない。

 故に香恋は、五十嵐の始まりの戦士という名乗りは、決して嘘ではないと確信した。


「――――――――――――――!?」


 海上で暴れるシン。

 しかし何かがおかしいと、香恋は感じる。

 先程切断された触手が、まるで再生する様子を見せないのだ。

 再生しないのではなく、できない。

 暴れるシンを見ると、香恋にはそう見えてしまった。


「再生を封じられたのは初めてか? シンよ、それが痛みという概念だ……お前達がこの地球に与えたものと同じ概念だ」


 シンに人間の言葉は理解できない。

 ただ激情に身を任せて、海面に脚を叩きつける。

 そして口の中には大量の卵を溜め始めていた。


「――――――――――――――――――!」


 咆哮と共に、シンは口から卵を解き放った。

 弾幕の如く撃たれる卵。

 五十嵐は無言で左手の平を前に出した。


「効かん」


 薄い光の膜が、漁船とシンを遮るように展開される。

 まるで防御にならないようにも見える膜。

 しかし射出された卵が膜に触れた瞬間、卵は一瞬にして蒸発してしまった。

 何発撃ち込まれても同じ。卵は全て蒸発してしまう。


「覚えておけ。シンが地球を蝕む病原菌だとすれば、プラグインはワクチンだ。正しく使えば我々人類が負ける理由などない」


 その言葉は対峙しているシンだけでなく、後ろで見ている健太と香恋にも向けたものであった。


「とは言っても……人類が存在する限り、永遠に戦いは終わらないがな」

「えっ……それってどういう」


 香恋が質問しようとするも、五十嵐は光の翼を広げて船から飛翔した。

 インジェクトソードを構えて、大型級のシンに切先を向ける。


「時間がかかると学習をしてしまう。さっさとケリをつけよう」


 五十嵐はインジェクトソードの鍔を、再び左腕に当てがう。


《savior punishmentパニッシュメント strikeストライク!》


 ガイダンス音声が流れると、インジェクトソードの刀身が眩い光に包まれる。

 凄まじいエネルギーを帯びた剣を構えて、五十嵐は大型級のシンに飛びかかった。


「――――――――――――――――!」


 八本の脚を海面に叩きつけて、大型級のシンが五十嵐に体当たりを仕掛ける。

 普通の戦士が当たれば、無事では済まない体当たり。

 しかし五十嵐は回避などしない。

 インジェクトソードから光の刃を伸ばして、躊躇いなくシンの身体を斬りつけた。


「――――――――――――――――!」


 凄まじい悲鳴を上げるシン。

 五十嵐が振るったインジェクトソードによって、シンの身体は口から胴体にかけて斬り裂かれる。

 そのまま数秒もかからず、シンの身体は縦に両断されてしまった。


「再生は許さない。そのまま核諸共、死滅しろ」


 もはやシンから声は聞こえない。

 両断されたシンの身体は、そのまま海に倒れ込んでしまう。

 そして海中に沈むよりも早く、巨大なシンの身体は塵とも灰とも分からぬものと化して、消滅した。


 シンの消滅を確認した五十嵐は、漁船に戻ってくる。

 香恋はそれを呆然と見ていた。


「怪我人はいるか?」

「えっ、はい……先輩が治療中です」


 あまりにも凄まじい光景を見た直後だからか、香恋は間抜けな声が出てしまう。

 五十嵐は短く「そうか」と言うと、奥で治療をしている健太の元へ歩み寄った。


「あと少し!」


 治療も終盤に入っている。

 五十嵐はそんな健太を黙って見守っていた。

 ゆっくり、的確に、健太は卵を切除していく。

 そして……


「よし、切り離せた!」


 完璧に卵を切除した。

 そして間髪入れず五十嵐が手を伸ばす。


「卵をこちらへ。俺が消滅させる」

「えっ? はい」


 とりあえず言われるがままに、健太は切除した卵を五十嵐に手渡す。

 シンの卵を手にした五十嵐は、プラグインのエネルギーを手に集中させた。

 白い光が卵を包み込む。そして五十嵐は卵を跡形もなく消滅させた。

 その間に健太は石田の傷の治療を行う。

 ここにきてようやく、健太にも余裕ができた。


「五十嵐さん……アンタ何者なんだ?」

「さっきも言ったが、お前達が始まりの戦士と呼ぶ存在だ」

「始まりの……戦士」


 静かに戸惑う健太。

 五十嵐はしゃがんで、治療を受けている石田の身体を見る。


「……良い腕だな。卵の根も残っていない。プラグインの特性を理解している証拠だ」

「そりゃ……どうも」


 そう答えながら、治療を終えた健太。

 石田の身体には傷跡一つ残っていなかった。

 それを見届けると、五十嵐は立ち上がる。


「さぁ、港に戻ろうか」


 五十嵐は光の翼を広げて漁船を押していく。

 健太もウイングプラグインを使って、漁船の移動を手伝うのだった。

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