第23話
▫︎◇▫︎
お花に包まれたお庭の芝生を踏み締めた小さな女の子が、わたしの方に向かって走ってくる。
「かあたまー!!」
わたしの耳に響く愛らしい幼な子の声に、わたしの頬は自然と緩む。
漆黒の癖っ毛に氷色の瞳を持つわたしの可愛い子は、今日も元気いっぱいにお庭を駆け回っています。走るたびにたんぽぽ色の生地に大柄のお花の意匠のお着物と市松模様の朱色の帯がはだけてしまっていますが、それも含めて愛らしいのですから困ったものです。
「みてみてー!!まちゅりがとってきたのー!!おねーちゃんできてえらいでしょー!!」
ぽっこりと膨れたわたしのお腹にそっと抱きついた3歳になる娘の茉莉は、最近お姉ちゃんとして振る舞うことがお気に入りのようです。
「あらあら、可愛いお花ですね。椿かな?」
「ちゅばき!!」
真っ赤でぷっくりとまあるいお花は、可愛い茉莉が持っていると、それだけで本当に愛らしい。
親馬鹿が過ぎるのは重々承知しております。
「鈴春、茉莉。まだ外にいたのか?」
「とーたま!」
今日も今日とてシャツにサスペンダー付きのスラックスの上に割烹着に身を身につけた旦那さまは、お玉を片手にお庭に出てきます。
「もう昼餉のお時間ですか?」
「ひるごにゃん!!」
「“昼ごはん”な」
冷静に突っ込む旦那さまはとっても可愛いです。
旦那さまと結婚して早6年。
わたしはもう少しで二児の母となります。
娘が生まれてから一生懸命に練習してやっと着られるようになったお着物は、妊婦さんでも過ごしやすく2人目の子供ということもあって安定して過ごせています。
まあ、ほとんどの家事を全て旦那さまがしてくださっているというのもあるのかもしれませんが………。
「今日の昼餉は何ですか?」
「オムライス」
「やっちゃー!!」
「よかったですね、茉莉」
「鈴春は?」
「わたしは旦那さまの作るもの全てが喜びで溢れていますよ」
「そうか」
6年前のあの日、家族を人間に惨殺されたわたしと旦那さまは最悪な形で始まりした。
わたしが何度か人間を殺しかけたり、旦那さまが周囲の反対を押し切って色々やらかしたりと紆余曲折を得て、やっと旦那さまと“本当の夫婦”になったわたしの胸には、皇女として過ごした時よりも多幸感が満ちています。
大好きな夫と娘に抱きついたわたしは、にっこりと笑いました。
「大好きよ」
澄み切った大空の下、わたしは今、大好きな夫と愛おしい娘と、もう少しで生まれるであろう可愛い吾子に囲まれて、幸せに暮らしていますーーー。
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