第10話
▫︎◇▫︎
次の日も、また次の日も、わたしの奮闘は続きました。
朝起きてすぐから夜眠る直前まで旦那さまについて回りました。
お洗濯もお料理もお掃除も、………わたしがお手伝いすると全て二度手間になってしまいました。本当に申し訳なくて、でも、わたしが泣きそうになる度に、旦那さまはぽんぽんとわたしの頭を撫でて、前回よりも上手にできていたと褒めてくださいました。それが無性に嬉しくて、安心して、わたしはいつしか旦那さまの後ろが定位置になっていました。今では、出会った頃に威嚇していたことが遠い過去のように感じます。お手洗いにまでついて行ってしまって困らせたこともありましたが、今ではちゃんとお手洗いに行こうとしているか否かも見分けられます。
今は、旦那さまにお申し付けられたお料理に挑戦中です。
ここ1か月一生懸命に旦那さまについて回ったわたしは、ほんの少しだけ家事をお任せしていただけるようになりました。まだまだ下手でよく失敗してしまいますが、旦那さまは笑って許してくださいますし、本当に危ない失敗をした時には、しっかりと何が駄目だったのかを理路整然と説明してくださいます。
今日わたしが任せられたお料理は卵料理です。
大きな卵4つをふんだんに使うだし巻き卵は、わたしが初めて習った料理で、わたしの大好物でもあります。けれど、このだし巻き卵、思っていたよりもずっとずっと難しいお料理なのです。
溶き卵を巻くのでさえもなかなかに難しいことですのに、お出汁や醤油、砂糖、味醂を溶き卵に混ぜて巻くともっと難易度が上がってしまうのです。溶き卵が水っぽくなってしまうせいでぐじゅぐじゅに崩れてしまいますし、醤油や砂糖を加えると焦げやすくなってしまいます。
かれこれ10回目をも超えるこのだし巻き卵への挑戦は、今日、無事に成功しました。焦げた色のない甘い薄黄色の卵は均等な厚さでいてバランスの良い楕円形に巻かれています。
わたしの腕には大変重たく感じられる卵焼き器から、木目が可愛らしいお魚さんの形のまな板にだし巻き卵を移し、旦那さまがわたし用にご用意してくださった少し小さめの包丁で4等分する。
笹の柄が美しい横広の楕円型の丸皿にだし巻き卵を移し、包丁とまな板を流しへと丁寧に入れたわたしは、フリルと白うさぎさんの刺繍が愛らしい割烹着を着たまま台所を出発します。今の時間帯ならば旦那さまは書斎で書類仕事をなさっているでしょう。
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