タカナシ怪奇譚 蜘蛛の滝

タカナシ

「蜘蛛の滝」

 こんばんはタカナシです。


 ここ関東地方にはアシダカグモという超デカイ蜘蛛が生息しているのです。

 それを初めて見た方にはそれだけでホラーでしょうが、私からすると夏から秋にかけての風物詩のような対象になっています。


「朝蜘蛛は殺すな」


 という言い伝えもある通り、私は蜘蛛は基本殺さず逃がすのですが、そうなったきっかけは幼少時代にあります。


                 ※


 私が住む鴨川市には蜘蛛の滝と呼ばれる滝が存在しているのですが、滝自体はちょろちょろと流れるだけのもので、とても龍神伝説とかが生まれるような雰囲気のものではないです。

 穏やかな川へと続いている為、知る人ぞ知る釣りスポットになっているのです。

 この蜘蛛の滝には銀色の糸を出す蜘蛛がいるという御伽噺があります。

 その話では釣り人の足に何度も銀色の糸が巻き付き、その度にその釣り人は近くの柳の木に糸を移していたそうです。

 そうしていると、大きな音がして、その柳の木は川へと吸い込まれていき、驚いた釣り人はそのまま、急いでその場を後にしたという話です。


 ことの真偽は分からないですが、そんな伝説のある滝に私は友人と共に遊びに行きました。

 当時は伝説なんか知らず、単純に遊びに行っただけだったのですが……。


 道中、前日に雨でも降ったのか、蜘蛛の巣に水玉が残り、キラキラとキレイだったことを覚えています。

 

 友達と川で遊んでいると、誰が一番川を早く横断できるかという競争になりました。

 結果は運動神経のない私がもちろんビリだったのですが、川を渡っている途中、急に流れが速くなり、足を取られてしまいました。

 今までそんな狂暴な表情を見せなかった川の勢いに焦りながらも、流されないように地面に手を掛けるのですが、川底の砂利を掴むだけで、そのまま流されていきます。


 友達が慌てた表情を見せる中、不意に右腕を引っ張られる感覚と共に、川っぺりへと上がったのです。

 周囲には誰もいないですし、友達から見たら、私が自力で上がったように見えたそうです。


 その日の夜、シャワーを浴びていた私はふと鏡に映った自分を見ると、右腕にはまるで糸で何重にも巻いたような薄い線がアザとなって現れていました。


 何が起こったのか分からずにいたのですが、親に聞くと、蜘蛛の滝の伝説を教えてもらいました。

 たぶん、蜘蛛が助けてくれたのだと思っているのですが、真相は今でもわかりませんし、なぜ助けてくれたのか、それすら分からず仕舞いです。

 ただ、それ以降私は極力家に現れた蜘蛛を殺すことはなく、頑張って捕獲して外に逃がしています。

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