第31話 攻略と完全攻略、どっちがお好み?

「第2陣がくるのかにゃ♡」


 転移ポータルが無数に展開され始める。

 次はゴーストやアンデッドよりも上位のモンスターだろうか。

 また、もえきゅん☆のターンアンデッドで消せる?


「でも飽きちゃったからもういいかな~♡ Break Spell♡」


 ブレイクスペル。

 もえきゅん☆がソロモンの杖を掲げて、またもや聞いたことのない呪文を唱える。


 転移ポータルがすべて消えた。


「何……今の呪文」


「魔術の構造破壊かにゃ♡ 詠唱に時間がかかる系の呪文は理論上すべて破壊可能なんだぞ♡」


 もえきゅん☆がドヤ顔で高笑いしている。ソロモンの杖も一緒に笑っているように見える。

 いや、すごい。ホントすごいよ。


“これやられると大魔法は一切使えないんだよね”

“対人最強”

“さすがもえきゅん☆”

“今日の配信見ごたえあるな”


 再び転移ポータルが展開される。

 数はさっきの倍以上だ。


「ムダよ~♡ たくさん展開すれば大丈夫だと思った? ざんね~ん♡ Break Spell♡」


 もえきゅん☆は、あっさりとすべての転移ポータルを消し去った。

 ソロモンの杖を手にしたもえきゅん☆に敵はいないのかもしれない。


「もういい加減、姿を現したらど~?」


 何もいない虚空に向かってもえきゅん☆が大声を上げた。


 無反応。

 転移ポータルも開かない。


「こんなこそこそと罠を仕掛けても、モエは痛くもかゆくもないし、あなたのことを気にかけたりしないんだぞ~」


 無反応。


 もえきゅん☆はこの罠を仕掛けた犯人を知っている。

 言い方からして、おそらくとても近しい存在の人物なのだろう。

 心がチクチクする。


「無視ね? 無視なのね? あと3秒待っても出てこないなら、空間ごと破壊するからいい~? 3・2・1! ブブ~時間切れ~」


“短w”

“もえきゅん☆怒ってる?”

“犯人出てこいよオラー”

“ストーカーか?”

“愉快犯?”

“言い方的に知り合いだろ”

“おれじゃねーよ?”

“み つ け た”

“こえーわ”


「もえきゅん☆? 落ち着いてね?」


 わたしに言えることはこれくらいしかなかった。

 いらだっているような、楽しんでいるような、どっちとも取れる表情。もえきゅん☆の考えていることがわからない。


「アクア様~。このままだと調査が進まないから、さっさとこの空間を破壊して出ましょ♡」


 もえきゅん☆はわたしのほうを振り返って、ソロモンの杖をクルクルと回して見せた。これは怒ってるほうだなあ……。


「わかったわ。もえきゅん☆の気の済むようにどうぞ。でも、どうやって空間の破壊なんてするのかしら?」


 さっきのブレイクスペル?

 それとも物理的に叩いて壊すとか?


「アクア様は攻略と完全攻略のどっちが好きかにゃ♡」


 めっちゃ素敵な笑顔ー。どっちにしてもバイオレンスな結果にしかならなそうなのがすっごい怖い……。

 たぶん、この空間をどこまで破壊するかって話よね……。


「モエは~、配信中に仕掛けてこられたんだから~、配信中にケリをつけるのがフェアーだと思うの♡」


「つまり……」


「完全攻略だぞ♡」


 ですよね~。

 まあ、止めないけど。


“やっちゃえもえきゅん☆”

“破壊神降臨”

“天地創造の資金にお使いください ¥10000”

“犯人出てくるのか?”

“こわせ~破壊しろ~”

“アクア様あきらめ顔で草”


「は~い。じゃあ全部壊すから覚悟してね~! Magical Interference♡」


 もえきゅん☆が呪文を唱える。

 魔力による干渉?


 ソロモンの杖が空中に浮かび上がっていき、もえきゅん☆の頭上3メートルほどの高さで静止する。


「第1層の偽装破壊♡」


 もえきゅん☆の声に反応し、ソロモンの杖がオレンジ色の光を放つ。

 杖に意思があるかのように、浮遊・旋回し光を地面や天井に照射していく。


「あらあら♡ 簡単に偽装がはがれちゃって♡」


 オレンジ色の光が当たった箇所からなめらかな材質の石が剥がれ落ち、その奥が露出しだす。

 見えてきたのは荒い描画の闘技場。

 見覚えがある。


「これは……シミュレーターの闘技場?」


「そ~♡ モエたちは仮想空間に誘導されて、そこでシミュレーターのモンスターと戦わされてたってわけ~♡」


“今シミュレーターだったのかよ”

“すげ~気づかなかった”

“リアルのダンジョンとつなげられるもんなのか”

“高度な情報戦”

“もえきゅん☆さすが~”


「全然気づかなかったわ……」


「空間がのっぺりしてるし、床も重厚感がないから、ちゃんと見れば作り物だってすぐにわかるんだぞ♡」


「ちゃんと見たのにわからなかったわ……。やっぱりもえきゅん☆ってすごいのね」


「もっとも~っとほめてもいいんだぞ♡」


「もえきゅん☆はかわいくて、頭が良くて、強くて、天使みたいね!」


「ふふふ、ありがと♡ じゃあ第2層の強制停止♡」


 にやけ顔のもえきゅん☆は、ソロモンの杖に次のオーダーを出した。

 今は、ソロモンの杖から放たれた光で、あらかたシミュレーターの闘技場が露わになっている状態だ。

 もえきゅん☆のオーダーを受けて、ソロモンの杖はオレンジの光をいったん中止。エメラルドグリーンの光に変えて照射を再開した。

 今度は何をするんだろう。


『システムに異常が発生しました。20秒後に強制再起動を実行します』


 どこからともなく、システムアラートのアナウンスが聞こえてくる。


『19・18・17――』


 カウントダウン。これは?


「シミュレーターに干渉してシステムを止めちゃった♡ 再起動がかかるから、一瞬目をつぶって衝撃に備えてね♡」


「え、衝撃⁉」


「強制シャットダウンだから、目を開けてるとめまいを起こすんだぞ♡」


「わ、わかったわ!」


 言われたとおり、固く目をつぶる。


『3・2・1・再起動します』


「アクア様、もう目を開けても大丈夫だぞ♡」


 もえきゅん☆に肩を叩かれて、恐る恐る目を開く。

 目の前にはもえきゅん☆顔。もえきゅん☆がわたしの顔を覗き込んでいた。ち、近い。


「なに⁉」


「ん~。再起動の衝撃はないかな~って一応確認♡」


「見てわかるものなの?」


「ん~ん、わかんにゃい♡」


 えー。


「でも問題なさそ♡ 無事4階と5階の連絡通路に戻ってきたね♡」


 たしかに。

 見れば、わたしたちは5階へと通じる通路の途中に立っていた。


「ここで強制的にさっきのシミュレーター空間へ?」


「そういうことかな~。ここを通るときに、隠されてたシミュレーター起動用のポータルを踏まされたんだと思う」


 そんなことができるんだ。


“無事か!”

“画面が真っ暗になってよくわからなかったけど、2人が無事で何より”

“通常空間復帰おめ! ¥2000”

“何事もなくてよかった!”

“犯人は登場せずか”


「ん~ん♡ これから登場しま~す♡」


「え、犯人⁉」


「そうだぞ♡ 招待状を贈ったから今から来るんだぞ♡」


“マジかよw”

“公開処刑っすかwww”

“犯人はよ”

“盛り上がってまいりました!!!!”

“どんなやつなんだ”

”犯人見てるぅ?”


「もえきゅん☆ムチャなことはしないでよ……」


「大丈夫♡ 平和的に解決がモットーだぞ♡」


「さっき空間破壊したよね……」


「必要な犠牲は払うんだぞ♡」


 ニッコニコの無敵なもえきゅん☆には何を言っても通じない。

 まあ、ホント、いきなりケガさせたりしないでよね……。


「それでは黒幕1名様ご案内しま~す♡」


 もえきゅん☆の宣言とともに、転移ポータルが開く。


「これはこれは、もえきゅん☆直々のお招き、光栄だね」


 転移してきた人物は恭しく頭を下げ、もえきゅん☆の手を取る。


「マックス。どういうつもりなのか説明しなさい」


 もえきゅん☆はその手を払いのけて冷たい声で言った。

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