その話、私にかえしてください。

ボウガ

第1話

 ある売れない怪談作家の男がいた。本を一冊二冊だしているものの、ぱっとしない。短い話ばかりで、長い話は得意ではない。日頃うなされるようになり、寝ていても、文章の事ばかり考えてしまう。そんな時だった。彼の脳内にある話が降りてきたのは。


 それはなんてことない話だった。ある学生が、キリの濃い町に迷い込み、迷子になる。街中を探索したあとしばらくして、人を見つけ、手を伸ばすと、振り返った姿が骸骨で、まるで死神のような装束をきている。そして死神はいうのだ。

「お前、誰かをうらんでやいないか、そうでなければ、ここへはこれないものだ、ここは業をつんだものが死神になるための修行場だ」

 はっとして目が覚める。その学生の手には、藁人形が握られているという話だ。


 この話を思いついたあと、本にしようと書留め、担当編集に話をするとするりと通った。だが問題がおきた。ある日深夜怪談番組を見漁っていると全くと言っていいほどに通った話がある怪談作家から話されていた。それもそれなりに有名どころだ。男はまよったが、これは知らないことにしよう、実際夢にみたのだから、とそのまま本をかきあげてしまう。


 本がでてからしばらくしてその怪談作家から担当編集を通して連絡があった。

「どうかあの話を取り下げてくれないか」

 やっぱりだ。まずいことになった、と思った彼は

「あれは夢でみたもので、あの本はかなり売れた、取り下げるわけにはいかない」

とつっぱねた。


 それでも、数週間、数か月たっても、必死に連絡がくる。あの話をやめろ、あの話はだめだ。男にも、意地があり、ついに会って話すことにした。そうすれば納得してもらえるだろう。その頃には、男は別の作品も成功していたし、言い負かす謎の自信さえもあった。


 そして二人が顔を合わせる当日。カフェでまっていると気弱そうな男がきた。想像通りだ。なんとかいいくるめることもできそうだ。彼に続いて二人の共通の知り合いも、仲を取り持つためといって同席した。そして奇妙な話し合いがはじまった。

「この話をきいてもとりあげてくれませんか」

 と突然きりだす先方。男は今までの経緯を話す、と、相手もふむふむと相槌を打ちながら聞いて、そしてこうきりだした。

「きっと勘違いしていらっしゃるでしょうが、私は権利や何かについてうるさくいうつもりはないのです、ただ“この話は祟る”という事なんです」

 その切り口に、共通の知り合いも一瞬度肝を抜かれた顔をする。

「一体何を言い出すかと思えば」

「本当なんです、この話自体は、私の親友でもあったある作家が書いたものなんですが、それを私がだまって……彼の死後発表して、それ以来私はある呪いに悩まされているのです」

「どんな?」

「夜、彼が現れ、私にいうのです、話が彼の作であることを話して、私の無念を晴らせと、そうしなければ一人ずつ、君の周囲の人間の命を奪うと」

「ばかばかしい」

「本当なんです、私は次の本でその事実を公表するつもりです、彼も同意してくれました、ですがあなたは、あなたは部外者だ、たまたま彼の夢をみてしまったに過ぎない人だ、きっと今ならやり直せる、お願いだから」

 その言葉を一蹴して、立ち上がり作家の彼はその場を去った。


 その一週間後、彼は自宅で亡くなっているのを発見された、不審死で原因不明だった。その後、彼を説得しようと試みた作家は共通の知り合いにこう話していた。

「彼にもプライドがあった、もっとうまく、信じてもらえるように話しをするべきだった、だが彼があの夢をみたのも、私の死んだ友人が彼を恨むのも、そもそもこの話すべてがおかしな点があるのだ、本当にこの話をつくったのは私なのだ、私が死んだ友人の寝ている耳元で何度となく、彼を勇気づけ、彼の創作として彼の作家人生を歩ませようと作った話で、彼は死の間際にその話を思い出しつづったのだ、それがまさか、一人の作家のプライドを死後焚きつけて、またほかの人間の夢にあらわれ、プライドを焚きつけるだなどと、こんな呪いの話になるだなんて思いもしなかったのだ」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

その話、私にかえしてください。 ボウガ @yumieimaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る