第48話 勧誘
「ただいま」
「お帰りピエトロ。ご飯なら出来てるよ」
「ねぇ、ここでくらい普通に名前で呼んでよ。恥ずかしいじゃん......」
「ははっ、ごめんごめん。それで、新しい情報は手に入ったかな?
「まぁ、手に入ったっちゃ入ったかな。
小さな町の何の変哲もないふつうの宿。
現在、ここが私達の拠点だ。
拠点と言っても、そんな大層なものでもない。一応私達もサナティオ否定派になる訳だけど、否定派の人達と行動を共にしている訳では無い。
サナティオを撲滅する為、サナティオの発生源を探しているのだ。
ここには、私と正志君の二人で先週から居座っている。
昨日は少し時間をずらして、それぞれ別行動をしていた。
「
「......え?」
「最近、噂になっている追放者......バニッシャーの正体だよ」
天井に打ち付けられそうになった時......あの魔法は、明らかに明来君の固有魔法だ。
まるで時が戻ったかのような治り方をしていた。
それに男三人の怪我も治っていたし、最後の剣先が飛んで戻ったのだって、明来君がよくやっていた戦法だ。
私は、先程あった出来事を全て話した。
「なるほど......確かに、話を聞いた感じだと明来君のように思えるね」
「向こうは、私だって分かったのかどうか......フードしてたし、攻撃して来た時は確実に分かって無かったと思うけど」
逃げたという事は、勝てないと思ってなのか......それとも、私が早瀬美月だと気付いたからこその行動なのか。
「どちらにしろ、再び会えたとしてもまた逃げられてしまいそうだね」
「うん......」
「今後の事を考えると、明来君は何としてでも引き入れたい」
今後か。
そうだ、これから起こること......これから直面するであろう大きな問題に対処するには、明来君の力が必要不可欠だ。
「明来君を引き入れよう。もし、バニッシャーが明来君じゃなかったとしても、大きな戦力になると思う」
「そうだね。作戦を考えよう」
明来君は、多分私達の話を聞いたりしないと思う。
二ヶ月前に一人でどこかへ行ってしまったっきり、全く会っていないからだ。
スマホとか無いし、連絡手段が難しいというのもあるのだけれど、それにしても避けられていた気がする。
まぁ......豪一君にも殴られちゃったし、流石に一緒に行動するのは無理だよね。その気持ちはよく分かる。
だから、多分私達が声をかけても無視されてしまう可能性が高い。
明来君を説得する事が出来るのは、仲が良くて明来君の事をよく分かっている人。
「良いこと思いついちゃったかも」
──────────
「そうね......多分、また森に居るんじゃないかしら。それにしてもまた来てくれて嬉しいわぁ。良かったらゆっくりしていってね」
「ありがとうございます。ではちょっと、行ってきます」
「行ってらっしゃい。もしかしたら機嫌が悪いかもしれないから、気を付けてくださいね」
私と正志君は、村の近くにある森へと向かった。
この村に来るのは二回目だけど、一回目と違って歓迎してくれる。
急に押しかけてしまって申し訳ないけれど、こうして優しくしてくれるのはとても嬉しい。
村近くの森は、とても巨大な木で出来ている。
一本一本が百メートル近くあり、太さも十メートル以上という破格の大きさだ。
まるで小人にでもなったような気分で、森の手前まで歩く。
「どんな様子?」
森の前には、門番のように甲冑と剣を装備した騎士が二人いた。
森の中をずっと見つめていたようで、私に話しかけられて少し驚いていた。
「はっ!お疲れ様です!今のところは、特に変わった様子も無く。たまに機嫌が悪かったり、と思ったら急に落ち込んだりと、情緒がやや不安定なところがあるかと」
「なるほど。ありがと、ちょっと借りて行くね」
「え」
「大丈夫。許可は取ってるから」
嘘だ。許可なんて取っていない。
けど、私達が無理矢理監視をつけて貰ったのだから、無理矢理それを辞めさせても問題は無いはず。申し訳ないけど、一大事って事にさせて欲しい。嘘では無い。
連絡手段が無いのは本当に不便だね。
「おーい!」
大木に囲まれながら、森へ入って行く。
木漏れ日は少なく、暗い。背の高い木は沢山生えているけど、その代わりか他の植物はあまり生えていないよう。そのせいか、動物もあまり見当たらない。
「静かなのが、逆に不気味だね」
「うん。鳥のさえずりは聞こえるんだけどね」
どこか異世界に迷い込んでしまったみたい......と、私達の時代ならそう言った事だろう。
でも今では、そう珍しいシチュエーションでは無い。まぁこういう時は、大体悪い事が起こる前兆だったりする事が多いけど。
「どこー?」
大木が倒れている。
百メートルが横倒しになっていると、流石に違和感がある。表面もまだ綺麗だし、折れたばかりのよう。
森の奥へ進むごとに、倒れたり折れたりしている木が増えていく。
これは、明らかに何者かが行ったものだ。自然にこうなるはずがない。
「あ、いた!」
木が倒れている事によって、木漏れ日が大きくなっている場所があった。
その中に、立っている人が居る。
両手で逆手に短剣を持ち、フワフワの尻尾が空を撫でる。
頭の上に付いた耳が、パタパタと動いた。
「久しぶりだね。ミッシェルちゃん」
「ハヤセ、キサラギ......」
明来君と一番仲が良かったネコ科の獣人、ミッシェル=ヴィド=バスティ。
ヴィド村の隣にある森で、一人修行をしていたみたいだ。
ミッシェルちゃんは、サナティオを使用していた事で自ら勇者パーティーを脱退し、今は王国騎士団の監視下に置かれている。
森の前に居たのは、その監視役。
「わざわざ来たって事は......それなりに用があるって事だな」
「そういう事。単刀直入に言うね。もう一度パーティーに入って」
「断る」
だよね。そう言うと思ってた。
自ら出て行った人か、二つ返事で了承する訳が無いよね。
「一応、理由を聞いても?」
「まず、私は罪を犯した。食べてはいけないサナティオを口にし、それを黙っていた。次に、私では勇者パーティーの足でまといになる。私が居ない方がむしろ闘いやすいだろう。最後に、私は勇者パーティーでは無い。私には......共に闘う理由が無い。以上だ」
なるほど......それがミッシェルちゃんの言い分って訳ね。
じゃあ、私のも聞かせてあげる。
「まず、あなたは罪を犯していない。何故ならサナティオについて何も知らず、偶然口にしてしまっただけだから。誰も傷付けていないから罪には問われない。次に足でまといにはならない。そう感じた事もないし、そう思ってるならわざわざ誘いに来たりしない。で、最後に」
私は、捲し立てるように言う。
ミッシェルちゃんの言ったこと全てを否定しながら。魔法で頭の回転は速く出来ないから、これは自前だ。
「闘う理由なら、依存性を解決する方法を見つける為......なんてどうだろう?ピンと来ないのなら、依存性を誤魔化す為でもいいよ」
「誤魔化す?」
「うん。だって、ここら辺に倒れてる木って全部ミッシェルちゃんがやったものでしょ?気を紛らせるとか、訓練の為だと思ってたけど」
「......まぁ、サナティオを食べる度に体が衰えていく......いや、戻っていくからな。壊れるぐらい訓練しなければパワーが戻っちゃうんだ」
そういう事だったんだ......サナティオの戻る力で、鍛えた肉体が元に戻ってしまうのか。
だから、プラスマイナスゼロになるくらいには、常に鍛えていないといけないって事ね。
「最近気づいたんだが、脳の巻き戻しは肉体に比べて少ないらしい。だから、肉体そのものもよりも技術なら、巻き戻るよりも習得の方が多い」
「へぇ......」
確かに、毎回肉体と脳が同じくらい戻っていたら、サナティオを使って回復する度に記憶を失っているはず。
しかしそれが無いと言うことは、脳の巻き戻しは少ないと言えるかも。
「じゃあ、その事を明来君にも伝えてあげて」
「アクル......」
明来君は、ミッシェルちゃんの事を凄く気にしているだろうし、少しでも「心配ない」ってことを伝えてあげて欲しい。
「何してるんだろうな......アクル」
そうか。
パーンヴィヴリオでの出来事は、監視役の人を通じて一応ミッシェルちゃんにも伝わっているはずだけど、まだ前の出来事は伝えていない。
「この前明来君と思われる人物を見つけたよ」
その言葉を聞いたミッシェルちゃんは、瞳孔を大きくして驚いた。
「なっ!?それを先に言ってくれ!私も行く。今すぐにでも出発だ!」
元気に走り出したミッシェルちゃん。
そっか......ミッシェルちゃんも、明来君の事がずっと心配だったよね。
ミッシェルちゃんを誘う事は、もっと簡単だったんだ。
単純明快。ずっと一緒だった仲間を助ける為なら、一緒に闘ってくれる。
これで良かったんだ。
「にゃはは!今行くぜアクル......言いたいことが沢山あるんだからな」
ミッシェルちゃんは元気になった。
それを見て、私も少し元気をもらえる。
やっぱり、こういう人がパーティーには必要だな。
「場所は?アクルの居場所は分かってるのか?」
「あぁ、それなら問題無い。大体見当はついてるから」
そう、居場所なら大体分かる。
というか、行きそうな場所と言う方が正しいかな。
「では行こうか」
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