第45話 終わり

こいつ......!

サナティオの種を、体内に隠してやがった。

サナティオを使って全回復する気か!


「フレイ───────」


突然、何かの魔法に俺の体は吹き飛ばされ、詠唱は中断。炎魔法は不発に終わった。

遠く離れてしまった場所から攻撃された方を見ると、ガイレアス教の信者が居た。

先程制圧した奴だ。

気絶まではさせていないし、もう闘う気力も無いと思い放置していた。

それが仇となった。


「サナティオだ!誰か破壊を!」


俺の距離からは届かない。

それに、信者達にずっと魔法を撃たれ続け、妨害されている。

高津は気絶、ベラトは反動で動けない。

サーベとガンゾウは地面に倒れ、動けなさそう。マギーも同じように倒れ、疲れ果てているようだ。

後は、小森だけだ。


「小森!」

「任せて!!」


小森は手のひらをサナティオの木に向ける。


「ファイアバレット!!」


炎の弾丸が、手のひらから......出ない。

何も出ていない。詠唱出来ているはずなのに、魔法は不発に終わった。


「ファイアバレット!ファイアバレット!......出ない!」

「おい......まさか」

「魔力切れ......!?」


小森もずっと闘っていた。

自分の召喚獣達に指示を出しながら、司令塔としてもサポートとしても闘っていた。

決して魔力量が少ない訳ではない。だが、召喚獣を全員召喚して自分も闘えば、流石に魔力も尽きる。


「誰か......!」


誰も止められない。

ルーティアは朦朧とした状態で、何とか意識を保っているようだ。木の形は少し歪だが、成長し続けている。

間に合わない。

サナティオの木は遂に実をつけ、まだまだ成長を続ける。あっという間に実が熟れると、サナティオは自重で落下した。

落下の衝撃により熟した実は割れ、サナティオの汁がテレオラスへとかかった。


「正直、焦りましたよ」


テレオラスの体が大きくなっていく。

さっきまでの、土を吸収した巨大な体へと。

土には触れていない。

土の方から、テレオラスの元へ帰るかのように戻って来る。


「やはりガイレアス様は、我々に運をくださった」


......もう、無理だ。勝てない。

テレオラスは元通り。

皆の頑張りは水の泡となった。


「終わり......か──────」








完全に諦めていたその時、目の前に空から何かか降って来た。

土埃が舞い、全員がそれを注目した。


「皆、遅くなってごめん。待たせた」

「き......如月!!?」


銀を基調とした鎧に、青色のマントをたなびかせる。

それは勇者、如月きさらぎ正志まさしだった。

小森の元には、ディモルンが戻って来る。


「ディモルン!」


まさか、ここまで飛んで来たのか......?

ディモルンに鷲掴みにされてまで、急いで駆けつけてくれたのか。


「如月......」

「大丈夫だ。後は任せて欲しい」


如月はテレオラスに向かって歩き始めた。

テレオラスは既に全力全開。

先程までのダメージは一切無い。


「勇者......ですか。今更です。後はあなたさえ倒せば、もう何も邪魔するものはありません」

「そうか......では行くぞ」


如月は、歩きながら剣を素早く抜いた。


「ウェーブスラッシュ」


とんでもない威力の斬撃が、テレオラスに向かって飛んで行く。

テレオラスはまた斬られまいと、両腕で防御した。

が、如月の放ったウェーブスラッシュはその防御ごと貫通し、テレオラスの背後にある建物まで後を残した。

テレオラスの片腕が吹き飛んだ。

相変わらずの威力......防御など意味をなさない。


「く......!」


テレオラスは今までで一番の驚いた表情をした。同時に、怯えている。

恐れているのだ。勇者を。

如月は地面を蹴り、テレオラスまで走り出した。


「奴の固有魔法は土を操る!植物を操るのはルーティアだった!」

「了解」


テレオラスの固有魔法を、簡潔に伝えた。

もっとも、如月には聞く必要が無いかもしれないが。

テレオラスは、すぐに腕を戻すと走って来る如月に向かって突き出した。

マシンガンのように土の塊を飛ばす。

しかし、如月は防御姿勢を取ることもなく弾丸を跳ね返した。

跳ね返った弾丸は全てテレオラスへ命中する。


「いいでしょう。それでこそ勇者です」


今度は、人よりも大きな土の塊を飛ばす。

もちろんこれは同様に跳ね返すが、そのすぐ後に剣のような植物か飛んで来ていた。

剣は如月の目の前の地面へ刺さり、如月を止める障害物となるが、剣を取り出して軽々と斬ってしまう。

そしてあっという間に、テレオラスの元へと接近した。

ここまで一切曲がることなく、直線で走った如月。

テレオラスは反撃をするが、全て跳ね返されてしまう。


「......ッ!」


攻撃をするも、ダメージを負うのは自分テレオラスの方だ。

土は削れ、少しづつ小さくなっていく。

如月自身も、魔法や剣を使ってテレオラスを攻撃した。

屈んで脚を斬り、分厚い土の脚を何度も何度も斬った。そして崩れて転ぶ所に、また体を斬りつける。

テレオラスの体は、すぐに元の人並みの大きさとなってしまった。


「ふ......無駄ですよ。結局、私にダメージは無い。土をいくら攻撃した所で、何も起こりはしません」

「どうかな」


タッタッタッと、俺の横を背後から通り過ぎて行く人が居た。

誰かと思い、その顔を見る前にその人は叫んだ。


「キサラギさん!合図を!」


黒と白の長袖ワンピースに、黒いベールを纏っている。そして透き通った美しい声。

シスターだ。

エリュシオンに来る前の村で出会い、そこに如月と共に置いてきたはずだ。

騎士団が到着したのなら如月だけでも駆け付けてくるとは分かる。しかし、シスターまでついてきて居たとは......まさか─────!


「了解!」


如月は攻撃をやめ、剣を収めた。

そしてテレオラスに向かって走る。


「今だ!!」

「はい!」


テレオラスは、武器も持たない如月に異変を感じ、少し後退りをした。

しかしテレオラスにとって、どんな攻撃をも避ける必要は無い。

確かに如月は攻撃力も高いが、どう見ても素手の勇者に恐れる要素は無いのだ。

いつも通り土のように崩れるだけ。素手なら、破壊とまでもいかないかもしれない。

はずだった───────


「うぉおおおお!!!」


如月はテレオラスに殴り掛かる。

ゴッ!と、鈍い音がした。

それは、とても土を殴った音とは思えないものだった。

そう......如月のパンチは、テレオラスの顔面に思っきり入っていたのだ。


「な......!?」


すかさず二発......三発と、腹と頬にパンチを入れる。

そしてテレオラスは、ダウンした。


「どういう事......だ......!?」

「シスターの固有魔法だ。効果範囲内では、誰も魔法を使えない。お前の魔法は土になるんだったか?それも、今ではただの自傷行為になってしまうようだね」


よく見ると、テレオラスの土だった部分が欠損している。

なるほど......人型でない状態で魔法を使えなくさせられると、本物の土となってしまうのか。


「そ、そんな魔法が......あるなんて」

「大人しくしていればその怪我くらいは治そう」


圧倒的だ。

俺達全員でかかっても倒せなかった奴を、如月がシスターがいるとはいえ倒してしまった。

やはり勇者に相応しい強さだな。


「皆、無事?」


如月は全員の心配をして回った。

取り敢えず全員生きているし、高津も目を覚ました。

やっと早瀬さんも安全に取り返す事ができ、今は回復させている。

本当に良かった......如月とシスターが来てくれなければ、俺達は負けていた。


「シスター、ありがとうございます」

「いえ。私は何もしておりません」


何もしていない事は無いだろう。

しかしまさか、シスターが魔法を急に無効化させて殴るというかなり卑怯な手を考えるとは。

生物として強い魔物には効果は期待出来ないが、対人戦では相当役に立つ攻撃方法だろう。


「よし、取り敢えずガイレアス教は縛っておこう。シスターもいつまで持つか分からない。見張っておけるようにする」

「そうだな。俺は全員を回復させる」

「任せた」


完全に敗北したテレオラスは、随分と静かだった。

それが、まだ何か企んでいるのではないかと少し心配になってしまう。


「......近くの村で、大人が子供になるという現象が起こっている。お前のせいだろう?テレオラス」

「......」

「誰の固有魔法だ?元に戻せ」

「......固有魔法?」


黙っていた口を開いたテレオラス。

その質問は、思わず口に出てしまったようだった。


「おや......まだ、そんな所に居たんですね。まさか......そうでしたか」

「何だ。何が言いたい?」

「いえ、まだ気付いていなかったのかと......少々驚いてしまいまして」

「何だと?」

「あれはサナティオの効果ですよ」


......は?

だってあれは......回復させる果実じゃないか。

しかし村で起こっていたのは、若返りだ。

なんの関連性も無い。

まさか、サナティオにもう一つの効果があったとでも言うのか......?


「どういう事だ。教えろ」

「......」


それ以降、テレオラスが喋る事は無かった。

ただ俺達を嘲笑うようにニヤニヤとしながら見ているだけで、一言も言葉を発しなかった。




──────────




終わった。

遂にガイレアス教を倒し、サナティオを広めていた現況を止めることが出来た。

テレオラスやルーティア達も騎士団に引渡し、特別な収容所へ入れられる事になった。

特殊な魔法を使える者向けの場所だ。もう出て来る事は無いだろう。


「大丈夫?早瀬さん」

「うん、ありがとう。ごめんね......私、何の役にも立てなくて。むしろ足を引っ張っちゃう事になっちゃったし......」

「いやいや、早瀬さんにはいつも頼ってばかりだし。迷惑だなんてとんでもない。こっちとしては、早く助け出せなかった事を謝りたいよ。ごめん」

「ま、いいじゃねぇか。無事倒せたんだしよ」


高津が呑気な事を言う。

お前も結構危なかったんだがな......そんな事を感じさせないくらい元気なのは嬉しいな。


「......だな。だが、まだ全てが終わった訳じゃないからな」

「明来君の言う通りだ。これから広まってしまったサナティオをどうにかしなくてはならない。原因は止められたが、サナティオが流通しているのが現状だ」


そうだ。ゲームみたいに、ラスボスを倒したからと言ってクリアとはならない。

ガイレアス教がやった事を、片付け無ければならないのだ。

しかし、まだ疑問点は残っている。

ガイレアス教はサナティオを広めていたと認めていたし、それは紛れもない事実だ。

だがあの村......若返りの事実に関しては黙秘を貫いている。

それだけでは無い。サナティオそのものに関して、俺達が知っている事以上の事を話そうとしない。

というよりも、『知らない』......といった感じだ。

まぁその事もあって、結局目的地はあまり変わらない。


「これからパーンヴィヴリオへ行く」

「そうだな。まずはサナティオの事を知りたい」


サナティオが何なのか。

伝説の魔導師が造ったと言われている図書館なら、植物図鑑くらいはあるだろう。

そこにサナティオの事も書いてあれば良いのだがな。


「闘ったばかりで疲れているのは分かるが、一刻も早く皆を助けたい。どうか協力して欲しい」

「当たり前だ。そう思って、俺達は如月について来てるんだからな」


全員が頷いた。

如月は、ありがとうと言って微笑んだ。

ありがとうはこっちのセリフだ。

お前が来てくれなかったら全滅だった。

悔しいが、やっぱり勇者は最強だな。


「馬車を出しましょう」


騎士団の人が、馬車を貸してくれた。ついでに運転もしてくれる。

良かった。馬も走らせるのは難しいからな。

ここからパーンヴィヴリオまでだと、それなりに長距離の旅となる。

ありがたい事だ。


「出発だ」

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