第46話 原因
エリュシオンを出て、シスターと出会った村を通り過ぎる。
思えば、全く観光出来ていなかったな。
今までの場所もそうだが、少し泊めてもらったり休憩させてもらうだけだった。
まぁ急いでいたし仕方の無いことだが、今度はゆっくりと観光しに来たい。
シスターにもお礼を言い、騎士団に保護してもらうことにした。
今後も勇者パーティーのサポートとして同行してもらいたいという話も出たが、シスターは戦闘経験が全く無く、万が一の事を考えてやめておくという結論になった。
それに、固有魔法があまりにも強力過ぎる。
シスターの事は信用しているが、他人に利用されないように守るという意味でも野放しには出来ないのだ。
「パーンヴィヴリオ......この鍵が使えると良いが」
ここに来るまでに二日かかった。
少し時間はかかってしまったが、まぁこんなものだろう。
道中に邪魔される事なく、一直線に向かえた事は何よりもガイレアス教が居なくなったお陰だ。ありがたい。
「再び、来たぜ」
「パーンヴィヴリオ......」
灯台のように円柱型の、背が高くて大きな塔。
近くで見るととても目立つが、遠くからでは何故か視界に入らない。不思議なものだ。
それも何らかの魔法がかけられているのだろうか。
「鍵は?」
「ある」
俺達はパーンヴィヴリオまで近付いた。
前に来た時は、扉が一切開かなかった。
だが今回は違う。
如月が、金色に輝く鍵を取り出して扉に近付いた。
そう言えば、鍵の形としては割と一般的というか......そこまで特徴は無いように見えるが、パーンヴィヴリオに肝心の鍵穴が見当たらない。
「......どこに挿すんだ?」
問題発生。
鍵穴が見つからない。
鍵穴どころか、そもそも穴が見当たらない。
そう言えば窓も無いな......。
「普通なら扉にあるものだが......あっ」
如月が扉を触ると、カチッという音が鳴った。
どうやら鍵は持っているだけで良かったらしい。
じゃあこの鍵の形は一体何なんだ......。
「なるほど。鍵を手に持って触ると、鍵が開くらしいね。もう一度触ればロックだ」
「へぇ、流石は魔法図書館。知らない魔法技術が使われているんだな」
入る段階からもう、少しワクワクさせてくれる。
久しく忘れていた感覚。この世界に来たばかりの、あのワクワク感。
また味わわせてくれるじゃないか。
「入るぞ」
扉を開けると、中からまばゆい光が漏れて来た。
すぐに目が慣れると、その光景に息を呑む。
俺達全員は、入ってすぐに足を止めてしまった。
「マジかよ......」
そこには、信じられない程の本棚があった。
全て、所狭しとビッシリ埋まっており、図書館なら何らおかしくない光景だがここは規模が違った。
上を見上げても天井が見えない。天井が無いわけではない。外から見た時、パーンヴィヴリオには確かに天井があったのだ。
そして本棚も見えなくなるほど上へと続いている。
そして奥行きも、ずーっと真っ直ぐに続いている。
円柱の部屋に、半永久的に上まで続く階層。
それが、隣り合わせに何部屋もあるようだった。
つまり、中から見たパーンヴィヴリオは塔がいくつも道で繋げてあるような構造になっている。
広い......広過ぎる。
外から見た時と中から見た時では、全く大きさが違う。
「こんなに違うとは......驚いた」
なんて美しいんだ。
この構造は、俺達がいた世界の技術力でも再現するのは難しいだろう。
それに綺麗に保たれている......まるでつい最近完成したみたいだ。
「こ、これが......魔法図書館か」
凄い......魔法というのは、こんな事も出来るのか。
「で、ここからどうやって探すんだ?まさか空を飛んで上まで行く訳じゃないだろうな」
「ベラトに聞いてみるわ」
小森がベラトを召喚した。
そう言えばベラトはパーンヴィヴリオの鍵を守る家系だったな。
守護者なら、パーンヴィヴリオにも詳しいはずだ。
鍵の使い方もベラトに聞けば良かったな。
「何か用か?」
「パーンヴィヴリオについて教えて欲しいの。こんな凄い魔法を使っているのに、まさか情報を探すのは自力でって事は無いわよね?」
「あー......」
ベラトは口を開けて視線を横へ逃がす。
何だ?言いにくい事なのか?
「実は、私も詳しくは知らない。パーンヴィヴリオに詳しいのは、おそらく初代だけだ」
「マジか......」
どうしたものか......しかし、ここまで来て何もしない訳にはいかない。
折角なんだ。やれるだけの事はやってみよう。
「取り敢えずそれっぽい事でもやってみるか」
「だな」
本を探すには、まず本棚を見る。
図書館の本棚には、大抵の場合数字や文字が振ってある。例えば、頭文字順になっているとかだ。
ざっくりと本の方を見てみる。
ふむ......頭文字順ではなさそうだな。
『地球の運動について』......の次が『この世の誕生』か。何だか面白そうなタイトルだが、これはジャンル別っぽいな。
「植物についての本を見つければいいんだよな?」
「そうだな。サナティオなら、『植物』か『果実』か、もしくは『木』とかだろうか」
しかし、この膨大な数の本棚から探すもなると、やはり不可能に近い。流石に何か、探すのが楽になるシステムがあるはずだ。
「お......?」
部屋の真ん中にあるオブジェ。いや、これはパネルか?
美術館などにある、作品を紹介するためのパネルだと思い、何となく見落としていたが......不自然にど真ん中に置いてあるのが気になる。
「これを操作したりとかっていうのは......」
パネルに触れてみる。
すると、何も書かれていなかった板の中に、画面のようなものが映し出された。
「これは......!」
当たりだ。
これは、検索機なんだ。
ジャンル順や頭文字順に変えられるソート機能もあり、タイトルの検索も出来る。
まさかこんな未来の技術に近いものが取り入れられているとは。
「皆!これを見てくれ!」
しかし、これならパーンヴィヴリオが廃れてしまった理由も分かってくる。
パーンヴィヴリオの使い方が上手く伝わらず、本の探し方が分からなかったのだろう。これだけの情報を放置する理由など無いはずだ。
「ここで検索出来るのか」
「みたいだな。試しに何か文字を打ってみよう」
『植物』と入力してみた。
すると、本のタイトルが大量に画面に出て来た。タイトルに植物と書いていないものまで出てくるが、おそらく中身が植物について書いてあるものなのだろう。
「検索だなんて、未来的だな」
「流石は伝説の魔導師か」
「取り敢えず、サナティオって検索してみたら?」
「多分出ないと思うが......まぁ
やってみてもいいけど」
サナティオと入力。
検索結果は、サナティオの言葉についてのみ。『植物 サナティオ』と入れると、検索結果はゼロになった。そりゃそうだ。
「んー、じゃあ『回復 植物』とか?」
「やってみよう」
植物図鑑が何冊か出て来た。
この中のどれかに、サナティオについて書かれているかもしれない。
表示されたタイトルを触ると、機械的な音が鳴り出した。
「何だ......?」
すると一番手前にある本棚の、本が入っている部分だけが動き出した。
壁に入り込んで無くなってしまい、すぐにまた出て来た。
見ると、全ての本が変わっている。
「入れ替わった......のか」
どうやら、選択した本は手前の本棚まで来てくれるらしい。
とんでもないシステムだ。これも魔法......なのか?
「全員で探そう。何処かにサナティオの事が載っているはずだ」
手分けして読む事になった。
本は、一体どれほどなのかも分からない程に昔のものであるにも関わらず、新品かのように綺麗は状態で保存されていた。
活字で書かれており、とても読みやすい。
どの本も、そう難しい事は書いていない。
学術的なものもあるが、どちらかと言えば図鑑のように分かりやすく絵も付いているものが多い。魔導師本人が描いたものだろうか、流石に写真は無いようだ。だが絵があるだけでも分かりやすくて助かる。
「うーん......ここには無さそうだな」
しばらくして、結構な量を皆で読んだが収穫は無し。
サナティオも、それらしき植物すらも出て来ない。
もしかしたら、超マイナーな植物なのかもしれない。
あれだけ回復力があるのに、今まで見つからなかったんだ。新種か、それこそ幻のような植物の可能性がある。
「マイナー......見つかりにくい植物?いや、気づかれにくい植物......見つかっているけど、気付かれにくい植物......とか」
『見つけにくい 植物』。
......結果は同じか。最初の植物図鑑達と、同じような検索結果だ。
「ふむ......『雑草』」
そこら辺に生えている雑草の名前を、俺は知らない。
食えるのか食えないのかすらも知らないし、今まで調べようとも思わなかった。
もしかしたら、意外と近くにあるけど当たり前過ぎてスルーしていたものかもしれないな。
「結果は変わらずか......」
そもそもサナティオは、雑草という程小さく無いしな。
あれはどう見ても木だ。
「うーん......」
そうだ......!
ずっと前、一枚の手紙を貰った。
あの時から、御守りのようにバッグに入れ続けている。
フラディアさんが書いてくれた、サナティオに似ている植物の名前だ。
「ふむ......」
ひとつづつ、名前を入力して調べてみる。
ヒットはするし、ちゃんと名前通りの植物が出てくる......が、どれもサナティオでは無い。
確かに見た目が少し似ていたり、特徴が掠っている程度だが近しいものだったりと、厳選されただけあるが......やはりサナティオだとは言い切れない。
「癖になる......ん?」
一つだけ、気になる特徴のある植物が書いてあった。
癖になる......か。
この世界には依存性の高い植物が存在しない、もしくは見つかっていないんだったか。だから、依存性という言葉自体無かったんだっけ。
「シバナック」
三メートル程になる木。
成長が早く、一年に四度も咲く。
大きく、甘い実を付ける。
しかしその数が少ない事から、高級な嗜好品として貴族の間で扱われていた。
口にした者で、人によっては病的に食べたくなってしまうらしい。好きで食べるのとは、また違う感じのようだ。
「似ている......」
今までで一番似ている......が、同じ植物だとはとてもじゃないが言えない。
同じ祖先を持つ、別の種のように見える。形も絶妙に違うし、色とか実の形とかが違う。
おそらく、科とか目とか属か何かが同じものとかだろう。
特性も似ているし......だが、流石に祖先までは記されていないようだ。
似ている......似てる、か。
「......『似ている 植物』」
一件。
たった一冊だけ、似ている植物についての本がヒットした。
一件だけとは珍しい。随分と少ないな。
しかし実際に見てみると、その本はとても分厚いものだった。
「まぁ読んでみるか」
本を開いた一ページ目に、大きく何か書かれていた。
『ほとんどの場合、それは────』
「『エニアコック』......」
ほとんどの場合、それはエニアコックである。
そう書かれていた。
似ている植物の、ほとんどの場合はエニアコック......という事だろうか。
そのエニアコックってのは何だろうか。
「どうしたの?」
「いや、何か気になるものを見つけてね」
「うわっ、デカデカと一文が書かれてるなぁ。何?このエニアコックって」
「それを今から調べる所」
詳しい事は、そのすぐ次のページに書いてあった。
エニアコック。
根から近くの植物の情報を読み取り、自身を変化させることによって周りの環境に素早く適応する。
周りの環境に適応というより、周りの環境になりきることがこの植物の特徴。
要するに、『真似』をするという事である。
世代交代が凄まじく早いため、適応するのが早い。
形を変えたエニアコックの種からは変異後の形で育つ。故に、純粋なエニアコックの形はもう見ることが出来ない。
「真似......?」
つまり......どういう事だ?
説明はまだ書いてある。最後まで読んでみる。
「実験......」
生物を使った実験。
この植物が『真似』をするのは、植物だけなのだろうか。
近くの土に虫の死骸を埋めてみた。
他に植物も無く、土にあるのはその二つだけ。
するとエニアコックは、虫の特徴である柄と毒針を持って成長した。
同じように、哺乳類も埋めてみた。
結果は似たように、植物の形を保ちつつも特徴である色や長い爪。そして前歯のような部位までも再現していた。
「つまりこれは、周りのものを真似する植物って事か......」
「そんな植物があるんだね。じゃあ知らないうちに、偽物の果物を食べていたかもって事?」
いや、違う。
引っかかるのはそこじゃない。
「明来君?」
周りの環境を真似する......近くにあるものに“似る”......か。
「......俺の固有魔法。どういうものか覚えているか?」
「え?そりゃあ、回復でしょ?」
「そう。回復魔法だ。完全に回復する代わりに、回復速度が遅い」
「そうだね」
「似てるとは思わないか?」
他のメンバーも、何かあったのかと集まって来た。
あぁそうだ。皆にも言わなくちゃな。
「似てるって......何と?」
「サナティオだ」
「え、でも......回復魔法なんていくらでも」
「俺の固有魔法は、正確に言えば治している訳ではなく、戻しているんだ。時間そのものを。魔法をかけたものの時間を戻している」
だから、腕や足が治る時はわざわざ切断された部位が戻ってくるし、剣や盾などの物にも使う事が出来る。
それがブーメランのように戻って来る理由だ。
「サナティオもそうだって言うの?」
「若返りの村。あの村の人達が若返ったのは、サナティオのせいだとテレオラスが言っていた。それは村人達の肉体の時間が巻き戻ったからではないのか」
「テレオラスの言う事を信じるの?流石に考え過ぎじゃない?」
「サナティオを作ったのは俺なんだ」
静まり返る。
凍てつく空気。誰も何も言えず、俺の次の言葉を待っている。
「俺は毎朝、傷付いた木に向けて固有魔法を練習していた。もっと速く効果が出るように。回復の練習をしていたんだ」
毎日毎日。欠かさずに固有魔法を浴びせていた。
「そしてある時突然、木にあったはずの傷がなくなっていた。俺が最後に見た時にはまだまだ傷が付いていたのに、急に無くなっていたんだ。そして、実を付けていた」
「つまり......明来君の固有魔法を真似たエニアコックだと......?」
「少し違う」
エニアコックや、俺の魔法には依存性が無い。
だから、あの一番厄介なデメリットが一体どこから来たのか。
「これは、シバナックと俺の固有魔法を真似したエニアコックなんだ」
そこが問題だったのだ。
二種類の植物により、二種の特性を持っていた事でその正体が分かりにくくなっていた。おそらく、俺の固有魔法を取り入れる事でシバナックの見た目からも離れて行ったのだろう。
見た目と特性がシバナックに似ており、しかし俺の固有魔法の回復能力も併せ持つ。
それが、サナティオの正体がだった。
これは間違いないと確信を持って言える。
「で、でもまだ確定した訳じゃないでしょ。本当に同じだという証拠はあるの?」
「サナティオ......いや、エニアコックは姿形が変わっても、種だけは変わらないと書いてある」
本には、種の正確な姿が描かれていた。
丁寧に模写されている。写真でないのが残念だが、これだけでも充分伝わるだろう。
俺はバッグからサナティオを取り出した。
ずっと持ち歩いているものだ。
それに手持ちのナイフを突き刺し、二つに割った。
サナティオは散々切って来たし、食べている所を見て来た。
種の形ぐらい覚えている。
「見てくれ」
実の真ん中に大きな種。
本に書いてあるものと、全くの同一だった。
エニアコックで確定だ。
「嘘......でしょ」
それからはもう、全てを話した。
ミッシェルに食べさせ、少女にも食べさせた。
そして村を崩壊させ......サナティオが奪われた。
それからガイレアス教の手に渡り、世界中にばら撒かれたという話だ。
「村までサナティオを持って行ったのは俺だし、広めてしまったのかもしれないという自覚はあった。だから、俺も一緒に勇者パーティーとしてサナティオ撲滅に参加したんだ......けど、まさかサナティオそのものを俺が──────
ゴッ。
鈍い音と共に視界が歪んだ。
痛い。左の頬に痛みを感じた。
フラつきながらも前を向くと、鬼のような形相を浮かべる高津の姿があった。
「豪一君!」
「豪一!」
止める如月と早瀬さんを無視し、高津はこちらへ向かって来る。
歩くスピードは速く、両の拳を握っている。
今にも殴りかかりそうな勢いだが、それを分かっていて俺は抵抗をし無かった。
受け入れる。
ボゴッ。
反対側の頬を殴られた。
そして頭を掴まれ、間髪入れずに鳩尾に膝蹴りを食らわされた。
「かはッ」
痛い。苦しい。
思わず吐いてしまった。
「高津!やめろ!!」
「何でだよ!!こいつが原因だったんだぞ!?全部ッ!」
何故こんな簡単な事に気が付かなかったのだろう。
そうだ。俺が全ての元凶だ。ずっと追いかけていたサナティオの正体は、俺自身だったのだ。
高津の気持ちはよく分かる。俺も、俺が目の前にいたら思いっきりぶん殴っている事だろう。
「橋田がおかしくなったのも、ガイレアス教がまた動きだしたのも、エルフ族が絶滅したのも!皆死んじまった!全部こいつのせいだ!!」
「......」
「こいつのせいで......お前のせいで皆が苦しんだ。一体どんな気持ちだったんだ?俺達を騙して、自分で勝手に罪滅ぼしをした気になって」
「......ごめん」
「ごめんじゃねぇだろ!!」
その通りだ。
謝って済むような話ではない。
だが、謝る事しか出来なかった。俺が何をしようとしても、それらは自己満足程度にしかならない。
誰かの為に何かをするなんて、誰かの役に立とうだなんて、俺には出来ない。
「このッ!!チッ、離せ!」
再び殴りかかる高津を、早瀬さんが止めてくれた。
何故そんなに俺を庇うんだ。
俺は罰せられるべきなんだ。
どうか俺を、許さないで欲しい。
「なんで止めるんだ!?」
「殴ったら全て解決するの!?明来君だって悪気があった訳じゃない!知らないうちに自分の魔法が使われていて、知らないうちに利用されてただけ。気付かなかったんだよ!」
「気付かなかったら人を殺しても良いのかよ!?こいつは一回死ぬべきだ。あぁ、死んだ方がいい。被害者達の苦しみを味わった方がいいだろうがよォ!!」
「死んだ方がいいとか、言うなぁ!!」
いいんだ早瀬さん。
どうせ俺なんて......。
「そこまでにしよう。これ以上ここでぶつかり合っても、何も前へは進まない。時間を浪費するだけだ」
「如月、てめぇもあいつを庇うのかよ!?」
「どちらの意見も分かる。確かに、明来君は大罪を犯したかもしれない。だがそれを裁くのは俺達じゃない。それに、本当に明来君の固有魔法がサナティオの元となったのであれば、これ以上に無い情報源だ。依存性の解決にも繋がるかもしれない。死なれては困る」
「......チッ。俺には、どうしてそんな落ち着いていられるのかが分からんな」
「落ち着いてなんて無いさ......とても困惑している。けど、信じたいんだ。ここまで一緒に来た仲間を」
「......好きにしろ。俺ァあいつを許さねぇ」
それで構わない。そうしてくれ。
俺も、俺を許す事が出来ない。
サナティオは、俺が作ったものだった。
全ては俺のせいで始まり、終わりへと向かっている。
エニアコックが真似したのがシバナックという植物だと分かっても、その依存性を無くす方法や無効化の仕方など書いていないし、俺の固有魔法によって価値が上がってしまっている。
もう、どうしようも無いんだ。
「......治さないの?」
早瀬さんが、殴られた時に出来た傷を心配してくれている。
優しいな早瀬さんは......だが今はその優しさすら、深々と俺に突き刺さる。
「ああ......この傷は、出来るだけ残しておきたい」
この痛みを長く味わうために。
これはただの自己満足だ。こんな事をしても誰も喜ばないし、誰も救えはしない。
だが、人の怒りを......少しでも身に付けていたいんだ。
「無理しないでね」
「無理をしてでも、俺は罪を償うべきだ」
「もう明来君一人で何とか出来るような規模じゃないよ。それに原因は、エニアコックという危険な植物の存在を、世の中が知らないっていうことにもあった。明来君は悪くない」
「......ありがとう。だが事実は変わらない。俺が原因である事には、間違いないんだ」
俺はパーンヴィヴリオを出た。
空は曇っており、俺の心よりは良い天気だ。
皆に背を向けこの場を去る。
誰も何も言わず、ただ黙っていた。俺も何も言わない。別れの言葉すら必要ない。
俺は、勇者パーティーを抜けた。
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