そのカップに、星を浮かべて

まふぃん

第1章 金欠JKと不気味なカフェ

この広い世界で、星は今日も瞬く。――カップの中のコーヒーに沈んだ角砂糖のように。


2023年 7月18日、某県立高校1年7組にて


「――じゃあ聞くけど、どうだった?ファミレスのバイト。」

「…不採用。」

「じゃあ、コンビニは?」

「不採用。」

「え?…ハンバーガー屋はさすがに受かってるよね?」

「いや。不採用。」

「はぁ!?」

...そんなリアクションをされるのも無理もない。


私は向坂陽菜さきさかひな、ネット依存で自称不幸体質持ちの高校1年生。お金がないのでバイトでもするかー、と、”ちょっくらコンビニ行ってくるか”くらいの軽い気持ちで3店に応募したはいいものの、全部不採用。今は親友の結城蒼ゆうきあおいに話を聞いてもらっているけど、いつ愛想を尽かされるのかと思うと…まあ、そんな事ばかり考えてたって、何か事態が動くわけではない。


「…はぁ〜あ、陽菜、なんでバイト受からんかったの?私でさえラーメン屋受かったのに」

「いや私が1番知りたいよ!...うーん、なんでかな。もしや不幸体質!?なんかの呪い!?」

「んなわけ。」

あーあ。蒼、絶対呆れてるよね。ため息までいてるし。

「ちょ、なんで蒼がため息吐いてんの!?...

まあ、こんなに惨めでかわいそ〜うな親友がいたら、そりゃあため息くらい吐くでしょうね。」

「そう。そうなのよ。もうため息しか出ない。っていうか陽菜、もう全部不採用なのによく諦めないね。」

「おかねほし〜から。」

「いやわかるけどさあ!」

アホ声で金欠を訴える私と、なぜか共感しだす蒼。しばらくして、蒼はスマホをいじり始めた。

「...あーあ、あんたのバイト先さえ決まれば、私はこんなに心配せずにすむのにな〜。」

「それは蒼が勝手に他人の心配までするからでしょ?かんけーないじゃん。」

「私ほんとに心配なんだよ、あんたのことが。わかる?」

「知らないよ!」

カチンときた。自分のことを思ってくれてるとは分かってたのに、なぜかカチンときてしまった。蒼はぷぅっとしながらスマホを無心にいじり始める。ゲームでもしてるのか?


「...ん?陽菜?」

「何?」

「これ見て!ちょ〜うまそうじゃない!!??ほらほら、見てよ!」

私は正直うざいと思った。しかし、悔しいけどなんか気になるので、蒼が私に見せようとしている画面を見ようとした。すると...なんと蒼のスマホには、シロップとバターがたっぷりかかった美味しそうなパンケーキが!これをSNSにアップしたなら――大バズり間違いなしだ。

「えー、めっちゃ映えんじゃ〜ん。ちょっと食べたいかも。それ、どこの?」

「ちょいまち。...えーっとねぇ。"カフェコメット"。路地裏に佇む、小さな星のカフェです、だってさ。」

カフェコメット...聞き覚えのない店名だった。

「どれどれ?...お?意外と駅チカじゃん。」

画面をまじまじと見つめる私の肩が、突然蒼に叩かれた。少しヒリヒリして痛む。...だけど肩を叩くほどの重要なことを言われるかもしれない。私は叩かれた方と逆の肩をすくめて、後ろに立った蒼の方を向いた。

「今日行かない?女バレ、今日オフっしょ?」

...まさか、今日行けるとは思わなかった。蒼がフッ軽で助かった。子供っぽい表現しかできなくて申し訳ないけれど、ドキドキワクワクが止まらなかった。

「そう!オフオフ!...あれ、もしかして吹部も?」

「毎週月曜は休み。...お?2人とも早く帰れんじゃん!」

「そうと決まれば〜〜〜〜!!」

「名付けて、"バイトに3連続も受からんかった哀れな陽菜の励まし会@《アット》カフェコメット"〜〜〜!!!!ぱふぱふ〜」

うわぁ。最悪。蒼だけに話した、2人だけの秘密のつもりだったのに!今の大声がクラス中に響き渡ったせいで、私の、後に黒歴史になるだろう出来事が40人に広まってしまった。蒼が私の両肩を掴んで揺らしながら大笑いするので、つられて私も、酔いそうになりながら笑ってしまった。


その日の夕方、蒼と私は一緒に各駅停車に乗り込んだ。学校と家の、ちょうど半分くらいの駅に降り立つと、陽の光がいつもより一層眩しく見えた。改札を抜け、北口を出て、ロータリーを真っ直ぐ進んでいく。蒼のスマホにあるナビに従って進んでいくと、なんだか肌寒い風が路地裏から流れ込んでいた。

「ねぇ...ほんとにこの道であってる?」

「もう...あってるって。もう何回目よ!そんなにこのスマホを信用できない?」

「いや、そうじゃないんだって。...ココ、なんか薄暗くない?あと狭いし。なんか寒いし...怖い!」

「なーにビビってんのよ。路地裏なんてどこも薄暗いもんでしょ...ん?」

蒼が急に立ち止まったかと思えば、すぐに走り出した。

「なになに、どうかした?もしかして何が出た?...お化け?お化け!?」

「バカ!お化けなわけないでしょうが!...違う、あれ、見て。」

蒼がたどり着いたところには、切れかけた蛍光灯のような光があった。


「...なにあれ。不気味だけど、ちょっと瞬く星の光にも見えなくもない。」

「なんでこんなとこにぽつんと光があるんだろ。...あ、そこがそうじゃない?カフェコメット。」

...え、ココがカフェコメット?B級ホラー映画に出てきそうなこの光が?

「ほら、ここにちゃんと書いてある、"カフェコメット"って。」

「え?...カ、フェ、コ、メッ、ト...マジだ。ってか何ココ。めっちゃ怪しくない?不気味。なんか光ってるし。古そうだし。道狭いし。なんでこんな人来なさそうな最悪なとこにカフェなんて建てたんだろ。」

「知らないよ。とにかく。あのうまそうなパンケーキが食べたいなら店に入るしかないでしょ?案外、中はすんごく可愛かったりして!」

「...ハイハイ。入るなら早くしてよ、怖いから。」

蒼は私の手をぐいぐい引いて、無理やり店に入れた。カランコローンというチャイムの音と共に――私は新たな世界に足を踏み入れることになってしまった。


「...やっぱ帰る!」

「はぁ!?」

流石に目が回った。だって、目に優しくない内装に宇宙人が持ってそうな骨董品...ココがカフェという飲食店とは到底思えなかった。

「らっしゃっせ〜...おや、見ない顔デスねぇ。じゃあ、あっちへドウゾ〜」

金髪碧眼のウェイトレスに連れられた席に座ったら、隣の不気味な人形と目が合う。開かれたメニューも、なんだか気持ち悪い。


「オススメはこちら、"星屑とブラックホール"デス。」

「...星屑とブラックホール?めっちゃ厨二病みたいw」

蒼が笑う。

「あ、普通のコーヒーデスけど。飲みマス?」

いやコーヒーかい!

「じゃ飲みますー!陽菜は?」

...でも私はコーヒーが飲めない体質なもんで――

「コーヒー飲めないんデショ?」

心を読まれた!この外国人、エスパーだ!...ウェイトレスでさえこんな癖強なんだから、店長はこれよりもっとヤバい人なんだろうなぁ...

「わ、私もそれで。飲めなかったら蒼に飲ませます。あとパンケーキも。以上で。」

「か、かしこまりまシタ〜...」

早口で言いすぎて息が苦しい。...こんな気持ち悪い場所、長くはいられない!

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