ふたりのジョーカー
Hiroe.
第1話
トランプの国に、ふたりのジョーカーがおりました。ふたりのジョーカーはトランプの国で一ばん強く、一ばんかしこく、一ばんえらくて、一ばんお金持ちでした。
ふたりのジョーカーはとても仲がよく、きちんと国を治めていたので、トランプの国はいつも平和でにぎやかでした。
ある日、一人の子どもがふたりのジョーカーの前にやってきて聞きました。
「本当は、どっちのジョーカーのほうが強いの?」
ひとりのジョーカーが答えました。
「こいつの方が強いさ。私は二ばんだ」
もうひとりのジョーカーが答えました。
「こいつの方が強いさ。私は二ばんだ」
子どもは首をかしげていいました。
「だったら、戦ってみせてよ」
一ばんは一ばんなのですから、ひとりしかいないはずです。それがふたりもいて、さらに自分でそれをわかっていないなんて、おかしいではありませんか。
ジョーカーは、ふたりでひとりのジョーカーでした。ふたりで力を合わせれば、まちがいなく一ばんです。でも、どっちの方が強いかなんて、ジョーカー自身にもわからないのです。
ふたりのジョーカーは、戦いたくなどありませんでした。このにぎやかな平和な国で、どうして自分達が争わなくてはならないのでしょう。
「戦って勝った方が本当のジョーカーだ。ボクはそのジョーカーにちゅうせいを誓うよ」
何も持たない子どもは、自分の主人を求めていました。より強い人のために生きようと思っていたのです。
トランプの国はもうずっと平和だったので、人々はそれが幸せかどうかわからなくなっていました。
昔、ハートはスペードと、ダイヤはクローバーと戦っていました。決着のつかない戦争のなかで、ある日、どこからかふたりのジョーカーが現れていったのです。
「この国で一ばん強く、一ばんかしこく、一ばんえらくて、一ばんお金持ちなのは私たちだ」
そこで人々は戦いをやめて、ふたごのジョーカーに従いました。
毎日まぶしい朝日がのぼり、沈んでいきます。それはとても幸せなことのはずでした。
ふたごのジョーカーは悲しくなりました。勝ったら何かが変わるでしょうか。負けたら何かが変わるでしょうか。
「もしもどちらかが負けたらどうするんだね?」
「負けたほうは追放しよう。だって、そいつは嘘つきだ」
ふたごのジョーカーはますます悲しくなって、それぞれ剣を握りました。
そして互いの胸をひと突き、同時に消えてしまったのです。
ふたごのジョーカーを失った人々は困り果てました。何が正しく、何が間違いで、何が平和なのでしょう。
そして、やさしいはずの人々は、再び戦争を始めました。
ハートが一番になると、次にスペードが一番になりました。ダイヤが一番になると、次にクローバーが一番になりました。入れ替わり立ち替わり、それぞれが一ばんになりながら、何百年も過ぎていきました。
決着のつかない戦いのなかで、疲れ果てた人々は、ふたりのジョーカーをなつかしむようになりました。
そのとき初めて、人々はこの世界に「一ばん」などないということに気がついたのです。
ふたりのジョーカーは、ふたりで一ばんでした。ふたりだから一ばんだったのです。ふたりで力を合わせれば、何にも負けることなどありませんでした。
ふたりのジョーカーはそのことを知っていて、みんなにも知ってほしかったのです。
やがて、人々は戦争をやめました。
みんなが力を合わせれば、この国は本当にゆたかで、うつくしい国になるのです。
それから数百年が過ぎた頃、世界中の人々は、みんな幸せに暮らしていたのでした。
ふたりのジョーカー Hiroe. @utautubasa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます