第34話 魔物の介抱

「ラルーナ様、今日は森に行っていたはずでは・・?」




レイナが不思議そうにそう尋ねてくる。


今日の朝に換金しに来て、またすぐに来た私を見て不思議に思ったのだろう。




「今日は昼から用事がありまして・・」




まさか魔物を拾ったなどというわけにもいかず、私は適当にごまかす。




「そうなんですか!それで今回はどういった用件でこちらに?」




深くは聞いてこず、ギルドに来た用件を聞いてくるレイナに私は革袋を差し出す。




「今日の分の換金をお願いします。」




「っ!驚きました!朝あれだけ換金したのに今日も昼だけでこんなに討伐されたんですか!?」




心なしか大きくなったレイナの声につられて、横の酒場で飲んでいた何人かの冒険者がこちらに視線を向ける。


私はフードを深くかぶって顔を伏せる。


このままでは、またいらぬやっかみを受けるかもしれない、そう思っていると私の様子を見たレイナが周囲を確認し、小声で釈明する。




「申し訳ありません、つい・・。すぐに査定してきますので少々お待ちください。」




そう言ってレイナは革袋を受け取ると朝と同じように奥に消えていった。


それを見送った私は特にやることもなく一点を見つめてぼーっとする。






朝持ってきた分よりは少ないのでそんなに時間はかからないだろうと思っていたのだが、思いのほかやってこないレイナに私は何かあったのかとカウンターの奥を覗く。


すると奥から笑顔を浮かべたレイナが走ってくるのが見えた。


何だろうと思っていると、レイナが自分のことのようにはしゃいで話し出す。




「ラルーナ様!やりました!ランクアップですよ!!」




興奮しているのか、レイナは先ほどより大きい声でそう言った。


当然酒場の方からの視線は私に飛んでくる。


今度はそれに気づかないのか、レイナは早口でさらにまくしたてる。




「その歳でこんなに早くランクアップするなんて、やっぱりラルーナ様は凄い才能の持ち主です!この調子でいけばいずれはSランクにだってなれる・・・」




「やめんか、バカもんがっ!」




「あいたっ!」




レイナの声が響き渡り、閑散としたギルドにいる冒険者たちの視線が私に集中しているときに、彼は現れた。




「ギッ!ギルドマスター!?」




レイナがギルドマスターの登場に驚き。周りを見渡してようやく。己のしでかした失態に気づいたようだった。




「しっ失礼しました!」




そうやって私に謝罪するレイナを見て、ギルドマスターが語りだす。




「全く、お前はもうちっと落ち着くことを覚えんか・・それに、ワシでさえたどり着けなかったSランクがそうポンポン出てきてたまるかい!Sランクはそんなに簡単なものじゃないわい!!」




「申し訳ありませんでしたー!!」




レイナはそれはもう必死に頭を下げる。


それを流し見たギルドマスターはふんっと鼻を鳴らしてから私に向き直る。




「お嬢さん、すまなんだな・・思い返せば、お前さんには迷惑ばかりかけている気がするのぉ。」




「いえ、そんなことは・・」




「ふむ、しかしこやつの言っていることは間違いでもない。その歳でこんなにも早くランクを上げるなど、案外大物になるやもしれんなぁ!」




そう言って大笑いしたギルドマスターは、そのまま奥に帰っていった。


不思議な人だ、そう思った。


彼を頭を下げて見送ったレイナは、改めて私に謝罪を行ってくる。




「あの、本当に申し訳ありませんでした!私の配慮が足りないばっかりに不快な気持ちにさせてしまって・・」




「いやいや!そんなことないです、特に気にしていません!」




私がそう返すと、暗かった表情も元に戻り始める。


あのままいけば面倒ごとに巻き込まれていただろうが、ギルドマスターのおかげで私にちょっかいをかけようと思うような人物はここにはいないようだった。


その火の粉を払ってくれたのなら、私からは何も言うことはない。


若干名、酒場の方から突き刺すような視線を感じているが、特に放っておいても問題ないだろう。




そんなことを考えていると、レイナが報酬を出してくる。




「それで、こちらが今回の報酬になります!それと、ギルドランクが上がったことでラルーナ様のランクはGからFになるわけですが、変更点の説明はどうされますか?お聞きになりますか?」




ある程度の知識は頭に入っているが、ここで私の知らないことがあった場合に困るので、おとなしく説明を受けることを決める。




「かしこまりました!それでは説明に移らせていただきます!それではまず・・・」




説明を受けてみたが、やはり私が知っていることと変わりはなかった。


この説明に十分ほどかかってしまったが、要約するとギルドランクが上がったことで受けられる依頼がE~Fの物までになったよってことと、別にGランクの依頼も変わらずこれからも受けることができるよってことだった。


それはこれからランクが上がっても変わらず、たとえSになったとしてもどのランクの依頼も受けることができるということだ。




その説明を受けた私は、新しいギルドカードを受け取ってギルドを後にした。


陽は少し傾いており、思ったよりも長い時間ギルドにいたことが分かる。




私は次の目的地に向けて歩を進める。




「早く帰らないと、あの子も心配だしね・・・」




そうつぶやいた言葉は、やはり誰にも聞かれることはなく、町の喧騒に紛れて消えていった。







あれからいくつか買い物をして宿に帰った私は、今食堂で夜ご飯を食べていた。


今日の献立は川魚の香草焼きに野菜スープに白パン。


そのどれもが私の舌を喜ばせた。


美味しくいただいた私は、ミランダに頼んでいたものを受け取り、礼を言って自室に戻る。


部屋に入ると、魔物はまだ最初に置いた机の上から動いておらず目を覚ましていないようだった。




「大丈夫かなぁ?」




とりあえずぼろぼろの体を拭いてあげるために、私はミランダからもらった水桶の中に買ってきた布巾を浸して絞る。


そうして汚れが取れた白蛇は、欠けた鱗はどうにもならないが元の綺麗な色に戻っていた。




「やっぱり綺麗な色・・・」




その神聖さにのまれてしばし見惚れてしまった。


傷も完全に塞がっているようだし、もうポージョンは必要なさそうだ。




ギルドを後にした私は、蛇が何を食べるのかわからなかったのでとりあえず食べれそうな干し肉とさっき使った布巾、それから万が一のことを考えてポーションを買ってきていた。


ポーションは余りそうだが、収納魔法の中に入れておけば、いざというときに使えるだろう。




「移動させてあげるか・・・」




私は綺麗になった白蛇を布団の上に移動させ、椅子に腰かける。


机の上に今日買った日記を広げる。


中は真っ白な紙を綴っているだけだが、表紙は藍色の紙に星々が煌めいて幻想的な様子を醸し出している。


買ってきた羽ペンにインクをつけて文字を書く。




◇◇◇◇◇◇◇◇




表紙が私好みの日記を買った。


色んな事があって、どこから書こうか迷うけどやっぱり今日のことから書いていこうかな。


私は今日魔物を拾った。


なんでそんなことをしたのか自分でもわからないけど、気づいたらそうしていた。


まだ目を覚まさないけど、他にできることもないので今はまだ起きるのを待つことしかできない。


本当はダメなことなんだろうけど・・助けてしまったものは仕方がない。




無事に目を覚ましてくれたらいいな・・・




◇◇◇◇◇◇◇◇




「日記って何を書けばいいかわからないわね・・・」




そう言って日記を閉じた私は、椅子を窓辺に移動させる。


今日も星がよく見える星詠み日和だった。


今日もいつもと同じように星で遊んでいく。




そうしてしばらくして、私の体が光を帯び始めたときに背後で衣擦れの音がした。


後ろを確認すると、白蛇が体を起こして辺りをきょろきょろと窺っている所だった。




いざ魔物とこの距離で対峙すると、体が身構えて強張った。


いつでも攻撃に移れるように、手に魔力を込めて白蛇の様子をうかがう。




白蛇は私を見て視線を固定し、舌を揺らしながら体を揺らす。


すると、頭の中に声が響いてくる。




(我を介抱したのはお前か・・?)




「えっ・・・?」




突然の出来事に私は、状況を忘れて固まった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

後書き


昨日は久しぶりに友達と日帰りで旅行に行ってました。

昼間から酒飲んで息抜きできたので今日からまた頑張りたいと思います!!


もしこの話が面白い!続きが気になると少しでも思っていただけましたらフォローと★での評価よろしくお願いします!、私のモチベーションに繋がります!

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