横顔に花まる

七月夕日

第1話 奇縁は唐突に

あ、好き。


その人の横顔を見た瞬間私は反射的に心の中で思う。


私は人の横顔を見るのが趣味だ。

鼻から顎にかけてのラインを見るのが特に好き。

その美しい景色を見ていると心が和む。


自分は生まれつき顎が飛び出している。

手術でもすれば良いのだけど、どうしても怖くて躊躇してしまう。

だって顎の一部を切り出してその分縮めるって。

なんかグロテスクではないか。


私は自分の横顔が好きじゃない。

写真に映るときもできるだけ顎を引っ込めるようにしてきた。

コロナ禍のマスクは私にとって好都合だった。

最近、外すことが増えてきて、戦々恐々としている。


「君」


え?気づくと目の前にその人の顔があった。

驚いて声も出ない。


「今、好きって言った?」

「え。嘘」

「嘘なの?」


声に出てたなんて!

でも横顔に見惚れてました、なんて言えない。


「その…あの…」

「もしかして一目惚れ?」


少しからかうような口調。

私は顔が朱くなる。

これじゃほんとに一目惚れしたみたいじゃない!


信じられない!信じられない!


「随分熱心に見てたからさ」

「……それは……、ごにょ」

「なに?」


誤魔化そうとするも、相手は諦めてくれず。

横顔を見つめていた上手い言い訳も思いつかず。

焦りのあまり、


「……っ、あなたの横顔のラインが綺麗だなって見てただけです!!」


うわぁ!!何言ってるの私。

初対面の相手にこれは気持ち悪すぎる。


青年はきょとんとしていたが、腹を抱えて笑い出した。


「そんなの、初めて言われた……」


うう。

恥ずかしくなって顔を隠す。


「ほら、見なくていいの?」

ずい、と顔を近づけられる。

私は後ろにひいて距離をとった。

自分が変なことを言った自覚はあるけど、この人も初対面の女の子に対しての距離おかしくない??


うるさかったのか、学芸員の人に注意される。

私はおとなしく、目の前の絵に集中することにした。


……が、横からの視線が痛い。


「あの?」

「ああ、気にしないで。

僕は僕で自分の見たいもの見てるから」


いや、気になるんですが!?

それって、どう考えても私の観察してるってことだよね?


隣の絵の前に移動すると、青年もごく自然についてきていた。気のせいかと思ったが、展示室1を出たとき声をかけられた。


「ねえ。一緒に見てまわらない?」

「はい?」

「一緒にいれば好きなだけ僕の横顔見てられるよ」


それは素敵な提案……。

じゃ、ない!!

なんか勝手にペースに巻き込まれかけてる。


「堂々と観察するチャンスだよ」


目を細めて挑戦的な笑みを浮かべる相手。

その丹精な顔立ちに、見つめられるとじわじわ顔が熱くなってくるようだった。


「……ど、どっちでもいいです」

焦って曖昧な言い回しをしてしまう。


「じゃあ、一緒に行こうか!僕も君の横顔もう少し観察してたいから」


……はい?横顔?

不穏な言葉を聞いて、発言を撤回しようとしたが半ば強引に青年に手をとられ、展示室2へ。


こっそり横顔を見てただけのはずが、どうしてこうなったんだ??

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