カニを食べたいっ!

常夏真冬

蟹! マス! 蟹! エビ! 蟹! 蟹!

「蟹が食いてぇ」


 蝉がわんわんと鳴く声が聞こえる居間で団扇を仰ぎながら呟いた。

 唐突に思いついたが猛烈に蟹が食べたい。


「もう無理よぉだってあいつ大きくなっちゃんだもの」


 俺、蔵葡蟹太郎くらぶかにたろうはそんな母親の言葉を無視して釣り竿を手にする。

 蟹が欲しい、蟹を剥きたい、蟹を茹でて食べたい。

 そんな欲望にかられて海へと走る。

 走る走る走る。


「蟹ーーーーー! 待ってろーーーーー!」


 堤防に立って俺は叫ぶ。あの美しい殻を待ちわびて俺は釣り糸を垂らす。

 蟹の取り方は知らない。だからこそ達成した時の歓声がより脳内に響き渡るというものだ。

 あのぷりっとした蟹肉。舌で溶ける蟹味噌を思い出すと涎が垂れてくる。


「おっ」


 釣り糸が引っ張られた。

 蟹様が来たかと思い引っ張る。


「え……」


 それはでっかいマスだった。

 元気にピチピチ跳ねるマスは脂が乗ってそうで塩焼きにしたらさぞ美味しいだろう。


「蟹じゃない……」


 だが欲しいのはこれじゃない。

 釣り針を外してマスを海へ帰す。

 どうしてだろう。前に見たテレビでは海で獲っていたのに。


「ごめんな……マス」


 そう言ってまた釣り糸を垂らす。

 またかかった。


「またマスか……」


 マス。エビ。マス。マス。マス。エビ。マス。エビ。マス。エビ。エビ。

 これが今日の戦績だ。


「蟹ーーーーーー! 出てきやがれーーーーーーー!」


 やけになって海に向かって叫ぶ。

 すると海面が盛り上がった。

 巨大な蟹が姿を表す。体長は五メートルくらいで体表にフサフサの毛が生えているから毛蟹だろう。


『お主か。私の名を呼んだのは』

「……喋った」


 実際には脳内に声が響いているのだが、その声はゴボゴボと水の中で喋っているような声だった。


『我らを喰らいたいのか』

「そ、そうだ」


 頭が困惑しているがなんとか返答する。


『そうか。ではくれてやろう』

「え……?」


 大蟹が海に消えると巨大な波が襲ってきた。


「ちょちょちょちょやっばい!」


 急いで防波堤の上に登る。

 大事な釣り竿を置いて逃げる。直ぐ側に波は迫っていた。

 階段を登るが追いつかれる。


「がぼっ」


 波に飲まれる。息が出来なくなって溺れる……と思いきや波はすぐに引いて俺は砂浜に取り残された。


「こんなに……いらねぇよ」


 たくさんのマスとエビとタラバ蟹と毛蟹と一緒に。


「飽きるし……でかいし……」











カニノヨゾラ哨戒班を見てビビッときた短編。

くっそ笑ったあれみた時。(知ってますかねこれ)

カニはちょっと食べるだけで良い。

果たしてこれはSFなのか分からない。オシエテ。

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カニを食べたいっ! 常夏真冬 @mahuyu63

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