ナミエ・ハムロ名誉大佐

闇に瞬く光を追う。


瞬かない星と七色のガスの大河に揺れる、光。


その向こうに人のカタチが見えたとき、トリガーを引く。


赤いヤマダ重粒子の光線が伸び、貫抜く。


人のカタチが弾けた。


断末魔はストロベリーソースのかかったレアチーズケーキの香り。


よくわからないけど、なんとなく高級品な気がする。


そう感じた時、フッ・・・と脳裏に赤茶色の髪の少女がハーフラウンズほどの残りを惜しみ惜しみ冷蔵庫へと仕舞うイメージが浮かんで消えた。


敵の青い無数の弾道を躱しながら右に浮かぶ宇宙巡洋艦をブリッジ、エンジンの順で破壊し次の敵艦へと向かう。


フフッ、粒子砲弾って光より早いのになんで光で観測できるんだろう。不思議。


それよりも、冷蔵庫のケーキだ。

アーモンドタルトにこんもりと盛られた、僅かにグレープフルーツが香る濃厚なレアチーズ。

公爵家御用達のマビロシマーベルブローシェのケーキだ。


戦争以後、ユニオンでは買えなくなっている。

すべての店がアホな民衆に焼かれたから。


そこに住んでるのも働いてるのもユニオンの人なのにね。


ザイオン、敵国の人間だったとしても野蛮な話だけど、その場の人たちはそうは思わない。


私も、その場に居れば焼くだろう。

アホの仲間入りだ。

たとえ惨さに躊躇したとしても、野蛮な行為に走る周囲の人達を恐れ、追従の愚に安んじるはずだ。


創世記救世主のように、リンチ陵虐に走る暴徒を殴り散らして「童貞だけが石を投げろ」と言い捨て罪人の美女をお持ち帰りしてしまうなど、とてもじゃないけどムリよね。


戦争は人を愚かにし、暴力に走らせ、その暴力をコントロールする人間を祭り上げる。


最後の一艦を沈め(その祭り上げられた英雄があたし・・・ウフフ)などとぼんやりしてると、通信コール。


「ハムロ、聞こえて?」


「あ、はい。セリアさん」


「戦闘は終了よ。武装解除に応じた敵性リーゼの回収を手伝って」


「ええ・・・降伏した機体は全てその場で破壊て決まったじゃないですか。いつかの僚艦プロミスみたいになってもしりませんよ」


収艦後に自爆されたんだよな~至近での重力崩壊とプラズマ噴射であたしらの航空母艦ソクブランまでヤバかった。


「パイロットブリーフィングで何を聞いていて?艦載リーゼの中ではあなたのハンビオンが一番高出力なのだから、お願いね」


「あ、ちょっ」


切れた。


セリアさん、戦闘直後てなんか冷たいのよね。

応対が冷たいのもそうだけど、セリアさん自身がものすごく冷えてる感じ。

ただでさえ美女なのに、ソレがいっそうクールに冴えわたってステキすぎる!

しかも白人だし。

並ぶとやっぱりあたしって黄色いのよね・・・


装甲を停戦信号モードで発光させながら救難信号や生命反応をチェック。


まあ、いないんだけど、戦闘マニュアルは徹底しとかないと。


目前に浮遊している箱状の物体を精密マニピュレータでキャッチ。


冷蔵庫ぽい。あの子のかな?


飛散せずこんなトコに浮いてた、てことは中身も期待できるかぁ・・・


なにやら恨めしそうな意識を感じる。


仕方ないわね~、食べるときは相伴していいから、そのあとはちゃんと戻りなよ?ね??





投降リーゼをベルゲに係留しながら戦闘日記をつける。

今日は729人殺した。

一個艦隊規模としては少ないとおもう。


戦隊名はラムダ艦隊。

宇宙巡洋艦ラム、メル、オムの三艦からなる小戦隊だ。


ここまでわかってたら、戦後の遺族探しはそれなりに捗るかな。

どうせこの戦争はユニオンの勝ちで終わるし。



後の人生は彼らのコトバを届けるのとディスコグラフィの収集に使おうと思う。





楽しみ!


この戦争、絶対生き延びてやる。

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