泥棒猫

如月六花

冬の夜

おお寒い、今夜は矢鱈と冷えると思ったら雪が降ってきたじゃあ有りませんか。

全くいやだ厭だ。

これでは背中せなぶちまで凍っちまう。


馴染みの家の庭で「なぁん」と一鳴きすりゃあ、そこの家の婆さんが皿にチョイと飯を盛り、そこに煮干しの幾らかを載せて戸口から出て来た。

其処そこを哀れっぽく擦り寄りゃあ、婆さん愈々ますます気の毒な顔になって「ミケや、家へお上がり」なんぞと言って来る。


こうなりゃしめたもんだ。

雪の中で寒さに凍えず、おまんまにもありつけるって寸法さ。


おまんまで腹を満たして、炬燵に入って温々ぬくぬく電視箱テレビの音など聴いていると、昔の事が懐かしくッて堪らない時がある。


アタシもね、もう二百年は生きてますからね、幾人も飼い主は変わったけれど、く思い出すのは一人の男。

そしてそれに関わった女の事よ……

あれはまだアタシが化け猫に成るより手前の、子猫の時分の飼い主……あのお人ァ、少々変わったお人で有ったもんでさァ。

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