2 魔法の使い方

2‐1 魔法の使い方 1

 翌日、ファベルが朝の身支度を終えた二人に声をかけにきた。朝食ができたようで、昨日夕食を食べた部屋に案内してくれることになった。二人は彼女たちについて行って、夕食を食べたときの部屋に案内され、中に入るとすでに王様がそこに座っている。彼らはファベルにどうぞと案内されるままに中に入る。テーブルに座っているのは王様だけではなかった。


 王様の隣に座っている男性は入ってきた二人に視線を移した。元の世界では地毛ではありえない、緑色の髪を持った男性だ。二人に向けられた視線は敵意ではなく、興味のようで、にこにこと爽やかな笑みを浮かべている。着ているものは、藍色のローブのようなものだが、その淵には金の線が引いてあり、さらに胸の辺りには星がちりばめられたような夜空の絵が描かれたバッジのようなものをつけていた。彼は立ち上がり、二人に頭を下げた。身長は龍樹と同じくらいだ。彼は綺麗なお辞儀を見せ、顔を上げた。


「初めまして。私はセレナル・デューウェンと申します」


「セレナルには今日から君たちの講師となる魔術師だ。この国の学校の講師でもあるから、教師としては申し分ないだろう」


 王様も立ち上がり、セレナルの隣に立って、彼を簡単に紹介した。


「では、とりあえず、話は朝食を食べながらにしよう」


 王様は皆を席につかせた。それを見計らったかのように、ファベルがからからと台を押して、部屋に入ってきた。その台には朝食が乗っていて、それぞれの前に運ばれてくる。夕食とは違い、スクランブルエッグのような見た目の料理はベーコンらしきものを焼いて味付けしたもの。それに具のないコンソメスープのような色のスープが運ばれてきた。夕食とは違い、量は少ないが、どれもおいしそうで、小鳥のおなかがくぅと小さく、かわいい声を上げていた。彼女は恥ずかしそうにしているが、周りのものは全員、ほのぼのと笑っているだけだった。そして、王様が朝食に手を付けるのを合図にして、皆が朝食を食べ始めた。


 食べている間に、セレナルが今日の大まかな予定を二人に話していた。王様は暇ではないらしく、付きっ切りというわけではないようだ。昨日の夕食もそうだったが、王子の姿が全く見えない。王様は本当に、王子は自分たちに近づけないようにしているのだなと思っていた。関心というか、約束を守ってくれるということは少なくとも悪い奴ではないと認識できた。だが、それで彼の全てを信頼できるかといわれれば、それは強く否定するだろう。


 王様とセレナルと龍樹が話しながら朝食をとり終わり、小鳥は食べることに夢中のようだったが、食べ終わったのは龍樹たちと同じくらいだった。食べ終わって、休憩している間にファベルが入ってきて、空いた皿を下げていく。それを合図に、王様は執務に行くといって、その部屋から去っていった。


「それが私たちも、行きましょうか。まずは、魔法の基礎からですね」


 セレナルは爽やかな笑みのまま、二人を連れて、部屋を移動する。移動した先は図書館のような部屋だ。かなり広く、本棚は吹き抜けになっている二階の天井に着きそうなほどの大きさをしている。しかし、どこに何があるかなんてわかるはずもなく、本をチラチラ見ながら、セレナルについて行った。


 図書館の中にある扉の奥に、教室のような空間があった。教室とは言っても、彼らの通っていた元の世界の教室と同じところは部屋の大きさと、黒板があって席があるところくらいだろうか、床にはもふもふのカーペットが敷かれているし、椅子はただの木製のものではなく、座る部分にはクッションのようなものが付いていて、長時間座っていられそうだった。


「では、お二人とも、席へ」


 セレナルが手で示した席に二人は座る。席の間が空いているのが気になったのか、小鳥が机をずらして、龍樹の席にぴったりとくっつけた。


「なんか、不思議な感じ。お兄ちゃんと机を並べることなんて一生ないはずなのにね」


 彼女は嬉しそうな笑顔で龍樹にそういった。龍樹はそんなかわいいことを言われてしまったために、彼女の頭を優しく撫でた。セレナルはそれを注意することもなく、微笑ましく見ている。王様にしてもセレナルにしても、二人は自身の子供のような感覚で、二人が仲がいいということに怒る気にはなれなかった。二人が悪いことをしているなら話は別だろうが、仲のいい兄妹はただただ安らぎを感じるだけなのだ。


「それでは、改めて、挨拶を。私はセレナル・デューウェンと申します。この国で魔術師をしながら、学校の教師をしています。とはいっても、いつも魔法を教えているわけではなく、呼ばれたら授業をするような非常勤講師ですが。では、お二人とも今日からよろしくお願いしますね」


 彼は優しい声色で二人に挨拶して、二人もそれに返すように挨拶をした。小鳥の声は小さく、言葉の進みは遅かったが、彼はそれも気にすることもなく、彼女の言葉をしっかり聞いていた。

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