召喚された聖女の義兄は自在に魔法を操るようです
bittergrass
1 聖女召喚
1-1 聖女召喚 1
煌びやかな装飾の部屋。その中央に、六芒星の頂点を繋ぐように円が描かれている魔法陣が書いてあった。円は二重でそこには何かの文字が書かれていた。そして、そこには黒いローブを着た人たちがいる。それぞれ、杖を持って儀式のようなポーズをとっている。そして、ローブの人たちの輪から少し外れて、一人の男が立っていた。彼はローブの人たちとは違い、赤く、ファーのようなものがついた格式高そうなマントだ。
彼は神妙な顔をしてローブの人たちを見ている。彼の顔には何かを祈るような表情をしていて、この儀式が彼にとって大切なものであることが伺える。
「では、聖女召喚の儀式を始めてほしい」
豪華なマントを着ている男の声にローブを着た人の一人が、こくりと頷いて、その儀式が始まる。一人ひとり持っている杖を円の中心に向けている。彼らは黙っているが、その杖に魔法の元となる魔気というものを流していた。魔気は人の体になくてはないもので、それが生物の体から完全に抜けると死に至るものだ。今、ローブを着た人たちはその魔気を杖に集めるようにしていた。
儀式を始めて、少しすると、魔法陣が光始めた。魔法陣に書かれた文字が地面から少しだけ浮き出ているようだ。それでも儀式はまだまだ序盤だった。
そのうち、ローブを着た人の一人が杖を落としそうになっていた。それもそのはずで、魔気が体からなくなると死ぬ前に体に力が入らなくなったり、体調不良になるのだ。それだけ生物にとっては重要なものである。そして、その杖を落としそうになっている人は儀式に参加してない他のローブを着た人と交代した。儀式から離れた人はその場に膝をついて休憩する。その間に魔気が回復しやすくなる薬を飲んで、体内の魔気を増やす。つまりは、その人はまたこの儀式に参加することになるのだ。
そして、何名も交代してようやく、魔法陣が光輝き始めた。そこまでくれば、もう少しで儀式が完成するのを、そこにいる誰もが認識していた。しかし、ここで気を緩めるバカはこの部屋にはいない。むしろ、ここからが本番といってもいいだろう。魔気は最初よりも早く奪われることになる。犠牲者が出ないようにするにはさらに注意が必要になってくる。
やがて、魔法陣の全ての図形と文字が地面から浮かんだ。ローブの人たちはもはや満身創痍といっていいだろう。息切れを起こしている人がほとんどで、格式高いマントを着ている男のみが、その儀式を息切れもなく見守っている。
そして、ついにその時が訪れる。彼の待ち望んでいた時だ。魔法陣が白く、強く輝きだした。魔法陣は光の玉を放ち、それが魔法陣の外にあふれ出したかと思えば、それらはすぐに魔法陣の中心に吸い込まれていき、光の玉を作りだす。さらに光は強くなり、その光でそこにいる全ての人の視界が真っ白になってしまった。
そして、光が薄くなり、全員の視界も確保される。光がなくなると、魔法陣もすでに消えていて、ローブの人たちは全員が膝をついていたり、倒れていたりしたが、全員死んではいない。そして、魔法陣のあった場所には女子と男子がいた。
二人はあたりを見回して、状況を確認しているようで、格式高いマントをつけている男が二人に声をかけようとしたその瞬間、その部屋の扉が大きな音を立てて開いた。そこには、白を基調とし、その淵が金色の装飾がされた、瀟洒な服を着た男子がいた。金色の髪に、金色の瞳。目つきは鋭く、髪は肩甲骨のあたりまである。堀の深い顔で、少し野性的な感じがするが、格好いい顔つきをしていた。
「父上、聖女様が来られたのですね!」
そういって、彼は召喚された聖女の元に行くと、膝をついて、何もわからない彼女の肩をつかもうとした。聖女は、いきなりこんなところに連れてこられて、知らない男性に体に障られそうになっていることに恐怖しており、肩をびくりと振るわせて、身を縮めた。その姿を後ろで見ていた男子が手を伸ばす。
「小鳥に、触るなっ!」
その男子がそういうと、彼の手から空気の圧がでて、それが衝撃になり、彼女に触ろうとしていた男を吹き飛ばした。攻撃した男子は聖女の前に出て、彼女を庇う。その男子は周りにいる人を敵として認識していた。倒れていたり、膝をついている人はもしかしたら、今立っている男と吹き飛ばした男性がやったことなのかもしれないと思い、二人を敵であると確信した。
その男子は自身が使った不思議な力について、すぐに思い当たるものがあった。それは魔法だ。自身の体から何かが抜けて、それが今の魔法に変換されているのを感じた。彼は背中に庇う女子を見た。未だに怖がっていて、この場からすぐにでも彼女を連れ出したいが、この部屋を出ても敵のテリトリーであることは変わらない。この人たち以外に見つかって人数が増えれば、彼らが逃げ出せる可能性は零だろう。
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