・第一王女 メイティール


 ミーアが唇に濡れたガーゼをあてて、口を湿らせていた。

 侯爵は帰った。また来ると言った。

 侯爵を嫌っていたミーアが丁寧に応対していた。なにかあったのだろうか。


 アルフィーナがリカルドの体を、蒸してあたためた布で拭きながら言った。

「リカルド様は考えることは大切だと、おっしゃいました。観察も大切だと」

 体を拭きながら、足の根本に手をかける。

「ミーアさん。リカルド様のおしっこは出ていますか?」

「ほとんど出ておりません。」

 リカルドの局部が露出している。初めて見た。でも、こんな風に見るとは思っていなかった。悲しいと思った。

「メイティール様。薬がみつかったとして、どうやって飲ませましょう。」

 考えてなかった。

「おしっこは、体から不要なものを選別して排出するためにあるそうです。いま、リカルド様の体内には毒が回っていますが、おしっこが出ないので毒が消えないと考えられます。」

 「!」

「メイティール様。ミーアさん。私が水を飲ませます。よろしいですね?」

 そうか。水を十分飲んでいないからおしっこが出ないのか。おしっこが出れば毒も消える。

 うなずくと、ミーアもうなずいた。

 アルフィーナが水を口に含む。

 「!」

 そのままアルフィーナはリカルドに口づけし、無理やり舌でリカルドの口をこじ開けた。ゆっくりと動き、少しこぼれた水がリカルドの口から首のところヘ垂れていく。

 「!」

 ミーアの小さな悲鳴が聞こえたような気がした。わたしも、とても辛い。聖女とリカルド。二人は美しい。なぜ私はうなずいてしまったのか。胸が痛い。

 リカルドの喉が動く。水を飲んでいるのだ。つまらぬこの気持ちを封じなければ。


 しばらくしてアルフィーナが口を離した。二人の口には唾液の糸がつながっている。光に照らされて美しい。辛い。

「メイティール様。次をお願いできますでしょうか?」

「わ、わかった」

よいのか?胸が高鳴る。とっさに返事できた自分を褒めてやりたい。

あわてて、水を口に含むと、

「メイティール様。多すぎです。その半分にしてください」と言われた。

 リカルドを見る。口が少し開いている。

 リカルドとは同い年だ。まだひげも生えておらず、背も同じくらい。きっと私より大きくなる。

 ひげが生えるとどんな感じだろう。

 彼にいたずらできる背徳感を感じ、いや、これは彼を救うためだと思いなおした。

 唇を押し当て、口をゆっくり開く。あわてるな。少しずつ流し込むのだ。なにも考えてはいけない。私は道具だ。

 彼の喉が動くのが分かった。生きている。もう少し。また彼の喉が動く。

 水がなくなった。だから舌を伸ばす。私を感じて。お願い。祈りながら彼の口内に舌を這わす。

 すこし生臭い。そうだ。あなたは長い間眠っている。仕方がないことだ。この生臭さを全部舐め取って、毒を吸い出してあげられたら。きっと彼は帰ってくる。

 そう思っていると、後ろからアルフィーナの咳払いが聞こえた。

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