第28話 こんな時間が

 アニメの本編がそろそろ始まる。


 そんな時に右手に何か温かい物が触れた、真凛ちゃんの手だ。


 俺は不意なことに驚き隣に顔を向けると、こちらを見ている真凛ちゃんと目が合う。ついさっきも同じように手が触れて握ったら握り返してくれて、そんなちょっとした事が触れていなかった少しの時間でとても愛おしいと思っていた。


 だから、また繋ぎたくて軽く握る。


 すると数分前と同じように握り返してくれた。無言で見つめ合って手を繋ぐのは慣れないのになんだか落ち着く。


 真凛ちゃんとは最近になってした事の筈なのになんだか懐かしい、この小さな手とすこし温かい体温。


 前にもこうして2人で座り、同じ事をしていたような気がする。


 それは多分真凛ちゃんじゃないと思うけど、どこか似た物を感じ目を離せない。あの頃の俺はこの後どうしたんだっけ、指を絡ませたんだったか。


 はっきりとは思い出せない、でも何か懐かしいものに惹かれるまま指を動かす。


 手の動きに気づいたのか真凛ちゃんは少し驚いた表情を見せたが、軽く微笑むと指を絡ませてくれて、世に言う恋人と繋ぎになった。


 ただ手を繋ぐだけとは違い、いつもより距離が近くなる。


 凄くドキドキする、でもそれ以上にもっとこうしていたいと思ってしまう。


 真凛ちゃんはどう思っているんだろう、嫌じゃないだろうか。

 特別と言ってくれたのはどう言う意味だったのだろうか。

 俺の事をどう思ってくれているのだろうか。


 気になるけど、聞いて良いものなのか分からない。


 いや、自分の気持ちすら分かっていないのに縋るように真凛ちゃんの気持ちなんて聞ける訳がないし、こう言うのは自分の気持ちが1番大切だと思う。


 それに、一方的なの良くないよな。


「あの、真凛ちゃん」

「はい」


「今度のお出かけのことなんだけど」

「お出かけですか?」


 真凛ちゃんはじっと顔を見て聞いてくれる。この気持ちが間違いでも勘違いでもないなら、少しだけ前に進みたい。


「うん、できればデートとーー」

『あっあん…待って今は…』


 俺はデートとして考えて欲しいと言おうとしたが、左側から…机の方から艶かしい喘ぎ声が聞こえ言い淀んでしまう。そういえば導入部分で少しエッチなシーンがあったような。


「れ、蓮兄さん今なんて言いました?」


 真凛ちゃんは画面の方をチラチラ見ながらそう聞いてくる。


「え、あー、いや何でもないかな。気にしないで」

「そうですか?まぁ、分かりました」


 真凛ちゃんは聞こえていなかったのか不思議そうに首を傾けている。情けないけど、タイミングというものはあると思うんだ。


 だから別に日和ってるとかではない、断じてない。


「あ、アニメ見ようか」

「は、はい」


 気まずい…手は繋いでいるがこのまま6話全話見るとなると約3時間ほど。


 俺はアニメに集中しようと真凛ちゃんから目線を画面に向け、続きを見る。


 物語は休日の昼間、隣の部屋から聞こえてきた喘ぎ声から始まり、騒音問題で別の隣人が部屋に訪ねてくる。それがこのお話のヒロイン、尋ねる部屋を間違えた事をきっかけにそれから何度か交流を交えていく。


 主人公の男の子は料理ができず、いつもインスタントか外食ばかり…そんな食生活を見かねて料理をしに週に数回部屋を訪れてくる。


 違う高校に通う少年少女のひょんなことから出会ったグルメラブストーリー。最初は週に1度だったのが、今では…というお話。


 場面は進み、料理の話になった。


『今日も美味しそう』


 そのフレーズから献立の話に移り変わり、今日の晩御飯が出てくる。はじめてのご飯はパラパラのチャーハン。


 細切れにした味の濃いチャーシューとネギ、卵の掛け合わせ…あれは絶対にうまい。一応グルメということで作画も凝っていて、アニメなのに涎が出て来そうだ。


「美味しそう…」

「蓮兄さんチャーハン食べたいんですか?」


 俺は思ったことを口に出してしまう癖でもあるのか真凛ちゃんに質問されてしまう。これはもう治せないのかも…


「そうだね、パラパラのチャーハンって作ったことないし、こうやって家庭でも美味しそうなのを作れるのはちょっと憧れるかも」

「そうですか…」


 真凛ちゃんは右手を顎に手を当てて何かを考えているのか少し俯いてしまう。俺は気になり軽く名前を呼んでみることに。


「どうかした?真凛ちゃん」

「あ、えっと…蓮兄さんに最初に作ってもらう料理何にしようか悩んでて、チャーハンでもいいかなと」


「あー、完治したら教えてくれるやつね」


 真凛ちゃんに料理を教えてもらう約束をしている。チャーハンは1度作った事があるがパラパラにならなくてベチャッとした物になり美味しくなかった。


 だが真凛ちゃんに教えて貰うのなら、うまく作れるかもしれない。


「いいかも、教えてもらいたいかな。上手く作れなくてさ」

「分かりました。私ビシバシ教育しますかね!」


「あはは、お手柔らかに」


 真凛ちゃんは俺に料理を教えるのが楽しみなのか少しウキウキしているように見える。可愛い…こうやって肩の触れ合う距離で楽しそうにしている姿を見るのは初めてかも。


 真凛ちゃんは片目しか出していないが表情豊かで、見ているこちらまで嬉しくなってくる。


 もし、これからもずっと一緒に居れば楽しそうにする真凛ちゃんを見る事ができるのだろうか。


 いつまでも、こんな時間が続けばいいのに。


 そう思うと自然と握る手に力が入った。離したくない…そう思わせてくれるのは純粋に真凛ちゃんに魅力があるからか…それとも俺が君を好きだからか。



 ∩ ∩

(・×・)



 蓮兄さんとアニメを見続けてもう少しで6話を見終わってしまう。


 流石に2度目となると覚えている箇所も多く、眠くなってきてしまった。


 パチパチと瞼を動かし眠ってしまわないように、画面を見るも襲ってきた睡魔には抗えないようで蓮兄さんの肩を借りる形で目を瞑ってしまう。


 起きないと…ご飯を作るんだから。


 そう思うも束の間私の意識は遠のいていくのだった。



*****



 時間としては11時半ちょっと。アニメ6話のエンディングに差し掛かった所で右肩にポフっと何かがのしかかって来た。


 まぁ何かというか真凛ちゃんなのだけど。


 昨日から俺の看病やらで色々と忙しそうにしてたまにうたた寝をする事もあった。疲れているのだろう、このまま寝かせてあげたいな。


 しばらくすると俺の肩ですぅすぅと可愛らしい寝息を立て始め、ますます起こしずらくなる。


 俺はアニメを止め、椅子に座り器用に肩に体重をかけて寝る真凛ちゃんをどうしようかと考え始めた。


 俺としてはこのまま寝ていて貰っても構わないけど椅子に座ったままとなるといつ倒れてしまってもおかしくはない。


 となると移動だ。


 俺は真凛ちゃんを刺激して起こさないように手を離し、背中と膝の裏に手を持って行きゆっくりと持ち上げる。軽いなぁ…


 誰かをお姫様抱っこをしたのはこれが人生はじめてであまり勝手が分からないが、落とさないように真凛ちゃんの部屋へと向かう。


 前まで物で一杯になっていた部屋とは違い、少し寂しい雰囲気の漂う空間に入り、いつも寝ているであろう布団に降ろす。


 未だぐっすりと眠る真凛ちゃんは夢の中なのか、何か小さく言っていた。


 なんて言っているんだろうかと耳を近づける。


「蓮…兄さん…す…」


 どんな夢を見ているのだろうか、俺のことを呼んでいるみたいだけど…まぁいいか幸せそうに眠る真凛ちゃんの顔を見るにきっと楽しい夢なのだ。


 俺は夢の邪魔をするわけにはいけないと思い、真凛ちゃんに掛け布団をかけてさっさとリビングにでも戻ろうと立ち上がると手に何か強く握られる感覚があった。


「真凛ちゃんもしかして起きてる…?」

「……」


 俺は少し気になり聞いてみるが返事がない所を見ると本当に眠っているみたいだ。なら、どうして手を握って来たのか…分からない。


 まぁそんなことよりも手を剥がして…剥がして…力強いな。起こさないようにゆっくりと手を剥がそうとするが一筋縄では無理そうだ。


 真凛ちゃんの顔を見ると、未だ幸せそうに顔を歪ませている。なんだか眠っている顔を見ているとこっちまで眠たくなって来てしまう。


 でも、自分の部屋に戻るにしてもこの手を退かさないといけないと思うが、変に刺激して起こしてしまうのも悪い気がする。


「ふぁぁぁぁ。仕方ないか、お邪魔します」


 そこで俺はもう1つの選択肢取るのだった。起きた時、真凛ちゃんにどう言い訳しようかと考えながら目を瞑る。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ここまで読んでいただきありがとうございます! 

第二章 続けばいいのに 完です


次回:第29話 な、何してるんですか…!?


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『ブラコン妹の親友が、妹に隠れて部屋にいる話』こちらも現在連載中なので気になればどうぞ!


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