第18話「誤魔化しのはずが……」

「ちょっ、この姿勢は駄目だって……!」


 向きを変えたことで、向かい合うようにして彼女は俺の膝に座っている。

 胸が押し付けられているし、何より彼女が座っている位置がやばい。

 早く避けさせないと。


「降りないから……!」

「なんでムキになってるの……!? まじで早く降りて……!」

「むぅ……!」


 ちょっ、動かないで……!

 もぞもぞとお尻を動かしたら駄目だ……!


 座り心地が悪くて修正しているのか知らないけれど、刺激を与えないでほしい。


「誠司がいじわるするのが悪い……!」

「自分が、手を出せるなら出してみろって言ったくせに……!」


 焦りから、俺は口悪く言い返してしまう。

 だけど、それによって風見さんは更に拗ねてたみたいで、同じく言い返してこようとしたところ――。


「ねぇね、せいちゃん、けんか……?」


 いつの間にか目を覚ましていた美海ちゃんが、不安そうに俺たちを見ていた。

 俺たちの声がうるさくて、起きてしまったのだろう。


 今にも泣きそうな表情なので、これはまずいと思った俺は反射的に風見さんをギュッと抱きしめる。

 それによって彼女は身を固くしたけれど、俺はそのまま優しく頭を撫でた。


「い、いや、喧嘩なんてしてないよ? 喧嘩してたら、こんなふうにくっついたり、俺の上に風見さんが座ったりしないよね?」


 俺はこの体勢をうまく利用して、誤魔化しにかかる。

 それがよかったのか、美海ちゃんはキョトンとした表情で首を傾げた。


 とりあえず、泣きそうな表情ではなくなっている。


「…………」


 本当はこのタイミングで、風見さんもフォローに入ってほしかったが、彼女は固まったままだ。

 よほど俺の行動が予想外だったのだろう。


「風見さん、何か言って」


 ピクリとも動かないので、俺は耳打ちをする。

 すると――。


「だめ、心臓がもたない……」


 なぜか、俺の肩に顔を預けてきた。


 いや、まじで何してくれてるの……!?


「か、風見さん……!」

「…………」


 駄目だ、反応がない!

 えっ、さすがに気を失ったとかないよね!?

 一応、呼吸はしているようだけど……!


「ねぇね、ずるい……! みうも……!」


 急に脱力した風見さんに戸惑っていると、美海ちゃんが頬を膨らませて近寄ってきた。

 グイグイと風見さんの服を引っ張って、『そこを代われ』と言っているかのような必死さだ。


 美海ちゃんはもう俺たちが喧嘩しているかどうかを気にしておらず、俺の膝の上に座りたがっているように見える。


 だから、風見さんを解放しようと手を放したのだけど――彼女が、俺から全然離れなかった。


「風見さん、もういいんじゃ……?」

「やだ、はなれない」


 元々拗ねていたけれど、なんだか更に子供のようになっている。

 まるで駄々をこねる幼子おさなごだ。


 しかし、こうなってくると――。


「ねぇね、みうも……!」


 美海ちゃんが、再び涙目になっていた。

 全然代わってくれない姉に対して、泣きそうになっているのだろう。


 これくらい騒いでいたら、風見さんにも絶対聞こえているはずだが――顔を覗き込むと、心ここにあらずのような目をしていた。

 目の焦点が合っていないのだ。

 まるで、どこか別の世界に飛んでいるかのように見える。


「風見さん、代わってあげなよ……」

「…………」


 駄目だ、また反応がなくなった。

 こうなったら――。


「美海ちゃん、ちょっとだけ待ってね……」


 美海ちゃんの頭を撫でて、時間稼ぎをすることにした。

 さすがに、いつまでもどこかに飛んだりはしないだろう。

 少しすれば、戻ってくれるんじゃないだろうか。


 ――俺はそう期待しながら、美海ちゃんをあやすのだった。



=======================

【あとがき】


読んで頂き、ありがとうございます(#^^#)


話が面白い、キャラがかわいいと思って頂けましたら、

作品フォローや評価☆☆☆を★★★にして頂けると嬉しいです(≧◇≦)


これからも是非、楽しんで頂けますと幸いです♪


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る