【完結】俺をからかってくる大人気ギャルの妹に懐かれました

ネコクロ【書籍6シリーズ発売中!!】

第1話「なぜかギャルが抱き着いてくるんだが」

「――だ~れだ?」


 教室に入ると、突然視界を塞がれてしまった。

 瞼から体温を感じるので、手で押さえられているようだけど――。


風見かざみさん、また……?」

「あはは、当てられちゃった」


 視界が開かれたので振り返ると、『てへっ』という感じで舌を出すギャルが立っていた。

 彼女の名前は風見かざみ美空みそらさんといい、美少女な上にフレンドリーなことで、男女問わず大人気な子だ。


 髪は金色に染めており、肌の色は白くて瞳も青いので、まるで海外の人かと思ってしまう。

 鼻も高く、正直一般的なアイドルよりもかわいいだろう。


 そんな彼女だが、なぜか俺――須藤すどう誠司せいじに鬼絡みをしてくるのだ。

 しかも、からかってくるのでタチが悪い。


「こんなことするのは君しかいないし、そもそも声でわかるじゃないか」

「むぅ……そういう決めつけは、良くないんだぞぉ?」

「わかりやすく頬を膨らませてるね……」


 拗ねてるアピールなのだろう。

 表情豊かで、本当にわかりやすい。


「誠司はちょっと冷たいと思います」

「いや、君がからかってくるのが悪いんでしょ?」


 なぜか知らないけど、二年生で同じクラスになってからやけにからかわれている。

 それが嬉しいって男子はいるのかもしれないが、今まで女子とほとんど絡みがなく、免疫もない俺としては苦手だった。

 正直、天敵とさえ思っている。


「言うほどからかってるかな?」

「…………」


 一瞬、自分の胸に手を当てて考えてみろって言いたくなったけれど、セクハラになりそうなので言葉を飲みこんだ。


「今みたいに目を塞いできたり、突然抱き着いてきたり、耳に息をかけてくるのが、からかってないとでも?」


 二年生になってから、今まで彼女にされたことを並べてぶつけてみた。

 こんなこと、仲がいい男女でもそうそうしないだろう。

 それこそしているのは、付き合っている人たちレベルだ。


「それはからかいではないと思う」

「どこがだよ……」


 どう考えても、からかわれているようにしか思えないんだが?


「誠司はあれだね、相手の好意を無下にする人だ」

「何不機嫌になってるの……?」


 風見さんがプイッとソッポを向いて不貞腐れたので、俺は戸惑いながら彼女に尋ねる。


「いいよ、いじわるで鈍感な誠司にはわからないから」

「はぁ……?」


 いったい何が彼女を不機嫌にしたのか。

 言葉にしてもらわないと、俺にはわからない。

 超能力者じゃないんだからな。


「まぁ、怒らせたなら謝るよ。ごめん」

「そうやって謝られると、それはそれで困る……」


 俺が謝ると、風見さんは居心地が悪そうにしだした。

 どうしろというのだ。


「……えいっ!」

「――っ!? なんでこの流れで抱き着いてきた!?」


 急に抱き着かれてしまい、俺は顔が熱くなるのを感じながら、慌てて引きはがそうとする。


「だって、謝ったらお互い謝ることになりそうだから、空気を変えようかと……!」

「だからって抱き着かないでよ、心臓に悪いから……!」

「むぅ、そんな人をばい菌みたいに言わないでよ……!」

「全然言ってないでしょ……!?」


 驚くから心臓に悪いのであって、別に汚いなどは言っていない。

 こういう嚙み合わないところが、彼女を相手にしていて困るのだ。

 あと、女慣れしてない男子に、そんな柔らかくて大きなものを押し付けるのがどれだけの拷問か、よく考えてほしい。


「――あの二人、またやってるね?」

「ほんと、仲がいいよね~」

「美空ちゃんが須藤君を好きすぎるんでしょ?」

「見てて微笑ましいよね~」


 風見さんとワチャワチャやっているせいか、女子たちが口元に手を当てて笑みを浮かべていた。

 もしかしたら、俺のことを馬鹿にしているのかもしれない。


「――なんで、あいつばっか……!」

「ほんとふざけんなよ、須藤……!」


 そして男子は男子で、凄い嫉妬の目を向けてきていた。

 そりゃあ、人気者で美少女の風見さんに抱き着かれるなんて、周りからすれば羨ましいだろう。

 俺だって、第三者なら嫉妬していたかもしれない。


 だけど――当事者になると、恥ずかしいだけだ!


「風見さん、いい加減離れてよ……! クラスの笑いものになるから……!」

「そんな言い方されたら、意地でも離れない……!」

「なんでムキになってるの!?」


 ギュッと抱き着いてくる風見さん。


 当たってる!

 当たってるから!

 形がムニュッて変形してるから!


 ということを叫びたいけれど、周りから白い目を向けられるので叫べない。

 本当に心臓に悪いんだが。


「私に抱き着かれて嫌がるのって、誠司くらいだよ……!」

「恥ずかしいんだって! というか、他の男子にしてるところ見たことないけど!?」

「だって、したことないもん!」

「したことないの!?」


 じゃあ、どうして俺にはしてるんだよ!

 そんなに俺をからかって面白いか!?


 この後は、しがみついてくる風見さんを頑張って引き剥がそうとしたが、結局先生が来るまで離れてくれないのだった。


 ――いや、ほんと……なんで朝から、こんなに疲れないといけないんだ……。


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