第5話
最寄り駅についたとき、僕は半ば目を瞑って考えごとをしていた。そのため、あやうく降車すべき駅を乗り過ごしそうになった僕は、混みあった電車の中で人ごみをかきわけて、辛うじてドアが閉まる前にホームに降り立つことができた。
夕暮れが空を赤く染めていて、周囲の人たちは夕暮れの空に追い立てられるように競って家路につこうとしているみたいだ。
電車が走り去った後も、僕はそのまま駅のホームに立っていた。今までなら、いっこくも早く家に帰って明日香に会いたいと思っただろうけど、今日の僕は明日香に会う時間をできるだけ後ろに伸ばしていた。
実際、家に帰って明日香と顔を合わせたとき、僕は何を明日香に言えばいいのだろう。何を明日香に問いかければいいのか。
おまえ、浮気しただろって問い詰めるのか。
いや。それは違う。
志村さんと僕が違うのはそこだ。明日香と寝た渋沢は、その時、志村さんの彼氏だった。
渋沢に抱かれた明日香はその時は僕の彼女でも何でもない。明日香は当時の彼氏の池山を裏切ったのかもしれないけど、それを僕が責めるのは何か違うと思う。
じゃあ、責めることもできないようなできごとに、僕はショックを受けとぃるのか。
まして、明日香に対しては、僕は処女性とか純真な感情とかを期待したことはなかったはずだ。
明日香はもともとそんな女の子じゃない。有体に言えば、どちらかというと不良少女の類いなのだ。
ただ、僕は明日香の不良ぶった行動は、僕という存在への反発や、僕に対する両親の信頼へのいら立ちから取られたものだと考えていた。
しかし、渋沢に言い寄ってあいつと寝たのだとすると、その行動は家庭の問題とは関連がないだろう。
つまり明日香には本質的にビッチな性向があるということであり、家庭への反発とかそういう理由は意味を失う。
多分僕は、明日香に対する嫉妬だけではなく、その事実に悩んでいるのだろう。
僕は駅を後にして自宅に向かってのろのろと歩み始めた。
僕と付き合い出す前の明日香の浮気な行動のことばかりを気にしている場合じゃない。僕はふと思いなおした。
もっと悩ましいのは奈緒のことではないのか。奈緒は僕とは血が繋がっていないらしい。その事実を自分の中で消化することの方が、自分の中では優先度は高いのではないか。
気がつくと、僕は自宅の玄関の前に立っていた。
「あ」
いきなりドアが内側から開き、明日香が目の前に姿を現した。まだ、十分に心の準備もできていない。明日香に何を話そうか、何を話すまいかも決めていなかった。
「お兄ちゃん」
「・・・・・・どっか行くの」
僕はようやくそれだけ口にした。明日香の表情も暗く硬かった。
「ちょっと。夕ご飯用意してあるから食べて」
「ちょっとって、いったいどこに行くの?」
「うん、まあ。ちょっと」
何が何だかわからない。
「何が何だか全然わからねえけど」
「もう行くね」
明日香は、目を伏せて僕と目を会わせようともせずに夕暮れの中をどこかに出かけて行った。
明日香の言うとおり、キッチンのテーブルの上には夕食めいたものが用意されていた。いろいろ焦げていたり生焼けだったりしてはいるけど、何とか食べられないことはない。
・・・・・・有希はいったい何で僕と奈緒の過去の事実を知っているのだろう。
というか何のためにそれを明日香に告げたのだろう。
それだけではなく、明日香と渋沢のことまで知っている。有希が渋沢と付き合いたいというのは本心ではないだろう。あいつはいったい何がしたいのか。
それから僕は自分が幼い頃、奈緒が引き取られてきた記憶がよみがえってこないか、心の中を探った。
奈緒がレイナさんの娘だったとしても、それがなぜうちの父と母に引き取られたのだろう。
しばらく集中して思い出そうと試みたが、やはり何の記憶も浮かんで来なかった。
思い出そうとするのを諦めた僕は、テーブルについて、明日香の用意してくれた夕食らしい皿を眺めた。何だか冷凍食品を盛り合わせたようなものが皿の中にある。僕は食欲を失って皿を脇に押し寄せた。
思い出せないのなら調べるしかない。もともとレイナさんのことを調べようとしていたところだ。レイナさんだけではなく自分の幼少時に何が起きたのか、奈緒と僕が母親から育児放棄されたことはわかっている。
その前に何かがあったのだ。僕と奈緒が兄妹として育てられるきっかけとなった何かが。
僕は夕食をそのまま放置して、さっき脱いだばかりの靴をはき、再びもう暗くなっている家の外に出た。
明日香の向かった先なんか思いつく。まず、間違いなく明日香は玲子叔母さんのところに向かっているのだ。
僕は駅の方に早足で向かった。明日香が過去のことを調べたいのならそれに協力する。僕だって知りたいという気持ちはあるのだ。
そのうえで明日香がどう判断するのかは別の話だ。彼女に振られるにせよ、すべきことはしておかないといけないのだろう。記憶のない僕にとっても、それは知らなければいけないことなのだ。
玲子叔母さんのマンションに前で、僕は少しだけためらったけど、すぐに入り口のドアの前のパネルの数字ボタンを押した。
しばらくして、叔母さんの声が聞こえた。
「はい」
「奈緒人です」
「え・・・・・・ちょっと。ちょっと待って」
叔母さんの慌てた声で僕は確信した。部屋の中には明日香がいるのだ。
しばらくの沈黙の後、エントランスのパネルのスピーカーから叔母さんの諦めたような声が響いた。
「今あけるよ。入ってきな」
明日香が折れたのだろう。僕は自動で鍵が開いたエントランスのドアを抜け、エレベーターのボタンを押した。
「・・・・・・よう」
ドアを開けた叔母さんがそう言った。
「明日香も来てるんでしょ」
「うん。本当はさ。あんたは今日くらいは明日香を放っておいた方がよかったんじゃない?」
「そうは思いません。あいつを放っておくなんて僕の方が無理です」
玲子叔母さんが厳しい表情を和らげ、一瞬だけ微笑んだ。
「・・・・・・うん。そうかもね。あんたたちは本当に仲いいもんね。あの公園で遊んだときからずっと」
その公園には奈緒もいたはずだけど、叔母さんは奈緒には触れずにそう言った。
「じゃあ、しかたない。入んなよ」
叔母さんの部屋に入ると、リビングのソファの上で、小さくうずくまっている明日香の姿があった。
明日香は叔母さんに続いて部屋に入ってきた僕の方を見ようともしなかった。
でも、今はそれでもしかたない。明日香が叔母さんに聞いたことへの答えを僕も聞ければそれでいい。もっとも、叔母さんがこれまで話してくれた以上のことを、果たして知っているのかは疑問だった。
「明日香」
叔母さんが明日香に声をかけた。
「・・・・・・うん」
「あたしはさ。さっき言ったとおり確実なことはあまり知らないの」
明日香は俯いたままだ。
「でもさ。あんたに頼まれればしかたない。でも、本当にレイナさんとは会ったこともないし、全部人から聞いた話なのよ」
では明日香はレイナさんについての疑問をダイレクトに叔母さんにぶつけたのだ。
僕は明日香の方をうかがった。明日香は僕がこの家に来て初めて僕に反応してくれた。明日香はそっと首を横に振った。
僕と奈緒のことを叔母さんに話していないということだろう。叔母さんは僕と奈緒がまだ実の兄妹だと思っている。その叔母さんが語るレイナさんの話に聞く意味があるのだろうか。
「それでもいいから話して」
明日香が小さな声で言った。
「じゃあ、話そうか。奈緒人もその辺に座って」
僕はソファの、明日香から離れた方の端に腰かけた。
「事実かどうかはわからないんだよ? あたしが知っていることは、もう全部あんたたちに話しているし」
「わかってる」
明日香の暗い返答に、玲子叔母さんはため息をついた。
「じゃあ話すよ。ほとんどは人から聞いた話だよ」
博人と麻季の離婚調停のとき、玲子がひどく違和感を感じたことがあった。
一つは麻季のでたらめな調停方針。二つ目は、それに対する姉のあまりに淡白な態度だった。
麻季がひどい浮気女だとしても、そして自分の快楽と欲望を優先し、子どもたちの養育を放棄していたとしても、その後の離婚調停で彼女は二人の子どもの親権を要求していたのだから、麻季には子どもたちへの執着はあるはずだった。
それなのに、なぜ彼女は突然要求を変え、奈緒人の親権を放棄し奈緒の親権だけを要求するようになったのだろう。
「妥協する必要はないですよ」
博人の妹の唯はそう言い切った。
「二人を引き離すなんて、そんな残酷なことは認められません。何よりあの子たちをネグレクトした麻季さんに親権が認められる確立は低いですよ。調停委員だってそう判断するでしょう。調停委員の一人は児童保護に生涯をかけた人らしいですし」
それはそうかもしれない。麻季が何を主張しても、児童相談所に通報され子どもたちを一時保護までされた事実までは覆せない。
それに比べ、博人は実家の助けを借りて、順調に養育実績を積み上げている。
何より、麻季は最初は二人の親権を要求し、途中で奈緒の親権だけを求めるようになった。こんなでたらめな主張をする母親に親権を認めることはないだろう。
それは唯の言うとおりだと思ってはたけど、いったい麻季が何を考えているのかは少しだけ気になった。
彼女は東洋音大で博人と姉の一期下だそうだけど、あの温厚な博人が何でこんなにエクセントリックな人と結婚したのか、玲子にはまるで理解できなかった。
そして二つ目の疑問。その後のあのひどい調停の結果を、意外なことに博人が受け入れると決断したことに対して、周囲のほぼ全ての人が反対した。
一番の博人の理解者であった唯ですら、自分の大好きな兄と絶縁するくらい博人の決定に憤ったのだ。
それなのになぜ、姉はそんな博人の決定を受けいれ、当初予定していたように奈緒人、奈緒、明日香の三人との生活を守ろうとしなかったのか。
それだけ博人に惚れていたから? 自分が腹を痛めたわけではない奈緒人や奈緒のことには執着がなく、博人さえ自分のものになればそれでよかったから?
頭に浮ぶどの考えも当時の玲子を納得させることはできなかった。姉はそんなふうに割り切れる冷たい感性の持ち主ではない。
それでも今まで博人に協力してきた彼の実家や、博人の自分の子どもへの愛情に疑問を抱いた玲子と理恵の両親を敵に回してまで、姉は博人に味方についたのだ。
やがて、奈緒は麻季に引き取られていった。博人と玲子は新しく家を買い、そこで明日香と奈緒人と家族として暮し始めた。
博人も玲子も相変わらず仕事が多忙だった。姉は、最悪は仕事を止めて子育てをすると言っていたのだけど、職場に引き止められてなかなか思うように行かなかったので、見かねた玲子が引き続き子どもたちの世話をすることになった。
もう半ばは、入学したばかりの大学で夢見ていた華やかな学生生活や、演奏に打ち込む希望を諦めていた。
明日香が小学校に上がってからは、だいぶ玲子の子育ての負荷は軽減されていた。
学童保育のお迎えは保育園の頃と変わらずあったけど、朝、保育園まで送らなくてもよくなったことは大きかった。
その日、玲子は大学の講義を終え、これからどうしようかと思いながらキャンパス内を歩いていた。
秋の気配が金木犀の匂いとともにそこかしこから漂っていた。古い校舎の防音は完全ではないせいで、あちこちから弦やら管楽器やら打楽器の音が聞こえてきている。
今すぐに帰ったら明日香のお迎えには早すぎる。かといって今さら明日香の世話のせいでろくに参加できずに幽霊部員となったサークルに顔を出すのも気が引ける。
「いけない。バイトに送れちゃう。またね」
すれ違った学生の声を聞きながら、玲子は自分もバイトとかしてたかったなと何となく考えた。
実は玲子の育児は無償奉仕ではなく、姉からバイト代と称してお小遣いをもらっていたので、別にバイトをする必要はなかったのだけど、何となく社会体験として他の学生に差をつけられているような気がしていた。就職活動とかで不利にならないだろうかという不安もあった。
そのとき、玲子は女性からいきなり声をかけられた。
「あら。もしかして理恵の妹さん、えーと。玲子ちゃんじゃない?」
確かこの人は姉さんと同期の多田さんだ。どこかの高校で音楽の教師をしていたはずだ。一度だけ、姉に紹介されたことがあったと思う。あれは、事故死した姉の前の旦那さんである高木さんのお通夜のときだ。
「多田さん? ですか」
「そうそう。久し振りだね。今は結婚して川田って名前になったんだけどね」
「ご無沙汰してます。あのときはありがとうございました」
「お姉さんはお元気? あまり沈んでいなければいんだけど」
「大丈夫ですよ。姉は再婚しましたし」
「ああ、そうなの。よかった。でも理恵も水臭いなあ。再婚したなら教えてくれればよかったのに。お祝いしたかったよ」
「まあ、姉も再婚ですし。子持ち同士の結婚ですからお披露目とか何にもしなかったので」
「それはそうかもしれないけどさ」
多田・・・・・・いや、川田は不満そうに言った。
「さっそくお祝いしなきゃ。というか新しい旦那さんってどういう人?」
「多田さん、じゃない川田さんも知ってるんじゃないですか? 結城博人さん。姉さんや川田さんの大学の同期ですし」
玲子はあまり考えずに口に出した。
「結城って。まさか、あの結城博人君?」
川田が驚いたように言った。
「え? 結城君が理恵と? もしかして結城君と麻季って別れたってこと」
ひょっとして玲子はゴシップ好きな女性の好奇心に火をつけてしまったのだろうか。
不用意な自分の発言を後悔しながら、玲子は答えた。
「ええ。いろいろあったんですよ」
「まあ、あたしがいろいろ聞いたら悪いんだろうけど」
「博人さんと姉は、二人の子どもと人生をやり直しているところですし、そっとしておいていただけたらと思います」
「うん、わかった。でも、理恵に伝えて。あなたの幸せを祈っているって」
「ありがとうございます。川田さんは今日は何で大学に?」
「私学音楽教師連盟の研修会があったのよ。久し振りに大学に来たわ」
「そうですか」
「じゃあ、もう帰るね。結城君と理恵によろしく」
「わかりました」
「あと、お子さんたちにも。確か・・・・・・結城君の息子が奈緒人君、理恵のお嬢さんが明日香ちゃんかな」
「覚えていてくれたんですね」
「結城君と麻季の子どもの名前は忘れないわよ。明日香ちゃんの名前もね。理恵が本当に嬉しそうに名付けの際にメールくれたからね」
「そうですか」
「レイナも浮かばれないなあ」
川田は空を見上げながらふと独り言のように口にした。
「あの。レイナさんって?」
「ああ」
思わず口にした言葉を玲子に聞かれ、少し困ったような表情で川田が口ごもった。
どういうわけか、レイナというその知らない女性のことが気になった。彼女の悪いくせだが、博人のことにになるといろいろなことが気になるのだ。
今の今までこのお人よしで世話好きそうな先輩から、どうやって逃げようかと考えていたのだけど、彼女は方針を変えた。
玲子は川田を学内のカフェに誘った。まだ、明日香を迎えに行くには時間が早い。
「あのね」
コーヒーカップをいたずらにずらしたり回したりしながら川田が言った。
「レイナっていうのは、麻季の友だちでこの大学の同期なの」
「どういう字を書くんですか」
川田はバッグからボールペンを取り出し、テーブルの紙ナプキンにきちんとした字で「怜菜」と書いた。
「もともと二人はすごく仲が良かったんだけど」
「何があったんですか」
「麻季があなたのお姉さんの今の旦那、つまり結城君と付き合うようになってね。それから麻季と怜菜の距離が開いちゃってね」
「何でですか」
「怜菜も結城君のことが好きだったからね」
「ああ」
「でももう昔の話だよ? それから怜菜だって東洋音大の先輩と結婚して子どもも恵まれたし」
「そうですか。じゃあ、もう二人にはわだかりはないんですね」
「わだかまりはあったと思うよ。でも、怜菜は交通事故で死んだの。子どもを庇ってね」
「亡くなられたんですか」
「そうなの。あたしね」
川田がカップを置いて玲子の方を見た。
「あたしはさ。大学時代にいろいろ見たり聞いたりしてたこともあって、部外者の中じゃ一番いろいろわかってるのかもしれない」
「どういう意味ですか」
「同学年の結城君と一期下の麻季と怜菜とは、サークルが一緒だったの。君のお姉さんとも同学年で、普通に仲がよかったし、いろいろ当時聞かされたなあ」
「結城君と麻季が付き合い出したとき、理恵は結城君に失恋したの」
「はい。それは姉から聞いてます」
その話自体には意外性は何もなかった。姉自身が自ら公言していた話でもある。
「何かなあ。今さらだけど、新勧コンパのときから結城君と麻季って怪しかったのよ」
川田は何だかもう早く帰る気をなくしたみたいだった。
「そうなんですか」
「うん。まず、結城君が麻季のことを気にしていることはすごくよくわかったのよ。先輩たちに囲まれている彼女の方をちらちら見ていたし」
「あの結城さんが」
「あの頃は結城君はフリーだったし、麻季て新入生の中では目立っててさ。新歓コンパのときは先輩たちが周りに群がっている状態だったの。とにかく綺麗というか可愛いというか」
「麻季さんがですか」
「そう。だから結城君に限らず、麻季に目を奪われていた男はあの日、いっぱいいたと思うよ」
「それだと結城さんが一方的に、麻季さんのことを好きだっただけじゃないですか」
「あたしも最初はそう思ったの。ちょっと結城君らしくなく高望みしすぎかなって」
「高望みですか?」
「高望みじゃないか。うまく言えないけど麻季ってさ、もともと結城君と付き合うような子じゃないって言うか」
「麻季さんと博人さんがお似合いじゃなかったってことですか?」
「うん」
川田ははっきりと、大きく頷いた。
「全然お似合いなんかじゃないよ。あれだけ無理なカップルも珍しいね」
「どういうことですか」
「あたしが知る限り、つまり学内でいつも一緒にいた二人を見てた範囲で思ったのはね。あの二人って、対等な関係じゃないなあってこと」
「麻季さんがわがままだったということですか」
「わがままというか。むしろ、麻季が精神的に過度に結城君に依存しているように見えたな」
「それで無理なカップルということですか」
「結城君も自分が救える、自分が上手に扱える範囲の女の子を相手にすべきだったんじゃないかなあ」
「博人さんは麻季さんを持て余していたってことでしょうか」
「はっきり言うとそうだね。あそこまで振り回されているのに、何で結城君がプロポーズするまで麻季に執着したのか今でもよくわからないんだ」
「川田先輩はよく二人のことを知ってたんですね」
「そうなの」
ちょっとだけ皮肉に意図を込めた玲子の言葉を無視して川田は言った。
「あたしさ。その頃、見たことがあるの。いや、見たっていうか聞いたことって言った方がいいかな」
「何を聞いたんですか」
「結城君と麻季が付き合い出してさ。理恵が遠慮したのか結城君に話しかけなくなったのね。一時期、あんなに楽しそうに幼馴染の結城君と大学で再会しちゃったとか話していたのにね」
姉さんの心中を思うと悲しくなる。
そして川田先輩の話はどんどん生々しくなってくる。その語り口は妙に生々しい。ひょっとしたらこの人は、誰にも言えずにずっと何かの秘密を胸に抱いていたのかもしれない。
今日偶然、話す相手を見つけたということなのか。
「あとさ。すごく仲が良くていつも一緒だった怜菜と麻季があまり一緒に過ごさなくなったんだよね」
「怜菜さんは黙って身を引いたんですか」
少しだけ、何か言いた気な表情で川田先輩はカップを置いた。
「一見そう見えるよね」
「はい?」
「怜菜のことは後で話すけど、とりあえず麻季の話ね」
この話は結構長くなりそうだ。明日香のお迎えの時間は大丈夫か。一瞬少し心配になったけど、まだ時間はあった。それにここまできたら、話を聞かないと気になって夜も眠れないだろう。
「麻季が結城君と付き合い出してしばらくたった頃だけど、あたしは怜菜と一緒に大学のサークル棟に向かって一緒に歩いてたのね。そうしたら中庭のベンチに座った麻季が誰かと話しているみたいだけど、なんか様子がおかしかったの。
つまり麻季の話し声がするけど、相手の声は聞こえない。最初は携帯電話かなって思ったけど、電話を手に持っていないし、何よりもベンチには麻季しか座ってないのよ」
「独り言ですか」
「独り言じゃないの。誰かと話してるの。だって、話しかけては相手の話を聞いているような間とかあって。それでね」
川田は少し間を開けた。麻季の「会話」を再現して見せたのかもしれない。
「正直、少し気持ち悪いと思ったし、盗み聞きしているようなものだから立ち去ろうと思ったのだけど、怜菜があたしを制して麻季の話を聞き出したの。そうしたら麻季の声がはっきりと聞こえて」
『だからどうしたら、博人君と一緒に住めるのかを聞いてるの。鈴木先輩の誘いとか今は関係ないじゃん』
『違うって。あんなキスのことなんか別にどうも思ってないもん。そうそう、わかってるじゃない。今は嫉妬させるよりもっと博人君と仲良くすることを考えるべきなのよ』
『え? それはちょっと突然すぎない? 引かれたりしないかな?』
『それもそうだね。じゃあ、荷物を持って合鍵で彼の部屋に入って、帰りを待てばいいのね』
『じゃあそうするよ』
「あたしは驚いて固まっていたんだけど、怜菜が行きましょうって言って、あたしの手をつかんでその場から離れていったのね。麻季から離れて、どういうことって怜菜に聞いたら話してくれた。『対話性幻聴』というんだって」
「対話性幻聴?」
玲子には初耳だったが、なんとなく言葉の想像はできた。
「そうなの。怜菜は麻季と大学に入って仲良くなったんだけど、麻季がよく独り言を言ってることが気になったんだって。それで医者をしている親戚の人に聞いたら、幻聴かもしれないって言われたらしいの」
「対話性って言うのは何です?」
「自分に話しかける声が聞こえたり、それに反応して返事をしたりするのを対話性幻聴って言うんだって」
麻季さんは奈緒人と奈緒の育児を放棄して、しかも何日も家に放っておいた人だ。
そして、親権を争ったときのあの一貫性のない調停方針をあわせて考えると、やはり精神的な病にかかった人だったのだろうか。
「怜菜は麻季の独り言には気がつかない振りをして、立ち入らないようにしてたって言ってた。でも、聞きたくもないのに聞かされているうちに、どうもその内容が結城君との恋愛関係の話らしいことに気がついたの。そして、その話をしている怜菜の顔が泣きそうになったことも。
怜菜ってね、本当に綺麗な笑い方をするの。育ちがいいせいかもしれないけど、上品で押し付けがましくなくあざとくもない。本当にいい子だった、だから彼女が親友の彼氏のことが好きとか言うような子だとは思わなかったのね。
それにこういうことを言っては何だし、あたしも結城君とは仲いいんだけど、女子が真面目に取り合うような男でもなかったんだけどね」
玲子にとって、博人の低評価は聞くに堪えないほど心をざわめかせるのだが、今は川田の話の続きを聞きたくてしかたなかったので、あまりそのことを気にしないで済んだ。
「怜菜が結城君のことが好きなことを、麻季や結城君は知っているのって聞いてみたの。知っているわけないんだろうなあとは思ったけど。そしたら怜菜、それは人付き合いが苦手な麻季の恋を邪魔することになるし、結城さんは自分のことなんか知りもしないし、自分はそれでいいんですって言うの。
本当にこの子はいい子だなって思った。確かにピアノ演奏の能力という点ではあまり目立たないけど、両親が共に弁護士の家庭で育ち、実のお兄さんも弁護士をしているという境遇で、何が何でも演奏にしがみつく必要はないのだろうし。こういう子はいいお嫁さんになるのだろうから、結城君への恋愛感情も昔のいい思い出として昇華されるといいなと思ったの。だから、あたしはこのときはあまり心配していなかった。
むしろ、対話性難聴だという麻季の方が心配だったけど、それも杞憂だったみたい。結城君と麻季は相変わらず大騒動を起こしながらも結局は仲のいいカップルとして過ごし、結城君が音楽の出版社に就職したタイミングで、二人は無事に結婚したのだから」
「このときはって・・・・・・」
「そうなの。あたしも、出身校の中高一貫高の音楽の教師として採用されたんでね、しばらくは麻季や怜菜のことなど気にする余裕はなかったのね。何しろ、新米教師にとっては毎日が戦争みたいでさ、大学時代の恋の鞘当のことなんかすっかりと記憶から消えていたの。
それでね、まあ、あたしのことなんか興味ないでしょうけど、あたしもね」
実際、川田のことには興味はなかったけど、玲子も「そんなことないです」と言うだけの礼儀は心得ていた。それで川田は気を良くしたのか話を続けた。
「あたしは同じ学校に勤めていた今の旦那、彼は数学の教師なんだけど、その彼と結婚することになったの。うちの学校は、同じ学校の教職員同士が結婚すると、どちらかが同じ法人の他の学校に転出するルールとなっていてね、あたしが職場を異動して今の学校に来たわけ。ここで娘を授かってさ、とにかく早いうちにピアノだけは教えておこうと思ったのね」
「まあ、小学校入学前から習った方がいいですよね」
自分もそうだったので玲子は川田に同意したが、この話がどこに向かっているのかよくわからなかった。
「それで、あたしは娘を大学時代の恩師が開いているピアノ教室に連れて行ったの。佐々木先生の教室ね。佐々木って先代の方の先生だけど」
佐々木教授は東洋音大の教授だが、ピアノ教室で後進を指導しているのは、退職前は東洋音大で教えていた母親の方だろう。
「娘を連れて佐々木教室に行ったんだけど、受付に麻季がいたのよ。偶然もいいとこでびっくりした。麻季に声をかけたら、少しびっくりしたみたいだけどすぐにあいさつしてくれたの。相変わらず綺麗なままだったなあ。娘を預けたいと言ったら、麻季はすぐに佐々木先生に伝えに行ってくれたの。あたしも佐々木先生には師事していたから、先生はすぐに出てきてくれて、自分が娘の演奏を聴いてくれるって言ってくれたの。うちの子ってピアノの演奏に関しては誰に聞いてもこの先伸びるんじゃないって言ってくれていたのね」
ひょっとして、このまま川田のお嬢さんの自慢話になるのかと玲子は内心恐れていたが、幸い話は麻季のことに戻った。
「先生が美希、美希って娘のことだけど、美希を連れて行って演奏を見てもらっている間、麻季と話ししてたのよ。気楽に大学時代の話とかね。あと、麻季は結城君との新婚生活ののろけとか聞かされたりね。正直、美希が帰ってくるまでも時間つぶしだったんだ。そのときはそれで麻季と別れたんだけど、その後も美希の佐々木教室への送り迎えの際に、麻季と一言二言あいさつや世間話をするようになったの。そんなとき、ある日、怜菜と偶然会ったのよ。
駅前で買い物した後、怜菜がスーツを着て小脇にブリーフケースを抱えて、駅前でタクシーから降りてきたの。なんかちゃんと社会人やってるんだなあって感じで。すごく久しぶりだったし、怜菜のことは正直、麻季より好きだったから声かけたのね。相変わらずすごく綺麗に微笑むんだなって思った。
で、そのとき怜菜は首都フィルで、っていっても演者じゃなくて事務局で働いているって言ってた。今日はどうしたのって聞いたら、結婚式場の下見だって。お相手はって聞いたらね、『実は先輩もご存知の人で・・・・・・。同じ大学の鈴木先輩です。鈴木雄二さん』って。鈴木雄二のこと知ってたっけ? そうそう東洋音大出身の横フィルの次席チェリスト。この間CDも出たし、テレビにも出てたからだいぶ名前が売れてるもんね。
まさかって思った。どうして? 麻季への嫌がらせ? でも嫌がらせにはならないのよ。麻季は鈴木先輩より結城君を選んだんだから。
鈴木先輩はこの頃、だんだん売れ出しててね、テレビにも顔出したりしててさ、地方オケの次席って感じじゃなかったの。それはいいのだけど、鈴木先輩に関しては、その売れ方が問題だと考えていたのよ。世間にちやほやされるほど、鈴木先輩の技量は高いのかどうか、あたしにはよくわからなかったの。いい演奏家であることには間違いはないのだろうけど、その人気には彼の見た目の良さが相当貢献しているのではないかって。
でも、それはあたしみないな演奏家になれなかった一介の音楽教師が言ったって説得力はないし、何よりも怜菜の婚約者を貶めることになるじゃない。
そんなことより、このときあたしは怜菜のことを、大学時代から「いい人」と皆から言われ続けてきた、その容姿も相まって「天使」とかささやかれていた怜菜の性格を初めて疑ったのよ。なんで怜菜が鈴木先輩と? これだけ不釣り合いな組み合わせは信じがたい。この組み合わせが成り立つとすれば、その理由はよくわからないけど怜菜が麻季に対して何らかの感情を、それが善意にせよ悪意にせよ、そういう感情を抱いていて、そのために麻季の元彼(麻季本人は否定していたけど)に近づいたということくらいしか考えられない。それくらい怜菜と遊び人の鈴木先輩とのカップルは考えづらかったのよ。
でもそんな不確かなことを怜菜には言えないので、あたしはどうやって鈴木先輩と仲良くなったのって聞いた。そしたら、「地方のオケ同士で、交流会があって。そこで再会したっていうか」って言ってた。
この子は何か麻季に対して思うところがあるのか。あたしはそう考えたけど、考えすぎのような気もしてきたのね。「じゃあ、彼を待たせちゃいますので、もう行きますね」そう言って怜菜は急ぎ足で去って行ったの。まるで長くあたしと話すのを避けるようにね。
そのときね、あたしは怜菜の性格のこと、実は誰も正確に把握できてないんじゃないかなと思った。つまり、怜菜が天心無垢で聖女のようとか祭り上げていたのは、大学時代の友人やあたしたちサークの先輩で、そういうイメージには彼女自身には何の責任もない。そう考えると、怜菜が結城君を奪った麻季に含むところがあったとしても不思議はないのかもしれないね。
次の日、佐々木教室に娘を送っていったあたしは、麻季に怜菜の結婚のことを聞いてみた。そしたらあの子、怜菜の結婚のこと全然知らなかったんだって。けっこうショックを受けていたよ。
「・・・・・・そうなんですか? わたし聞いてないです」って。
怜菜も水くさいなあと思うところだったけど、怜菜の相手が鈴木雄二だと考えると、その結婚自体と結婚を麻季に話さなかったことに何らかの意味というか意図があるのかもしれないね。
「怜菜ってどういう人と結婚したんですか」って麻季に聞かれたのでまさか嘘もつけないから、鈴木雄二さんっていう東洋音大の先輩だよって、麻季の元彼とか知らなかった振りをして教えた。そうして麻季の表情を観察したんだけど、あからさまに動揺したりする様子はなかったな。うまく感情を隠していたとしたら別だけど。
そこで佐々木先生が娘を連れて戻ってきたんで、怜菜の結婚の話はそれで終わったんだけどね」
玲子叔母さんの話は唐突に終わった。
「以上、おしまい。また聞きだからね。真偽のほどは保証できないよ」
「何でこんな中途半端なところで話やめちゃうのよ」
明日香が不服そうに叔母さんに抗議した。口に出して同調はしなかったけど、僕も内心は明日香と同じように感じていた。
怜菜さんと鈴木雄二という人の間に生まれた奈緒は有希のいとこだが、僕とは血が繋がっていない。そうした有希由来の情報は、叔母さんの話でだいぶ信憑性が増していた。別にこれまで疑っていたわけではなかったが。
僕の本当の母親は精神的に不安定だったこと、そのために父と母の関係は安定的なものではなかったこと、それに、怜菜さんが僕の父親のことを好きで、そして何らかの意図を持って自分の結婚を決めた。
叔母さんから得られた新しい情報はここまでだった。
叔母さんは、この間までの僕たちと同じく、奈緒が父さんと僕の本当の母親の間に生まれたと思い込んでいる。だから怜菜の結婚のことをさほど重要だとは考えていないのだ。
だけど重要なのは、その怜菜さんか、あるいは鈴木雄二なる人物が、自分の娘に「奈緒」と名付けたということなのだ。そしてその事実には、どういう意図が込められていたのかということだ。
奈緒が僕の実の妹ではなく、怜菜さんの娘だということを叔母さんに伝えることなく、これ以上の情報を引き出すことは難しかった。そして、僕と明日香の両親が叔母さんに秘密にしている以上、僕たちが勝手に判断して叔母さんに明かすべきではないだろう。
明日香もそこに思い至ったのか、それ以上はもう叔母さんに文句を言わなかった。
「そんなに昔のことが気になるのなら、いい加減に両親に直接聞きなさいよ」
「うん」
明日香が浮かない顔で答えた。
叔母さんに別れを告げてマンションの外に出ると、冷たい風がほほをなでた。外はもうすっかり暗くなっていて、だいぶ気温も落ちていた。
家に向かって並んで歩いているとき、明日香が身震いしたことに気づいた。
「寒い?」
「ちょっとね」
いろいろあったわだかまりは消えてなくなったわけではないけど、叔母さんの話を聞いたことが感情面で緩衝材のような役割をはたしてくれたようだ。核心を突くような収穫はなかったけど、来てよかったと僕は思った。
ただ、だからといって、わだかまっていたことを直接言葉にすることは、いぜんとして難しかった。
渋沢と寝たの? とか渋沢のことが好きなの? とか。
「今から思うと、有希と知り合った状況っておかしかったなあ」
突然、こちらを見もしないで明日香がぽつりと口にした。
「というか、こうなってくると、池山と知り合ったときのことも怪しく思える」
「どういうこと? 池山は今関係ないでしょ」
「最初はね、街で声かけられて。それで彼と付き合い出したの。でも、今考えるといろいろおかしいなって」
「何が?」
「もっと言えばさ。池山と歩いてたら、有希から声かけられて。それが有希と知り合ったきっかけなの」
「有希さんがいきなり明日香に声かけたってこと?」
「違うよ。有希が池山に声かけたの。二人は昔から知り合いなんだって」
「そうなの? 全然そんな感じじゃないな」
「それが偏見なんだよ。池山って見かけと違って、不良とかじゃないし頭もいいの」
それは確か、前に渋沢もそう言っていた。
「池山と有希って、幼なじみみたいなの。それで有希と知り合って仲良くなったんだけど」
「そうだったんだね」
それなら佐々木ピアノ教室の前に池山がいたことも納得できる。あの日、彼は有希に会いに来たのだ。
「それだけじゃなくてさ」
「うん? まだあるの」
「お兄ちゃんのお友だちの」
ああそうか。こう繫がるんだ。
「渋沢と池山って高校の同級生だっけ」
「そうなの。ああ見えて池山って進学校の出身なのよ」
「それで?」
渋沢を知っていることは認めるんだな。僕はそう思った。
「池山があたしに声をかけたり、有希が近づいてきて、奈緒がお兄ちゃんの実の妹じゃないと言い出したりしたのは、ちゃんと意図があるんだよ」
「意図って池山のってこと?」
「ううん。有希の意図。池山は有希を手伝っただけだと思う」
「考えすぎじゃないの?」
それだと池山は最初から明日香のことを好きではなかったことになる。
「有希にいろいろばらされて、あたしがパニックになったでしょ?」
「うん」
「あのときだって、襲われそうになった、そのタイミングで池山が現れて助けてくれたんだけど、今考えるとどっかで隠れてて、あたしが逃げ出してからはあたしのことを追っていたんだと思う。それも有希に頼まれたんじゃないかな」
「おまえのこと好きだったんでしょ」
「好きな振りをしてたのかな。あたしに近づくために。有希に言われて」
「いったい何のために?」
「お兄ちゃんと奈緒をくっつけたいんじゃないの? もう兄妹じゃないんだから付き合えるしね」
「そんな簡単なことじゃないよ」
実際、そんな簡単なことじゃない。僕自身、奈緒にこの事実を告げていいかどうかすらわからないのだ。
「それにおまえと池山が付き合うと、どうして僕と奈緒がくっつくんだよ。そもそも、おまえが池山と付き合い出したのって、僕が奈緒と出会う前だぞ」
「細かいことはわからないけど、有希の行動には何か意味があることは確かだと思うよ。それに彼女は奈緒のいとこらしいし、いろいろ昔のことも知っているのかも」
「明日香はもうあまり有希さんと関わらない方がいいかもね」
「そうかも」
明日香は薄く笑ったが、それは全然そう思っている様子ではなかった。とりあえず僕に合わせてくれているだけで。
そろそろ渋沢のことを聞かなくては。
明日香と会話を続けながら僕はそう思った。明日香と奈緒や有希、それに池山の話をしていても、僕と明日香にとって重要な話をしているにも関わらず、僕は渋沢に抱き寄せられる明日香の姿を妄想してばかりいたから。
そう思って明日香の様子を覗うと、彼女はスマホを眺めていた。
「どううかした?」
「ママとパパ、もう家にいるみたい。なんで二人して家を留守にしてるのって、ママからLINEきた」
「なんでって、そんなに遅い時間じゃないのに」
「というか、ママとパパ帰宅早くない?」
「これから帰るって返事しておけば?」
「わかった、あれ」
「どうした?」
明日香がスマホを僕の目の前に差し出した。
「これ」
明日香が返事をする前に、続けて母さんからメッセージが届いていた。
『玲子から連絡あったよ。いろいろ昔の話を玲子から聞き出してるんだって? 知りたいなら教えてあげるから早く帰っておいで。パパも全部話そうって言ってるし』
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