カンムル
Ironic
カンムル
太陽の照らす真っ青な空の下、木々は緑風に騒めき小鳥たちはその音を聞きながらすやすやと眠っている。初夏、ひと眠りするにはこれ以上ない季節だろう。少なくともこの森では「初夏、ののしりてよきは風のみなり」という暗黙の了解が立てられるほどであり、森の住民たちも皆それに納得し狩りも狩られもしない平和なひと時に身を預けている。
ただ一羽を除いて。
一瞬、どうっという風切り音とともに黒い稲妻のような物が通った。その音と勢いは先ほどまで巣の中で幸せそうに眠っていた雛鳥を叩き起こし、おままごとをしていた五人姉妹の子ネズミたちを小道具ごとひっくり返してしまった。それでも稲妻は止まることを知らぬまま森中を飛び回る。あんまり音の大きいものだから森の住民は難聴のオオワシじいさん以外みんな目が覚めてしまい、怒り狂った声で、
「おおいおい!今日もどうどうとうるさいぞ!カンムル!」
と叫んだ。
すると稲妻はその速さを維持したまま今度は太陽へ急上昇した。どんどん太陽に近づき音も遠くなる。そして稲妻は遂に森の住民からはただの黒点に見えるほどにまで高く飛び、下々を見下ろしていた。
黒点の名はカンムル。鷹よりも高く、ハヤブサよりも速く飛ぶことから神速という意味のカンムルという名が付けられた。
カンムルは誰も吸うことのできない天空の空気を思いっきり吸うと、あんなにも澄み切った空気をいとも簡単にただの二酸化炭素の塊へと変え吐き出し答える。
「何だい何だいみんなして!もっと近くに来てもらわないとよく聞こえないよ。それともこんなに高く飛べないのかい?あぁ、なんて可哀そうな奴らだ。こんなに美味しい空気も味わえずおまけにこの素晴らしい眺めを拝むことすら君たちには叶わないなんて!あっはっはっはっ!」
そんな声を聞いた森の住民たちはもうカンカン!その怒りは広大な森をカンムルへの罵倒で覆ってしまった。しかし当のカンムルときたら自分に向かい四方八方から飛んでくる罵倒の嵐をなんとも嬉しそうに聴いているではないか。どうやら彼は悪口が嫉妬から生まれることを知っているようだ。ここにいるみんな、カンムルの様に高く速く飛びたい!そう心の底で思っているからこの風は吹き荒れる。そのことに彼は一人気付いている、つもりでいる。
そうしてカンムルが嵐に飲まれ悦に浸っていると、この森で最も高い杉の木の頂上まで年老いた梟が一羽悠然と翼を広げゆっくりと上って行った。キビタキのトゥナシがその姿を捉えると得意の早口で、
「おぉい!みんなあの杉の木を見てみろ!この森の長、シマフクロウのエカシ様だ!」
と呼びかける。
その声を聞いた森の住民たちは見上げた首はそのまま、段々とカンムルへ向けられた視線はエカシへと向けられるようになった。エカシは巨大杉の木の天辺で満月のように円く黄色い瞳をカンムルへと突き刺す。どうやら鳥も人間も大して変わらないらしい。彼の獲物を狩るような瞳はとうとう森中の鳥たちを黙らせた。
空は変わらず青いまま。しんっと静まり返った森の中、誰もがエカシの迫力に憧憬を抱く中ただ一羽だけは圧に押されながらも己の瞳に怒りの炎を灯している。カンムルだ。先ほどまでの愉快な気持ちなぞとうに燃え尽きている。
「お前たちはあんな老鳥の何が良いんだ!過去に縋ってただ死に行くだけの鳥に、なんで憧れているんだ!そんな奴より俺を見ろよ。俺にはあいつと違って未来がある。しかもこの翼があればどこへでも行けるんだぞ!」
「ではそこから降りてみてはどうかね?」
静かな声。だがか細いのではない。カンムルの怒声を切り裂き森中に響き渡るほど力強く、それでいてひどく澄んだ声。妬みや怒りなどの感情は一切ない。その声にカンムルはまたも押される。だが怯みはしなかった。
「そっちがここまで飛んで来いよ!俺以上に能力のない奴が俺に指図するんじゃない!」
「そう檄を飛ばすな。私は昔から目が良いものでな、お前の容姿は私だけがわかっている。皆が見たいのはお前の容姿だ。カンムル。神速の意を持つお前はさぞ美しい翼を広げているのであろう…と」
エカシは微かに笑みを浮かべながら、今度は下の鳥たちに向かい口を開く。
「この中にカンムルの姿を一度でも見たことのある者は声を上げよ」
しかし声はいつまでたっても上がらなかった。それどころか鳥たちは仲間同士でこそこそと何か話しているようであった。この声、アオサギの夫婦だ。
「カンムルの姿、お前は知っているかい?」
「いいや知らねぇ。なんせあんなに高く速く飛ぶもんだからよく見えねぇんだよ」
その声を聞きエカシは頷くと再度カンムルへと向き合う。
「どうやら皆、お前の翼の色すら知らないらしい。カンムル、お前はなぜこうまでして己の姿を見せない?」
「それ…は」
このままじゃあいつにすべて言われる。答えが、真実が。
俺の、本性が。
嫌だ嫌だと思うばかりで頭の中は一向に思考を始めない。そんな様子のカンムルを」エカシは見逃すはずがない。
「どうして言葉が詰まる?それは真実を言ってはならないからではないか?つまり…」
「あぁ!やめろやめろやめろ!」
もう逃げ出したい。飛び去ってしまいたい。
「己の姿が醜いからではないか!」
「あ…あ…。」
その声を最後にカンムルの意識は途絶えた。
目を覚ますと、辺りはすっかり暗くなっていた。照らすのは黄色い満月のみ。どうやら気を失っていたらしい。運良く、体は無数の枝と葉に支えられている。この抱擁感はオークの木だろう。幼い頃はよくここで昼寝したものだ。再び目を閉じ夢現。
夢を見ていた。あの頃、翼のなかった雛鳥だった自分、翼が生え始めその異様さに親や兄弟から気味悪がられ時に虐められていた自分、羽を何度も何度も毟り病気になり可愛らしい顔も出来物だらけになってしまった自分、必死に努力して誰にも負けない翼を手にしてしまった自分。
目を開け翼を見る。腐食しきったバッタのような緑色の羽に黒い斑点がぼつぼつと浮かんでいている。どんな鳥が見ても醜いと呼ぶであろう翼。
「ぜんぶ…俺の所為じゃないか」
夢は嫌いだ。心の奥に閉まっていたものをいとも簡単にこじ開けてくる。飛び続けるために隠してきたのに、誰よりも上にいるために忘れようとしていたのに。
「目が、覚めたかい?」
その声にすぐさま現実へと引き戻される。穏やかで毒のないその声の持ち主は、エカシであった。だが先ほどとは何かも違う。エカシはカンムルよりもずっと上の枝に止まりじっと彼を見下ろしていた。カンムルは咄嗟に口を開く。
「あ
「今からお前に二つ選択肢をやろう、カンムル。皆の前でその醜い姿を晒すか、それともこの森から出ていき一生私たちの前から姿を消すか。制限時間は明日の朝まで、日が昇ると同時だ。それまでに決めない、もしくは今日と同様に森の秩序を乱すような真似をした時は私がお前を食い殺す。よいな?」
カンムルの声を遮り淡々とそう告げると言うことがなくなったのかエカシは翼を広げ音一つ立てず杉の木へと飛び立ってしまった。どんどん遠くどんどん小さく、遂に目視出来ないほどに遠くへ行ってしまった。カンムルはエカシに痰を吐くように満月をキッと睨みつけた。昔から自分以上に目立つものは嫌いだった。
重い足取りで寝床の木へ帰ると入口に一匹のカエルが止まっていた。カエルはカンムルに気が付くとこっちに手を振る。
「おおい、大丈夫だったかよう?」
カンムルの唯一の友人、アマガエルのダフニスだった。
「うるさいなぁダフニス。今はお前と喋る気分じゃない。さっさと帰れ!」
「なんだと!僕がここまで上るのにどれだけ苦労したか知らないくせに!…まぁいいや。お前、気絶した時のことで何か聞きたいことでもあるかい?」
「…落ちた時、俺の顔を他の奴等に見られたか?」
カンムルは嫌々ながら質問する。
「大丈夫。お前、あんな高い所から落ちたもんだから速すぎて僕らには黒い塊にしか見えなかったよ。それよりエカシの旦那には感謝しろよ。お前が落ちた後、みんながお前のことを見ないようにずっと見張っていたんだからな!」
ダフニスはまるで自分のことのように自慢げに答えた。カンムルが打ち負かされた姿を見るのは初めてだったからであろう。
「あいつって優しいのか?」
「優しいに決まってる。特にお前にはね。むしろ甘いくらいだ。お前に与えられた選択肢のとは知ってるさ。それでも甘いと思わないか?お前はずっと飛び回って、エカシさんのところに大量の苦情が入っていたのに。それなのにまだこの森に残っていい選択を与えてくださるなんて」
黙って聞いていればぺらぺらとよく喋る。ダフニスも結局はエカシに畏敬の念を抱いてるのか。こんな話もう聞いていられない!
「やっぱりお前もか!そんなにエカシがいいんなら今ここで食い殺してやる!」
そう言うとカンムルはダフニスをバクっと口の中に入れると一口で飲み込んでしまった。
「心配しなくともお前が大好きなエカシは時期やってくるさ。」
もうすぐ夜明けだ。やるなら今だ。そう思い立つとカンムルは真っすぐそこへ向かった。この森の中で最も高い杉の木、エカシの巣へと。
「はぁっ。はぁっ。」
今、彼はバサバサと荒々しい音を立てながら翼を懸命に振っている。杉の木へといや、真逆の朝日へ向かって。
その後姿、というより朝日に照らされた影をエカシと取り巻きの鳥たちが眺めている。
「いいのですか?エカシさん。あいつはあなたを暗殺しようとしていたのですよ?」
「よい。暗殺をしようとしたのも、私に殺されることを怖れ敗走をしているのもカンムルの選択したことだ。それに夜明けの時にはもうあいつは飛び立っていたろう?」
その言葉に取り巻きは口を閉じる。が、しばらくカンムルの影を眺めているとまた一羽の若鳥が疑問を投じる。
「…あいつ、カンムルはどんな姿をしていましたか?」
エカシは数秒目を閉じそして、
「…美しい鳥だったよ。誰よりも端正な顔立ちで美麗な翼を持ち、そして何も気づけぬ愚かで純粋な心を持っている鳥だよ。」
独り言のようにそう呟いた。
悔しい、悔しい。負けた自分にも腹が立つ。それでもあのままあいつに殺されるよりかはまだ幾分ましだ。
あぁ、このまま遠くに行きたい。誰も行けなず邪魔できず、それでいてすべてを見下ろせる場所。でもどこに行けばいい?まずそんなところあるのか?
もうカンムルは上を知ってしまっているのだ。
「はぁっ。はぁっ。こんなんじゃまともに頭が回らないや。どこかで一休みしないと。」
下を見下ろすとそこには小さな池が一つ、あの森の鳥たちのようにぐっすり眠っていた。
しめしめ。カンムルはヒュッと下に降りると池の水をがぶがぶと飲み始めた。池はたまらず目を覚ますと、カンムルの姿に気が付き悲鳴を上げる。
な、なんでそんな乱暴に僕の水を飲むんだ⁉痛い、痛いよ!」
そんな声にもお構いなしにカンムルは池の水をのどに通す。悲鳴も聞けて一石二鳥だ!
しかし、だからこそカンムルは気が付けなかった。雨雲がどんどん自分に近づいていることに。
そして池の水が空っぽになりフーっと天を仰いだ瞬間、ザーッと勢いよくカンムル目掛け豪雨が襲う。どうやらカンムルは雲が好きだが、雲はカンムルのことが嫌いらしい。少なくとも復讐するときを狙うくらいには。
「うわぁっ!」
カンムルはたまらず逃げようとするが、どれだけ翼を振っても汗が滝のように流れるだけで一向に飛べない。この豪雨で羽が濡れて翼が重くなっているのとたらふく水を飲んだことで自分自身も重くなっているからだ!
だが災難はこれだけでは終わらない。
一羽のカラスが、雨が一羽の鳥と一つの小池に降り注がれているところを不思議そうにじいっと見ていた。カラスの名はユポ。例の森だとカンムルとか言うよそ者の所為で満足に翼を広げられなかったため外に出てきていたのだ。
「あの声、やっぱりそうだ。カンムルだ!」
ユポは雨に打たれ惨めに蹲っている鳥がカンムルだと気付くと躊躇もなしにカンムルへと急降下、そして醜い翼を啄み始めた。
「お、お前、カラスか。俺の翼はどんな鳥の翼よりもずっと価値が高いんだぞ。お前の翼なんて腐肉を探すためにあるような物だろ!なんで無価値が俺の足を引っ張る!」
「お前、今更それを言うか!そんな見窄らしい翼生やしてまだ俺の上に立ってるつもりなのか!こいつは哀れだみっともない。自分が未来のない『負け犬』だってことにまだ気付けてないのか」
ユポは呆れた口調になりながらも更に啄む。もう飛べる翼は毛ほども残っていない。それでもカンムルは声にならない声を汚くまき散らす。それは羽が消えても戦い続けるというカンムルの確固たる意志の表れである。
「…お前、本当に往生際が悪いな。なんだか詰まんなくなってきた。俺はお前が惨めに媚び諂うところが見たかったのに。まぁいいか、どの道お前に未来はないし仲間もいない。飛んでばかりのお前は足も弱いだろ?それじゃもう遠くに行けない。せいぜい地面を舐めながら余生を過ごせ。カァッカァッ」
そう残すと雨雲を突き抜け飛んで行ってしまった。消え行く意識の中薄っすら見えるユポの背を見て悪態を吐く。
俺の方がもっと高く飛べるのに。
まるで雲に乗っているかのようなふわふわとした感覚、これだけでここは紛れもない夢の世界だと確信する。ここは、空の上?まだ意識のはっきりとしないカンムルだった。だが何かが真下をどうっという音とともに通ると、一気に覚醒する。今の音、何度も聞いたことがある。音の行く方を見るとそこにはユポやエカシ が楽しそうに何やら話をしていた。そしてその輪の中央には、恥じらいを捨て醜い翼を広げた一羽の大鳥がいた。大鳥は笑顔のまま話をしている。汚い出来物だらけの顔から浮かぶ笑顔はお世辞にも良いものとは言えない。それでも周りはそのことに一切触れようとはしない。
あぁきっとあの鳥は、俺だ。じゃあここは、この世界は俺の…俺の…。
違う。認めたくない。こんなものが自分の『理想』だなんて。
いつの間にかあの浮遊感は消え沈むように落下していた。ゆっくりと加速しながら死が迫る。
「ぶはぁっ!」
悪夢から目覚めたように飛び上るとそこは何かの巣の中だった。外からは眩しい朝日がにたにたと笑っている。辺りを見回すと隣で一羽の老いたアカゲラが眠っていた。だが体が老いていてもその毛並みは美しく赤い頭のてっぺんも色褪せていない。
「おい起きろアカゲラ!ここはどこだ?俺はどれだけ寝ていた?」
カンムルは八つ当たりに近い怒鳴り声を上げる。もう己の翼を見ようとはしなかった。
「ん?あぁ、もう起きていたのか。ここは私の巣だよ。そして私はアカゲラのサウレ。君は昨日の夕方頃ボロボロな姿で倒れていてね。あのままじゃ死んでしまうと思って私がここまでが運んでいったんだよ。調子はどうかな?」
「うるさい!おいぼれが恩着せがましく俺に話しかけるんじゃない!俺はもう行く」
そう言い捨てると折れた翼の痛みに耐えながら必死に巣の出口までよじ登る。その背中にサウレは少し驚いた表情を浮かべた後冷たい視線を送る。無情の優しさがこうも否定されるとは思っていなかった。
「どうかあの子に愛を教える子が現れればよいものどけど」
声はカンムルへと届くことなく消えてしまった。
「ぐへぇっ!」
巣の出口まで来たカンムル。飛ぼうと翼を広げたがやはり現実はそう甘くはない。巣から真っ逆さまに落っこちて地面に叩きつけられてしまった。
ぐらぐらとする視界の中でどこへ行こうか、回らない頭を懸命に回す。自分の醜態を見られるのはもうこりごりだ。少しずつ不安感が頭を蝕み始めたその時、何かが聞こえてきた。
どっどど どっどど
何の音だろうか。動物の群れの大移動か、それとも竜巻か。わからないがとにかくそこへ行こう。きっと見たことのないすごいものがある。
音のする方へとゆっくり歩を進める。どんどん音は大きくなりそれと同時に動物の群れでも竜巻でもないのがわかる。そんなものよりずっと力強くずっと生命を拒否している。そこへ向かおうとしている自分は果たして生きているのか、もうどうでもいい。
どおっどざぁどざ
森を抜ける。音が目の前まで迫る。カンムルは息を飲む。
圧倒的。全てを飲み込み白が青をもみくちゃにする、視界一面を埋め尽くす滝がそこにはあった。生物を拒むその姿は空に似ている。
初めて見る世界、この世界にきっと自分は必要とされていない。でも、それでも飛びたい、この滝の上を。空との間を、駆け回りたい。
足が地を離れていることに気付かぬまま空の吐き出す空気を、滝に弾ける気泡を吸い込む。誰もいない世界でただ理解する。。
「…ようやく気付けた。俺の居場所なんて、どこにもないんだ。」
折れた翼で飛ぶのはもう限界だ。夢の時と同じようにゆっくりと落ちる。でも今度は覚めない。落下地点には悪魔の口。荒波にもまれさらに下へ、下へ。細い足はあまりにもあっさりと折れ嘴もあっけなく割れる。もういい、もういいんだ。
段々流れは遅くなり空が海のようにゆらゆらと揺れている。夢のような時間はすぐに終わり気付くと川の中で仰向けになって流されていた。意識があるのがまるで拷問みたいだ。これならもういっそのこと殺してくれ。瞼を閉じその時を待つ。
「…え。ねぇ、ねぇ起きて。君鳥なんだから死んじゃうよ?」
突然の呼びかけに閉じたばかりの瞼がぱっと開く。見ると一匹の小魚が不安そうな顔をカンムルの目元をつんつんと突いている。
「もう…死んでもいい。こんな体じゃどうせ」
小魚は何か気付いたらしい。この哀れな鳥の人生を。目の前の死を諦め暖かい笑顔を浮かべ問いかける。
「話聞くよ。今まで吐き出せなかったもの、あるんじゃない?」
初めて触れる優しさ。いや、これは初めてじゃない。今まで目を逸らし続けていたんだ。
涙が川に溶ける。
「…っ。俺は、いつまでも変わらない。あいつの言ったとおりだ。何もできない、思い出しかない『負け犬』だ。周りより高く飛べるだけ残すものもあいてもいないんだ」
「そんなことはないよ。今からでもきっと残せるものがある。ねぇ、君飛べるんでしょ?空はどんな味がするの?僕に教えてよ」
その言葉にはっと息を吐く。
「僕はずっと川の中で生活していたからさ、空は見ることはできても空気は吸ったことがないんだよ。教えてよ。空の味は?空は冷たい?飛ぶってどんな気持ち?」
あぁ、こんなにならないと直視できないなんて。でも、もう一人じゃない。
「…そうだな、空の空気はどんなものよりも美味しいよ。なんせ誰も吸った言雄がないんだ」
カンムルはゆっくりと口を開くと自分の体が海へ流されその一部になるまでいつまでも思い出を語り続けた。
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