第01話 ~隠者半生録~
俺、「
「見ろよ、コレ!」
目の前にいるメガネ男子に、スマホを突き出す。
「な、
「この前のバイト代を全部つぎ込んだんだ。そのお陰で、最推しが引けてQOL上がりっぱなしだぜ!」
休み時間。バイト代を全てソシャゲーの課金につぎ込んだことを、クラスの隅っこで男友達二人にひけらかすほどには生粋の
「渚沙はいいよなぁ。親がバイト認めてくれて」
「へっへっへ。実のところは部活するのが嫌だったってだけなんだけどな~」
「はぁ。なーんでバイトか部活かの選択肢があんだよ。ほんとにお前の家庭が羨ましいわ。オレなんて、昨日の午後練が七時まで続いたんだぜ。そのせいで碧獣のデイリー回れなかったし。はぁ、そろそろ本気で辞めたくなってきてるわ。冗談だけどな」
碧獣とは、「碧羅の獣」という今話題のオープンワールドRPGのことだ。ちなみに、今一緒に話しているのは陰キャ仲間の「
俺達は間違いなく陰属性、称号は「
進級と同時にクラス替えがあり、偶然一緒のクラスになってからというもの、毎日と言っていいほどこの三人組で集まっている。
「確か卓は野球部……だったよな」
「ああ。顧問はいかついし、先輩は怖いし……はぁ」
「なんか、高校生になってから上下関係とかはっきりしてきてさぁ。中学生ン時みたいにアットホームには行かないよ、ホント。やっぱ帰宅部一択だよね!」
「全くだ。卓、すみやかな退部を検討するべきだ」
ビシッ――と、卓に向かって人差し指を突き出す。
「あぁ、考えとくよ……あ、そうだ。この前買った乙姫ちゃんのファイルとキーホルダー、お前らにも見せてやるよ」
卓が机からいくつか小物を引っ張り出し、こちらで広げる。ファイルが二枚、そしてキーホルダーが三つ。そこに描かれているのは「
「おっ。卓ちゃんも推し活捗ってるねぇ」
「ああ。部活帰りに聴く配信が至福でな……その為に部活やってるまであるわ」
「ご苦労なこった。まーでも、疲れた時に推しの声聞くと癒されるのは分かるよ。俺もバイトから帰ってへとへとの時に、推しの声聞きながらゲームするのは幸せだな」
そんな陰オーラがずもももと沸き立つ空間から少し離れたところに。一人の黒髪ロングの生徒の姿がある。
「……そーいや渚ちゃん。リアルの推し活はどーなってるの~?」
「ば、ばっか。俺のはそんなんじゃねえよ」
「そんなこと言って、さっきから視線があっちこっち行き来してるけど」
「そ、それは……仕方ないだろ。気になるんだよ」
「ははは。渚沙は本当に天沢さんが――むぐっ」
「ああ、卓。大丈夫だ、その先は言わなくていい」
卓の口を右手で塞ぐ。
「――ぷはっ。悪い、思わず口に出て……って、おい、あれ……」
卓は青ざめた様子で、遠くを指差す。その先には――。
「ちょっと、渚ちゃん。天沢さん、コッチ見てるよ」
「えっ!? ――わ、マジだ……」
頬杖を付き、虚ろな目でこちらを見るのは、「
その性格は掴みどころがなく、天沢さんについては謎が多い。いや、こういうミステリアスなところこそ、俺が惹かれたポイントでもあるんだが。
「ねっ。天沢さん、何見てんの?」
「……別に」
このクラスにも俗に言う「
「音無クン、天沢さんに話しかけてるねぇ。渚ちゃん的に今の心境は?」
「……ふぅ。別に」
「僕は恋心とか、よくわかんないけどさ~。後悔しないように、自分の思いにはっきりとけじめをつけるのって大事だと思うんだよね~。恋愛運は使い果たさないと、新しく回ってこないんだよ?」
「裕二。ちなみにそれは誰の受け売りなんだ?」
「昨日テレビで見たのさ! 恋占いのヤツね!」
「……お前、ほんとそういうの好きだよな……ヤッター高岡だっけか」
「お、そうそう! 卓ちゃんも見てんの~?」
「そんなの見ねえわ。オレは乙姫ちゃん単推しだから恋愛とかキョーミないな」
二人のやり取りを聞き流し、天沢さんの方を見る。
「ねね、今日俺らカラオケ行くんだけどさ。良かったら天沢さんもどうよ」
「……興味ない、かな。うん」
「そっかぁー……。じゃ、気が変わったらいつでも話しかけてよ」
「…………」
「あっ……あはは、じゃ、またね」
ただいま、現在進行形で。音無の次のターゲットは天沢さんに向いている。
その天沢さんというのは。
……俺が、密かに思いを寄せる相手である。
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