キラキラへの第一歩

 『皆さん、こんにちは!』

 『空へはばたく鳥の子、雛の子』

 『貴方の下へ飛んでいく』

 『椋鳥ひより、です!』


 いつもの挨拶と共に配信を始める。今までと違うのは実家の物置から引っ張り出してきたアコギがある事だ。捨てずにいてくれてありがとう、我が父よ。


 視聴者数は1。

 間違いない。鬼頭先輩、いや『わぁるふぁ』だ。


「今日はサムネの通り!アコギ弾いていきますよ~。あ、でも私、これを触るの七年……八年ぶり?だから、ヘタクソでもご勘弁をっ」


 予防線を張っておく、これで言い訳が出来る。誰に、って?そりゃ勿論、いま私を監視してる人に対してだよ!


「えーっと」


 弦を弾くとポロンと音が響く。しかしプロみたいな演奏は出来ないし、音大卒業者みたいに知識もない。そしてぶきっちょなので指が攣りそうです……いや、攣った!痛い!


「痛たたたっ、指っ、指攣った……!」


 ぐおおお……っ!悶絶!普段使わない筋肉だから当然かっ!


≪初見。見事に指攣ってて草≫


 !?え、初見の視聴者!?それにコメント!?

 先輩じゃないよね、マジで?


「い、いやぁ、八年ぶりなもので~」

≪それなら、持って鳴らせるだけで上等じゃん≫

「そう言って頂けると、めちゃ嬉しいです~。うぉーん」


 キーを押す、配信画面に映る椋鳥ひよりが感激の涙を流した。

 初期投資を贅沢につぎ込んだので、オリジナルの表情もエフェクトも準備万端なのさっ。お財布のライフポイントを犠牲にして得た力なのだっ!


≪初見っす~、アコギむずいよね~≫

≪ですよね~、あ、初見です≫

「わ、わ、ようこそ我が配信へ!」


 テンパりテンパり。

 視聴者数は6、うち一人は先輩だから純粋な視聴者は五人。そのうちの三人がコメントをしてくれている。しかも全員が初見さん。なんという事だ!


 手を広げるのも重要だけど、それよりもコアな視聴者を。喫茶店での改善会議で先輩から言われた事。それはつまり『特定の属性』を持つ人に刺さる配信をしろという事だ。


 私の場合はそれが『へたくそなアコギ』だったのだ。

 重要なのはアコギを弾く事ではなく、へたくそである事。昔に手を出して失敗した、ブランクはあるけど懐かしくて知識はある。そんな狭い範囲の人を狙ったのだ。


 一人で辛い思いをしながら喋っているだけだった今までとは違って、今日の配信は視聴者さん達とのやり取りで笑いに溢れていた。およそ三十分。指が攣りまくりで限界となった事でいつもよりずっと短い時間で配信は終了する。


 不動の数字だった10が今日、13に変わった。


 小さな一歩、でも大きな前進。


 こうして私はようやくV-Waverになれたのだ。



― 完 ―

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ヴァーチャルでリアルなV配信 ~キラキラ輝く明日を目指して~ 和扇 @wasen

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