セミが鳴き止むまでには

梨詩修史

第1話セミが鳴き止むまでには

僕はセミ。

あり達からはセミくんなんて呼ばれているんだ。

僕はいつもここで鳴いていたよ。


うーんと大きな庭に緑の草がいっぱい茂った少し小さな古いお家の木の下で。


ある日、僕はまだお日様が昇りきった頃に大好きな木の下で鳴いていたんだ。


そしたら、木のそばの窓から白い綺麗なネコが見えたんだ。


ふわふわなしっぽにまるまると太ったおなかだけど、お顔は凛とした体中真っ白のネコ。


こんなに近くにで鳴いているのに僕の声が聞こえないのかな。


あの子は起きたらどんな顔をしているのかな。


僕は起こしたくなった。


お話したくなったんだ。


あの白い綺麗な子の目覚めたお顔を眺めながら。

お腹の底を力の限り震わせて鳴いてみる。


「みみーん。みみーん。」


あの子はそれでも起きない。


窓の枠に足を4本引っかけて、もっとそばで鳴いてみる。


「みみーん。みみーん。」 


あの子はそれでも起きない。


いつもとは声色を変えて鳴いてみる。


「み、み、みーん。みーん。みみ。」


あの子はそれでも起きない。


僕に残された夏はあと少し。


それまでにあの子とお話できるかな。


あ、あの子はほっぺにごはんをつけたまま寝ている。


きっとあの子は食いしん坊なんだ。


ごはんですよの音で鳴こう。


そしたらあの子は起きるかもしれない。


「みーん、みちっちっちちちーん。」


食器がちんちんとなるような、そんな声を僕は絞り出したんだ。


むくり。


「ふにゅあー。ふわーわわわ。おなかすいたにゃー。」


あの子がゆっくり伸びをする。


前足をつきだし伸びっとね。


綺麗な小川で見かけるような真ん丸の石ころみたいなクリクリした目に、

ふさふさのお髭と小さくピンっと生えた八重歯。


やっぱり綺麗なネコさんだ。


「ああ、せみの鳴き声だったんだ。」


あの子がぽつりと呟いた。


「初めまして。ぼくはせみ。みんなからはせみくんと呼ばれているよ。」


「初めましてせみくん。

私はネコのネネ。

この窓辺はお日様でぽかぽかして寝心地がいいの。

せみくんも一緒にどう?」


それからしばらく、僕は、

朝は元気いっぱい鳴いて、お昼はネネとお昼寝したんだ。

夜はネネとおしゃべりしながら、

みみーん、にゃみーんと遠くまで声がこだまするようにね。


僕とネネの最後の夏の思い出さ。


「みみーん。じじじ。」


ぽとっ。








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