完全なるツチノコの日
上面
もっと鏡を見て《See more glass》
この年の暑さは記録的だった。日差しは生物に厳しく降り注いでいた。
墓地の石畳は日の光を反射し、生者の生存を許さなかった。
ここに居る二人の男女も日の光に焼かれて、半死半生であった。
「お参りも終わったし、ツチノコを捕まえに行こう」
お盆ということで店を休みにし、
水羊羹の缶詰を墓にお供えし、秒速で回収した。夏の暑さで水羊羹をダメにしたくなかったからだ。
「はい。ですが、その前に水分補給をしましょう」
ワイシャツに黒いネクタイと黒いズボンを履いている。ここまでキッチリとした格好をしてこなくてもいいと
男の名前は
「ツチノコって、食べたらどんな味がするんだろう」
「蛇みたいな味じゃないですかね?」
事の発端は某村でツチノコが発見されたというニュースだった。某村の老人は一度に三匹もツチノコを捕獲し一気に億万長者になった。ツチノコが一度にここまで発見されたことは無い。二匹目のドジョウならぬ、四匹目のツチノコを探しに日本中の人々がT県某村に押し寄せていた。
これを見た
某村の市街地は四方を山に囲まれた平地にある。市街地の駐車場に車を停めて、
「ツチノコの出そうな雰囲気がする」
ツチノコという商機を見出した村人たちはツチノコ饅頭やツチノコクッキー、ツチノコ像などを土産物として販売していた。またツチノコを狩りに来た観光客向けに自動小銃や弾が販売されていた。ツチノコは希少動物ではあるが、蛇の一種とされているため、反撃を受けた場合は毒で死ぬ。ツチノコの持つ毒について研究が進んでいないため、解毒剤は無い。
「どんな雰囲気ですか?」
「
この場面においてウィトゲンシュタインの引用は適切ではないが。
「上手く言語化できないだけじゃないですか」
「ツチノコのラベルの飲み物あるー」
山中にはツチノコを目当てにやってきた観光客がわんさか居た。
木々が七で、観光客が三ほど居た。
「自販機まで山中にある。凄いね」
山中の中腹にあるキャンプ場のような開けた場で
二人は観光客を避けてどんどん山の上に登った。一時間ほど山中を歩いているといつの間にか山を降りていて、気がつくと霧の立ち込める湖畔にたどり着いた。湖畔には塗料の剝げかかったスワンボートや怪しげな釣り人たちや貸しボート屋の怪しげな店主などが居た。
「あっ、仮設トイレある。私、
貸しボート屋の横には仮設トイレが設置されていた。
「河童!?」
河童は一直線に
時速三百キロを越えていた。セスナ機並みの速度だ。それが三体。
素手の河童が二体、
「若いお客さんに湖の者どもが興奮している。お客さん、戦うしかないぞ」
貸しボート屋の店主は冷静に状況を説明してくれた。自分は河童たちに襲われないという確信があるようだった。ちなみに、河童に襲われた人間は腸管を引きずり出されて捕食される。
「邪魔だな……」
これは斬鉄拳という技である。指先を気功で硬化させ、完成形としては鉄を切断する手刀となる。大抵の者は人間の肉を切り裂ける程度までしか極められないまま一生を終えるが、
「ここは私が片付けます」
「あと一体死ねば、湖も大人しくなるだろうよ。だが最後の一体は手強いぞ」
貸しボート屋の店主は粗末な貸しボート屋の奥の冷蔵庫からビール瓶を出しつつ、背後で起きている河童殺戮劇を把握していた。最後の一体は
「河童の姿が見えませんが……」
「光学迷彩だ。攻撃を当てると光学迷彩は解除される」
貸しボート屋の店主は簡単に言うが、見えない相手に如何にして攻撃を当てろというのか。
「がああああああッ!」
電磁パルスブレードによって人体に含まれる水分が蒸発し、背の皮膚が破裂した。
エネルギー兵器を中心とした河童の攻撃は硬気功で防御力を高めた
だが、通用するとはいえそれは皮を裂くだけであり、肉を切り裂けはしない。
裏拳の一撃で
「時間切れか」
貸しボート屋の店主は
「ごめんね、河童の始末任せちゃって」
「構いませんよ」
「背中の怪我も痛そう」
「大丈夫と言いたいところですが、けっこう痛いです」
「ところでお二人さん、湖には興味ないだろうか?あるいは人魚に」
貸しボート屋の店主は二人に話しかけた。最初から半分独り言のような発言を続けていたが。
「いや私たち、ツチノコを探しに来たわけで。人魚には興味ないかな」
「そうだ。それが良い。人魚なんて追わない方が良い。ドブ臭くて食えたものじゃないからな」
貸しボート屋の店主は満足そうに笑った。
「ねえ、子供の名前をつけるとしてどういう名前が良いかな?」
「そうですね。女の子だったら
完全なるツチノコの日 上面 @zx3dxxx
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